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2 「そこに現れたのは」

 「こんなところで何をしているのですか?」

 急に後ろから声がした。

 「うわっ!? って、ちょっとやめてくれよ誰だよ……」

 ……後ろを振り返れば、いつからそこにいたのか、銀髪の少女が首をちょこんと可愛らしく傾げて、こちらをまっすぐ見ていた。……ああ、やっと人に会えた。しかし、自然と安堵の溜息をついたのもつかの間。その件の少女が……、

 「あ、メイド服だ……」

 そう、この黒地に白のエプロンとひらひらの独特なワンピース、これはまさにメイドさんだ。ああ、現実にもいたんだ……と一瞬感動したが、ここは恐らく現実ではない。……今は、そのことについて考えるのはやめよう。それよりも……、

 「可愛いな……。やっぱり、メイドちゃんは可愛いっていうのは世界の真理ってわけか……」

 「あの……」

 「あっと、悪い。えっと……、そうだ。ここはどこ?」

 「見れば分かるでしょう? ここは王城前の広場です。……それで、えっと、あなたは誰ですか? ここで一体何を?」

 あれ、なんか雰囲気がヤバくなってきたぞ……?

 「王城……、王の城か。まあそれくらいは確かに見れば分かるな。俺が聞きたいのは……、その、なんだ? んー、まあいい。その話は後にしよう。……で、何だっけ?」

 「あなたは誰ですか、ここで何をしているのですか、と聞きました」

 おお、怒ってる怒ってる。怒った顔も可愛いな。でも目が怖い。やめろよ視線が凍ってるよ。

 「ご、ごめん。俺は……、そうだな、可哀想な迷子の子猫さん、かな。この王城に入りたいんだけど……、いや、その必要はもうないか」

 「……何を言ってるのかさっぱり分かりませんが、あなたが不審者であることは分かりました」

 「不審者って……、俺そんなに不審か?」

 「はい。特に……、」

 と、そのとき突然、強い風が横から吹き込んだ。

 「きゃっ!」

 慌てたようにスカートをおさえるメイドの少女。……何この超お約束イベント。どうしよう、うん、なかったことにしよう。見てない見てない。黒だな……、とか心で呟いたりなんてしてないしてない。

 「み、見ないでくださいっ」

 「あ……、うん、ごめん」

 しまった……、これじゃあ見たことを肯定してるじゃないか。おい、やめろよ……、顔赤くして涙目でこっちみるなよ……。可愛すぎて俺の心がおかしくなりそうだよ……。

 「そ、そうやって目線をちらちら下に下げないでくださいっ。そういうのが不審なんです!」

 しょうがないじゃん! だってスカート短いんだもん。さっきからそよ風に揺れて気をとられてるだけだって。

 「も……、もう一度、聞きます。ちゃんと答えてください。あなたは誰ですか? ここで一体何をしているのですか?」

 「えっと……、俺の名前は一ノ瀬祐希だけど……、いや、名前なんか聞いてもしょうがねーか。どうしてこんなところにいるのかっていう質問には、残念ながら俺も答えられない」

 「何故です? 少なくとも、あなたにとっては重要なことですよ?」

 「違う、知らないんだ。目が覚めたらここにいた、みたいな感じなんだよね、まさに。異世界から召喚された的な。よくあるだろ? ……いや、俺もまだ信じてないけどさ」

 「なるほど、それは興味深いですね……」

 少女が目を細めて俺を睨み始めたので、急に心臓がバクバクしてきた。……怖い。なんだこの圧倒的なオーラは……。さっきと雰囲気が違いすぎる。視線が、まるで俺の心の隅々までもを見透かしているようだ。透き通った綺麗な青い両目からは、体の芯まで凍りそうな、氷のように冷たい視線が……。目を逸らすことなど到底できなかった。だから、精一杯俺も瞬きもせずに視線を受け止めた。

 ……どれくらいの間そのままだったか。俺が涙目になりかけていた頃、少女は俺から目を離した。

 「そうですね……。確かに嘘はついていないようです」

 「な、なんだ……、やっぱり読心術的な何かか? まあどっち道、俺の潔白を分かってもらえて嬉しいな」

 「本来なら、あなたは今頃冥土ですよ?」

 「メイド? ……いや、俺には無理だろ……」

 「……?」

 少女は、また首をちょこんと可愛らしく傾げた。その可愛さに、俺は思わず見とれてしまった。というか最初から見とれている。

 「まあしかし、あなたは本当に迷子の子猫のようですね……。一体どうしたのです?」

 「えっ? ああ……、だから本当に何も覚えてないんだよ。というか……」

 ここはどこなのか。それが知りたい。すると、またしても俺の心を見透かしたように少女が答えた。

 「……あなたは、ここがどこなのか分からないと、そう言うのですね? もしかすると、あの城の名前も、この国の名前も、何もかも」

 「そうだ。だから、教えてほしい。色々と」

 「……」

 少女は、しばし考えるように目を伏せていたが、やがて開いた。

 「分かりました。ユウキ様、とおっしゃいましたね? ユウキ様を王城に案内します。そこで、話を聞きましょう」

 「ホントに? やった! ありがとう。助かるよ。……そうだ、君の名前は?」

 「私はシェリアといいます」

 「シェリア、か。ありがとう、シェリア」

 「ええ」

 シェリアは、赤い扉を押し開けた。……おい、何で開いたんだ。

 そして、二人は王城へ向かい歩き出した。


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