白斗の本心02
「君の望む世界が欲しい……?か……」
やっぱり厨二病くさいとは思う。
そんな感じの内容の夢をガッツリ見つつも、凛と胸の内に響き渡る女神さま(?)の声には、日常を乱さずにはいられない魅力があった。
夢というのは、先日に白斗がみた不思議な夢のこと。ただ真っ白な空間に独りで倒れこんでいて、神的なオーラを感じたあと女神さまみたいな声がして……君の望む世界が欲しい?なんてすごいことを問われた。
何なんだろうと思いつつも、白斗は自分が今に不満を持っていることに気づいた。
「考えさせられる夢もあるんだな……すごいな、夢って」
「頭大丈夫?」
「うわっ!なんだ、委員長か……」
突然耳元で幼い女の子の声がした。
ささやくような吐息混じりの優しい音色に、一瞬思考がスパークしたのはいうまでもない。
「何気ひどくないか……?」
「ふふっ、綱牙士くんが焦ってた……珍しいね。何か素敵な夢でもみたの?」
話しかけてきたのは学年の学級委員委員長、若瀬真理奈だった。
小柄ではあるが、しっかりしている。それでも守ってあげたくなるのはかわいらしいしゃべり方のせいだろうか。
くいっと首を傾けてチャームポイントの淡い茶色のパーマがかったボブを揺らし、「綱牙士くん、教えて~」なんて言ってる。
(俺なんかの話聞いてくれるのか……、人気者なのにな)
「綱牙士くんはもっと女の子と仲良くなるべきだよ~。かわいい子いっぱいいるのに」
「女子だってあんまり見られたいわけじゃないはずだ、俺は若瀬だけで十分さ……」
「口説いてる?」
「いや違う」
「やっぱり異世界にいってきて」
「……行けるものなら行ってみたいなー」
間髪ないやり取りに周りはどう思うだろう、と白斗が考えていると若瀬は身を翻して、
「またあとで~バイバイ」
と、行ってしまった。
この高校の裏実力試験、通称「パセレクト」。高校の秩序が悲しい格差によってみだされている。
いえば賄賂、いえばコネ。通常の定期試験では満たせない物を神聖な高等学科でいともかんたんに引きずり出す。
もちろん真面目な生徒はその裏実力試験の存在すら知らないだろう。純粋を金や人を使い、本当のところ実力ではなく周辺の人間関係で「パセレクト」の合格者を定め、特別な扱いを受けさせてやるのだ。それにより周りの者の士気が高まるというが、試験が公正なものであればのことでしかない。
俺は今そんなクソみたいな制度に乗っかろうとしている。そうしなければ、どうしようもない現実に気付いてしまったから……。
白斗の家の家計は一般家庭よりだいぶ窮屈だった。
中学生までは義務教育なのもあり、学費という学費がほとんどかからなかった。
しかし高等学校となれば公立私立に関わらずかかる金額は増えてしまう。そこで、私立高校の奨学生として入り学費を一円たりともかけることなく授業を受ける方向に変えたのだ。
家のためと思いつつもプレッシャーは絶大で
それ故に成績保てていると思っていた。
だが、見通しはかなり雲行きが怪しいしめどもたたなかった。次々襲いくる実力試験はかなり意地が悪いといえた。
何故かたかが定期試験に毎度毎度全科に面接という名の関心・意欲調査があった。初めはこんなものだろうと思っていたのに、金と権力の強い人ほど顕著に成績の違いが現れ出たが白斗は奨学生なりに勉強はしていたので面接で0点でも、残りの8割は取れた。
今まではうまくいっていたのに、ここ最近ますますレベルがあがり面接の重要さが、身に染みてわかった。だから、白斗はどんな手を使ってでも裏実力試験をパスしようとした。
が、ついに横暴な妨害が始まりしまいには普通のテストでさえ評価されなくなりいまにいたる。
「絶対にパスしなきゃ……」
学校ごときではない。
裕福な家庭に育ったあんたらにはわからない。
いくつも挫けそうな悲しい想いで生きてきたことだって今を作る原石であり、深く冷たい傷であることだって。