1 「王様に会ってみた」
俺は今、さっきの可愛いメイドの少女、シェリアと一緒に、王城の廊下を歩いている。いかにも高そうな赤い絨毯が敷かれていて、上を土足で歩くのは申し訳ない気がしてならない。しかも、その廊下なのだが……。
「……長い。どう考えても長い。ていうか、これ不便だろ? いつもこんなに歩いてるの?」
「はい。王の間は城の中心にあるので、仕方ないです」
じゃあなんでこんなでかい城を作ったんだよ。
「で、あとどのくらい?」
もう既に1時間近く歩いているような気がするが、一向に辿り着く気配がしない。
「そうですね……、あと700メートルくらいでしょうか」
「……そうか」
そろそろ気力が尽きそうだ。
「なんかさあ、テレポートみたいなのは出来ないの?」
「ええ。この城の中では、王様を除いて、誰も魔法は使えません」
「へえ……、なるほどね。ふーん、そうか……魔法ねえ」
「魔法がどうかしましたか?」
「あ、いや……」
この世界には魔法があるのか……。まったく、一体何なんだ。俺は本当に異世界にトリップしたのだろうか。でも、……何故? 何もかも分からないことだらけだ。
「着きました」
その時、シェリアは急に立ち止まり、突然言った。
「……あ、ああ、そうか。えっと……、あれ? 700メートルじゃなかったの? 着くの早くない?」
「あ、70メートルの間違いでしたね。すみません」
あ、微笑んだ。可愛い、許す。
「……まあ、短い分には良いけどさ」
7000メートルの間違いでした、とかだったらさすがに笑えないからな。脚が疲労骨折する。
で、辿り着いた扉は……、
「……おお」
素晴らしく輝いていた。ちりばめられた金色の装飾が美しい輝きを放っている。かといって、派手すぎもしない。なんとも表現できないが、なんかもう、扉が一種の芸術と化していた。
シェリアは、その扉の中央をノックした。案外軽い音が響く。
「シェリアです」
「入って」
扉の向こうから声がした。王様、なのだろうか。まるで少年のような声だ。
「ここで少し待っていてください」
「あ……ああ、分かった」
シェリアは頷いて、扉に向き直り、
「失礼します」
扉を開けて中に入った。
「ふう……」
自然に溜息が漏れた。
「なんだか疲れたなあ……」
1時間も廊下を歩かされたせいではない。いや、もちろんそれもあるのだが、むしろ、精神的に疲れた。
――なんだか胸騒ぎがする。当たり前だ、落ち着いていられるわけがない。こんな経験は初めてなのだ。自分がどうなったのか分からない。どこにいるのか分からない。そして、その理由も分からない。
なんだか、急に一人でいるのが怖くなってきた。どうしようもない孤独感を感じ、いてもたってもいられなくなって、扉に耳を近づけてみたが、話し声はまったく聞こえない。
と、その時、不意に扉が開いた。
「お待たせしました。上がってください」
顔を覗かせたのはシェリアだ。
「あ、ああ……、うん。えっと……、し、失礼します」
ふう……、びっくりした。
俺が中に入ると、不思議と勝手に扉が閉まった。
そのままシェリアの後を歩く。部屋は、思っていたほどの広さはなかった。中もかなりシンプルな造りになっていて、無駄なものが全くない。どこか、この城の雰囲気とはかけ離れている。
そして、ついに王様が姿を表した。想像よりずっと若い。繊細な顔の造りをした若い青年で、王様、という雰囲気とはかけ離れている。髭とか生えてないし。
「あ、えっと、こんにちは」
「うん、まあとりあえず座って」
「ど、どうも」
とりあえず、言われるがままに向かいの黒いソファーに座った。
「えっと……、まずは、はじめまして。僕はナギっていう。君の名前は?」
「えっと……、一ノ瀬祐希です」
「イ……イチノセ?」
「ああ、ユウキでいいですよ」
「ユウキ、か。うん、会えてとっても嬉しいよ。あと、喋り方は普通でいいよ」
「あ、うん。分かった」
なんだか拍子抜けだ。王様がこんな軽いやつでこの国は大丈夫なんだろうか。もっとこう、厳ついご老人みたいなのを想像していた。それで、一人称が「ワシ」とかね。
シェリアが机に紅茶を三つ並べて、俺の隣に座った。
「隣、失礼しますね」
「……」
おい近いよ。あんたメイドだろ、何やってんだ。
そして、俺が紅茶を一口すすったあと、ナギが話し始めた。
「えっと……、まず初めに、言わなくちゃならないことがある」
ナギは、真っ直ぐ俺の目を見て言った。
「……何だ?」
「ユウキ、君に残された時間は、あと三日だ」
「……え?」