1 「見知らぬ城の前で」
「ここは……、どこだ?」
俺、一ノ瀬祐希は自問する。何故なら、目の前には見たこともない光景が広がっていたから。
――バカでかい城のようなものが、視界の半分以上を占領していた。だが、異常なのは、あり得ないくらいのこのスケール。まず、左右に低めの塀が広がっているのだが、その終わりが見えない。そしてなにより、天に届かんばかりの高さ。雲で隠れているわけでもないのに、頂上が見えない。ブルジュ何とかっていうビルが、確か800メートルくらいで世界一だった気がするが、どう考えても800メートルなんて余裕で超えている。
さらに、この信じられないような高級感は何だ。確か……そう、ヴェルサイユ宮殿だ。まさに、あんな感じ。
……狂気だ。
「って、何だよマジで……、一体何なんだ……?」
そう、ここは一体どこなのか。そして、何故? ……分からないことが多すぎる。激しい混乱の中、俺はただ、目の前にある巨大な城を凝視することしかできなかった。
……夢か? これは夢なのだろうか? いや、夢にしてはあまりに意識がはっきりしすぎている。
……なら異世界か。そんなバカげたことはあまり信じたくないが、信じられない程バカな城が目の前にある。
とりあえず、これは中に入ってみるしかない。ここで待っていても、おそらく無駄だろう。そもそも何を待つのか不明。
俺は少し歩いて、赤い扉の正面に立った。このバカなでかさの城にしては、案外小さい扉だ。とは言っても、高さは5メートルくらいは優にある。早速中に入ろうと、扉を力一杯押した。しかし……、
「……開かねーじゃねーかよ」
扉は、俺の侵入を固く拒んだ。びくともしない。1ミリも動かない。
「おいおい、嫌がらせだろ……。もし俺が本当に異世界に召喚された主人公だったとしても、ストーリーが始まらないだろう」
そういえば、城の扉には普通、城を守る兵士みたいなのが二人立っているようなイメージがあるが……。この城には兵士どころか、人の気配がまったくしない。
――急に孤独感を感じる。もしかすると、今この世界にいるのは、俺一人なのではないか。
どうするか。なんとかしてあの城に入りたい。塀を登って……、いや、無理だ。さっきは低めの塀だと思っていたが、いざ近付いてみると、とうてい登って乗り越せる高さではないことは一目瞭然だ。
ならば他の入口から……、も無理そうだ。目視できる範囲に、そのような扉は見当たらない。もっと先の方にはあるかもしれないが、そんなに遠くまで探しに行く気もしない。
――誰か……。
「こんなところで何をしているのですか?」
急に後ろから声がした。