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It's happy Valentine's day

作者: 冬の箱庭
掲載日:2012/02/14

初投稿です。楽しんでいただけたらいいなと思います。

ここはとある女性の家。ひとりの男子に恋してる乙女の家。

そして今日は2月13日。次の日、つまり明日行われる行事と言えば……


『バレンタインデー』である


彼女はいまチョコを作っていた。好きな人にあげるための、愛を混めたチョコレートを。

「……こんなんでいいのかしら」

自らが作ったチョコを眺めながら、ひとりごちをしていた。



一方その頃、明日2月14日に向けて気を引き締めている非リア充……ではなく、正真正銘、本物のリア充の自宅にて。

「明日バレンタインだな。また大量にチョコ貰うのか〜。いやぁ参ったな〜」

などと、ベットに寝転び片手に電話を持ちながら語るこの男、せいは数知れないほどのイケメンだ。

勉強はトップ、運動は抜群、性格は優しく、明るく、誰にでも人当たりが良いなど、数々も持てる要素を持っている。

『お前なぁ……』

電話の相手はクラスの友達的な相手、森永もりなが。今の彼の気分は惚気話を聞かされる友人その物だ。

彼はイケメンの友達であって、残念な顔、成績、運動能力を持ち合わせている。いわば、脇役の鏡だ。

「明日チョコ持つの手伝ってくれよ。朝から大変でさ〜」

『他人の貰ったチョコを持たされる俺の気持ちがお前にわかるかっ!?』

「お前もチョコ貰えた気分になって良いじゃないか」

『爆発してしまえっ!!』

そんなリア充と非リア充のやり取りが長々と続いた2月13日の夜。

色々な所で、色々な人達が次の日を楽しみにしながら次の日を待つ。


時は過ぎ……2月14日午前9時。




この日の教室はやはりいつもと違う。

何が違うかと言ったら、男子達の態度だ。

当日にキャラを変えたところでチョコをくれるわけは無いのだが、心のどこかにある「紳士的に振舞えばチョコくれるんじゃね?」という

欲望がどこかで渦巻いているのだろう。

雰囲気が違うのは女子も同じだ。男子とは違い、女子同士で友チョコなるものをあげたり、人によってはクラス全員にチョコを配ったりする女子もいる。

リア充同士ならば、まさにバレンタインという日を使い、彼女が彼氏にチョコを上げるという爆発しろ的シチュエーションが少なからずあるわけだ。

他には、この日を期に好きな人に告白しようと考える人も、少なからずいるのかもしれない。

そんな雰囲気の違う今日この日、神戸愛かんべあいもまた、友達にチョコを渡そうと聖を待っているのだった。

幼馴染だから、友達として渡そう、友達として渡そうとずっと考えている。

だが、考えれば考えるほどに気持ちが高鳴り、ドキドキしてしまう。そして頭でシミュレーションを何度も行う。

友達の用に、何気な〜く渡そうと、何度も何度も頭の中でシミレーションする。色んなパターンを考えながら。

そんな事をしていると、ふと教室の扉が開く音が聞こえた。

愛はドキっとしながら扉の方に視線を向けると、そこにはイケメンで、スポーツ万能で、勉強優秀の聖が入ってきた。

そう、彼こそが愛の幼馴染であり、彼女の好きな人なのである。

だが、そんな彼には数々の問題がある。

教室に入ってきた聖の手には、大量のチョコが存在しているのだ。

それ即ち、彼はとてつもない量のチョコを女子から貰っていると言う事だ。

イケメンで、スポーツ万能で、勉強はトップ、さらには人当たりが良いイケメンが、彼女の幼馴染なのだ。

「いや〜参ったな。またこんなに貰ってしまった」

大量のチョコを抱えながら彼は自分の席に座る。そして大量のチョコを机の上に置いた。

「おいおい……去年より増えてんじゃねぇか?」

そこに呆れながら登場したのが前日に電話していた森永だ。

「そうかな? たくさんありすぎて数なんて数えて無いからなぁ」

「……こっちは数える物が一つもねぇっつうの」

二人がそんな会話をしていると、女子の大群が聖の目の前に現れ、森永は吹っ飛ばされていった。

「聖君! チョコ受け取って〜!」

「ずるい〜! 私のチョコも貰って〜!」

などと言いながら聖にチョコを押し付けるように渡す。

「あ、ありがとな」

聖は女子達に微笑みながらそう言うと、女子達はきゃ〜と甘い声を上げる。

「そこの女子達! 俺にくれるチョコは無いのかね!?」

と、そこで吹き飛ばされた森永が、背景がキラキラと光っていそうなカッコいいポーズでそう語りかける。だが、顔は残念である。

「はぁ? 何で私があんたにチョコ上げないといけないのよ」

「そうよ! 聖君の犬奴隷の癖に調子に乗らないでくれる?」

言いたい放題を森永に伝え、女子達は去っていった。

「…………」

決めポーズのまま真っ白になり固まる森永。誰の目から見ても、彼の姿は惨めに写るだろう。

「森永……? 大丈夫か?」

心配そうに声をかける聖。だが、彼が何を言っても森永の心に傷を与えるだけだった。

「聖よぉ……何で俺には女子がよって来ないんだろうなぁ」

元に戻るやいなや、肩をだら〜っとたらしながら、妬むように聖に語りかける。

「それを俺に訊かれても困るけど」

「ですよね〜……」

森永がそこで溜息を着くと、再び聖の前には女子が現れる。

「お、おはよう聖」

手を後ろに回しながら少し緊張した様子で愛が声をかける。

「おはよう愛。見てくれよこのチョコの数」

「あ、うん……。相変わらずだね」

戸惑い気味にそう返し、彼女は言葉を続ける。

「あの……それでさ……」

と、言おうとした所で、

「よう愛。お前も幼馴染がこんなんで苦労するな……」

森永が愛の肩に手を置き、同情するかのようにそう言った。

「おい、それどう言う意味だ」

「お前みたいに人の気持ちをわかってやれないような奴は苦労するなって事だ」

「だから、俺はいつだって他人の気持ちを考え、常に最善の行動をしているつもりだ」

「そう言う意味じゃねぇよ。お前が人に優しいのは知ってるけど、お前の気付いてないところで気持ちに気付いてねぇんだよ」

堂々と言い切った。

「何言ってるのか分からないんだけど」

「はぁ……イケメンの癖に、本当に鈍感な奴だ」

「俺がなにに鈍感だって?」

「色々だよ。鈍感イケメンリア充君」

「言いたい放題言いやがって……愛も何か言ってくれよ」

「え、いや……確かにそうかも……」

森永の意見には同意だった。

「え〜……」

「それよりも愛様、チョコはお作りになられたので御座いましょうか?」

明らかに不自然な口調で森永が問いかける。

「え!? わ、私は……その……」

それに対し思わず緊張が高まり、あたふたとしてしまう。

「その手に持ってるの、もしかしてチョコレートか?」

「――!? ち、違うよ! これは……」

これはと言ったところで、次の言葉が見つからない。

「それは……?」

聖が疑問で催促するように愛に問いかける。

「俺にくれるチィヨコレイトか!?」

森永が何故か目を輝かせながら勝手な事を言い始める。

「な、何で私が森永君にチョコ作らないといけないの?」

全く悪意の無い口調で森永に告げる。

「す、素で返されるほど悲しい物は無い……」

キーンコーンカーンコーンと、ここで朝のホームルームが始まるチャイムが鳴る。それと同時に教師が教室に入ってくる。

「あ……」

「愛、席に戻らないと怒られるぞ」

「う、うん……そうだね……」

結局、数々の邪魔が入り、この時間に愛はチョコを渡す事が出来なかった。



腐れ縁の様な長い関係で繋がってきた幼馴染に、いまさらチョコをあげるのはどうなのか、

いまになって、やっと聖の事が好きだと気がついてチョコを渡すなんて恥ずかしい。でも渡したい。

そんな葛藤が頭の中で起こり、うまく言い出せないでいた。

でも、気持ちを伝えたくて、想いを伝えたくて、チョコを作ってきたのだ。

だから、恥ずかしい気持ちを押さえてでも、聖にチョコを渡そうと再び決意を決めた。



1時間目の授業が終わり、2時間目開始までの休憩時間になる。

相変わらず彼、聖の周りには女子達が群がっている。

チョコを上げる女子達が絶えず聖の目の前に現れ、愛はなかなか聖のもとに行けずにいた。

自分の席に座りながら、聖のことを眺めているしかなかった。

普段なら何も気にせず聖のもとに行き、お話をしたりするのだが、今日という日は全ての人が特別な日、彼女は

聖の周りに群がる女子達を、ただ羨ましく、妬ましく感じながら見ていることしか出来なかった。


その後も似たような状況が続き。聖の周りには常に女子がおり、近づくことすら出来なかった。


昼放課、愛は弁当を食べたながら考え、悩んだ後に、意を決してチョコを渡そうと決めたのだが、教室に聖の姿が無かった。

いつもなら森永と共に弁当を食べているのだが、今日は森永も聖も教室に居なかったのだ。

「何処行ったんだろう……」

チョコを手に持ちながら、聖の席に近づく。

このまま聖の席にチョコを置いておけば、自然と聖は貰ってくれるかもしれない。そう考えた。

でも、それでいいのだろうか。それだと、ただ他のチョコに紛れるだけで、私があげた事に気がつかない。

なら、手紙でも書こうかとも思ったが、でもそれは流石に恥ずかしい……。

聖の席の前で右往左往しながら一人で悩む。悩みに悩む。

「……愛? 何してるんだ?」

「ひゃあ!?」

聖の席の前で一人葛藤していると、後ろから聖が声が聞こえた。驚きながら振り返り、手を後ろに回し思わずチョコを隠してしまう。

「……べ、別に何もして無いよ? どこに行ってたのかなと思ってさ……」

「購買にパンを買いに。今日いろいろあって弁当が無いって言うからさ。買ってきたんだ。んで購買に言ったらいろんな女子に

声掛けられてまたこんなにチョコ貰ったよ。いやぁ、参ったな」

「………」

冷静になり、聖の手元を見てみれば、何十個と言う数のチョコを抱えていた。それを見て、彼女は衝撃を受ける。

朝も見た光景だ。でも、彼女は一度頭の中で考えてしまったせいでどうしてもそれが悔しくて、妬ましく感じたのだ。

「あ、そういえば――」

「私、ちょっと用事あるから……。じゃあね」

聖が何か言おうとした言葉を途中で遮り、彼女は俯き加減で聖の目の前を小走りで走り去って行った。

「………」


聖の事を好きな人はたくさん居る。その中に、可愛い子もたくさん居る。私なんかがチョコあげても、きっと聖は喜んでくれない、

そんなネガティブな気持ちになっていた。いや、むしろ無いほうが不思議だ。

あれだけモテ、あれだけ女子にちやほやされていたら、自分なんかがチョコをあげても喜ぶはずが無い。そう思ってしまうのは仕方無いかもしれない。

「どうせ私はただの幼馴染……聖がチョコ貰ったって、喜ぶはず無いよね……」

彼女は一人屋上で風を受け、空を見上げながら涙を零した。


結局、彼女はチョコを渡せないまま午後の授業を終えてしまった。

やる気が出なくて、どうしても渡す気力が出なくて、実行する事が出来なかった。

そして、あっという間に授業後となってしまった。

この時間になれば、聖にチョコを渡そうと考える人は随分減る。今なら聖のところに行き、チョコを渡すチャンスはある。

でも、あれだけチョコを貰っていれば、もういらないと思うのではないのだろうか、もしかしたら断られるのではないかと考えてしまう。

そう考えると、やっぱりチョコを渡す事が出来ない。

「おい森永、運ぶの手伝ってくれよ」

「何で俺がお前のリア充的な持ち物の手伝いをせにゃならんのだ」

「多いからだよ。お前にしか頼めないから言ってるんだろ? 頼むよ」

「じゃあひとつくれ」

「やらん。女の子達の気持ちを踏みにじるわけにはいかないからな」

「……だったら運んでやんないもんね!」

「拗ねないで手伝ってくれよ〜!」

「はぁ……、しかたねぇなぁ……」

聖と森永のやり取りを自分の席から眺める。どうしようかと頭の中で葛藤しており、ふたりの会話は頭に入って来なかった。

「ならば! この俺が持ってやる代わりに、俺がお前の家に先に着いたら、俺が持たせてもらった分のチョコは俺様の物だ!」

それだけを告げると、森永は紙袋を持ちながら一人で先に走って行ってしまう。

「あ、きたねぇ! 待て森永!」

此処で聖が教室から出て行こうとするのに気が付くと、愛は思わず聖を呼び止める。

「せ、聖!」

「な、何だ? 用事があるなら早くしてくれ!」

「えっと……これ―――」

彼女が口を開こうとした時、再び邪魔が入る。

「聖! いくら運動が万能だとしても差がつきすぎると勝てないぜ! テニス部舐めんなよ!」

「っち!! 悪いな愛、用事ならまた後で聞く!! じゃあな!!」

そう言い捨てると、聖は両手にチョコの入った紙袋を持ったまま、教室を出て走り去ってしまった。

「あ……」

渡せるだろう最後のチャンスは、一人の邪魔のせいで失敗してしまった。



「待ちやがれ森永!!」

「追いつける物なら追いついてみろ! ア〜ッハッハッハ!!」

高笑いをしながら余裕の表情で夕暮れまじかの道を走り抜ける。

「この野郎……!! 調子に乗るなぁ!!」

森永はテニス部に所属し、運動をしているのでそれなりに足の速さなら自信がある。

だが、運動神経の良い聖は、そんな事はお構い無しに、どんどん森永との差を詰めて行く。

「っげ……もう此処まできやがった!! だが、聖の家まではあと少し……俺の足よ!! それまで持ちこたえてくれっ!!」

森永は自分でそんな事を言うと、バランスを崩したのか、盛大に転んだ。

「ばか!! 女子がくれたチョコに傷付くだろ!!」

「俺の心配してくれよ!」

「お前が俺のチョコ持ってなかったらお前の心配してるっての……」

そう言いながらとりあえず聖は逃げないように森永の上にのし掛かり、森永がここまで運んでくれたチョコを奪い返す。

「気が付けば家の目の前じゃないか……。森永、ここまでチョコ運んでくれてありがとな」

聖は引きつった笑顔を森永に見せる。

「ど、どういたしまして……。そ、それと……早くどいて頂けません?」

「ったく……何でチョコ持って帰ってくるだけでこんなに疲れないと行けないんだ……」

「別にいいじゃねぇか。あとは風呂にでも入って、女子がくれたチョコを部屋でのんびり食うぐらいだろ」

「……ば〜か、俺はまだする事が残ってんだよ」

「すること?」

「することってか……したい事かな?」

聖は森永の上から降りると、森永に「じゃあな」と一言告げ、自宅に帰っていった。


              ※


「はぁ……結局渡せなかったなぁ……」

夕暮れの公園、愛はベンチにひとり座りながら溜息をついた。

なぜか分からないけど聖は慌てて出て行き、学校を探してもどこにもおらず、ましてや公園なんかに来てしまったらきっと逢えないだろうなと思い、愛はチョコの包みを開けようとした。

「お〜い! 愛〜!」

しかしその時、公園の入り口から彼女の名前を呼ぶ声が聞こえた。

逢えると思っていなかった聖が、彼女の名前を呼んだのだ。彼女は慌てて手に持ったチョコを隠す。

「や、やっと見つけた……。どこ行ったのかと思ってずっと探してたんだぞ……?」

愛の前まで来ると、肩で息をしながら聖はそう言った。

愛は動揺しない様に気を付けながら聖に問いかける。

「な、なに? またチョコの自慢でもしにきたの?」

「別に最初からそんな事してないだろ? 貰ったのは全部家に置いて来た。って、俺の事は良いんだよ。それよりさ、チョコくれないか?」

と、何でもない様な雰囲気で聖はそう聞いた。

「……は!? な、なななんで私があんたにチョコあげなきゃ……いけないのよ……」

顔を真っ赤にして彼女はあたふたし始める。

「なんでって、俺がお前のチョコを欲しいからだよ」

「――っ!! ななななに言ってるのよ!! そ、そんなこと言われても……あの……」

「頼むよ。作ってなかったら適当に買ったので良いからさ」

「て、適当なんて……!」

「適当じゃないなら作ってあるのか?」

「いや……まぁ……う、うん……」

「作ってあるのか? だったらすぐに渡してくれれば良かったのに」

「私だって……あんたがあんなにチョコ持ってなかったら……」

聖に聞こえないぐらいの小声で呟いた。

「ん? 何か言ったか?」

「な、何でもない!! は、はいチョコ!!」

顔を赤くしたまま、目を瞑って手に持ったチョコを差し出す。

「サンキュ〜、やっぱりお前のくれるチョコが一番嬉しいな!」

彼は彼女に笑いかけた。満面の笑みで、きっと他の誰にも見せないような笑顔を。彼女に見せた。

愛は顔を真っ赤にして顔を伏せていた。

「開けても良いか?」

「ど、どうぞ……」

弱々しい声でそう言うと、聖は包みを開け、中から一粒チョコを取り出す。

「おお、可愛いチョコだな」

ハートの形をした小さいチョコが数個入っていた。聖は口に運び、チョコを味わう。

「……うまい! お前の作ったチョコうまいな!」

本当においしそうな顔で聖は言った。

「そ、そう? 市販のチョコを溶かして作っただけだから普通だよ……」

内心嬉しいながらも、思わずそんな事を言ってしまう。

「ホントうまいって。ほら、お前も食べてみろよ」

そう言うと、聖は一粒チョコを取り出し、愛に差し出す。

「ほら、口開けろよ」

「…………へ?」

「へ? じゃなくて、あ〜んしろって」

「――!? な……なにひってるの!? しょ……しょんなことできるわけ……ないじゃない!!」

頭から湯気でも出ているのではないかと思うほどに顔を真っ赤にし、彼女はドキドキでうまく動かない口を動かし何とかそう喋った。

「何でだ? 昔から同じ様な事してただろ」

「そ、それはそうだったかもだけど……。でもそんな事したら手が……」

「手……? 手がどうした?」

「いや、だから……手が……」

「手なら大丈夫だ、俺は常に手は洗ってある。汚れなどなにも心配する必要は無いぞ」

「そうじゃなくて!! 手が触れちゃう、から……」

「触れるって、唇にか? 別にいまさら気にする事じゃ無いだろ? ほら、口開けろって」

「………」

言われるがまま、されるがままに愛は口を開き、聖が差し出してくる自分のチョコを食べる。

その際、少しだけ聖の手が、彼女の唇に触れた。

「あ……」

吐息を漏らすように、彼女は思わずそう言ってしまった。

「どうだ? うまいだろ、お前が作ったチョコ」

言われてから思い出すようにしてチョコを味わう。確かに、聖が食べさせてくれたチョコは、自分が作ったときよりおいしかった様な気がした。

「そ、そうかも……」

いまだ顔を赤面させ、恥ずかし気に顔をそらしながら、彼女は言った。

「だろ? 森永にも食べさせてやりたいぜ」

「……聖の為に作ったんだから、聖が全部食べてよ」

思わずそんな事を言っていた。言い終えたあとに、ハッと自分の発言に気が付き、再び顔を赤くする。

「心配するな。女子が気持ちを混めて手作りしてくれたチョコを他人にくれてやるつもりは無いから」

「そ、そう……」

「よし、隣座っても言いか?」

「え? い、いいけど……」

「サンキュ」

断りを得ると、聖は愛の隣に座る。

「もう夕暮れか……。2月の半ばに入ったけど、まだまだ冷えるな」

「……そうだね」

となりに座る聖は女子にモテる。ちやほやされていて、可愛ければ誰でも好きになりそうな気さえもする。

そんな聖に訊きたいことがあった。でも、それは訊きたくないことでもあった。

聖が、色んな女の子にちやほやされて、嬉しいのかどうか、訊きたくて仕方なかった。

答えはきっと自分の想っている通り、嬉しいと応えるだろう。

でも、本人の口から、もしかしたらなにか違う答えが聞けるのではないかと言う希望が心の片隅に有り、訊きたくて仕方が無かった。

「聖はやっぱり、女の子にちやほやされて嬉しい?」

訊きたくなかった。でも、やはり気になってしまった。だから、我慢できず訊いてしまっていた。

「ん? そうだな。可愛い女子達が俺のこと好きだって言ってチョコをくれるのは嬉しいな!! 俺甘いのも好きだし。

やっぱり俺だって男だ、女子にちやほやされて嬉しくないはずが無いな」

「そう、だよね……」

判っていた返答ではあった。でも、本人から聞いた言葉は、疑問から確信に変わってしまう。

「でも……お前と居る時間は、昔からずっと楽しい。落ち着くし、気兼ねなく話せる。その時間が一番好きかも知れないな」

「………」

彼女は、最後に聖がなにを言ったのか聞こえていなかった。何となく耳には入っていたが、その前の聖が言った一言が、

彼女の心に響きすぎて、あとに言った言葉が頭に入ってこなかったのだ。



その後も、聖は他愛の無い様な話を続ける。聖と一緒に居る時間が続くにつれ、段々と心境が変わって来る。

話をする聖の隣で、相槌を打つようにして聞いてる時間がとても楽しい。

昔の話、今の話、星の話、何でもしてくれた。時間が経つ事に、愛はやっぱり聖が好き何だと再確認する。

迷う必要なんて無いのかもしれない。私が聖を好きなら、その想いを伝えるだけでいいのかもしれない。

聖と話す永い時間の中、愛は聖に告白しようと考え始める。

聖が誰かを好きでも、私はこの想いを伝えたい、そう決意した。

そして、気が付いた時には陽が落ち、辺りは暗くなっていた。

「って……気が付けば真っ暗だな……」

そう言うと、聖は立ち上がる。それにつられるようにして、愛も立ち上がる。

「ほんとだね。聖ってホント、喋るの好きなんだから」

「愛と喋ってるといくらでも話してられるからな。ついつい口が止まらないんだよ」

聖がそう喋ると、風がひとつ、冷たい空気を運んでくる。

「やべぇ、かなり寒くなってきたな……。それじゃ俺は帰るぜ、愛も遅くなり過ぎない様に帰れよ!!」

「え? ま、待って!!」

走り去ろうとした聖を呼び止めた。いましかない、告白するならいましかない。そう思い、愛は呼び止めていた。

きっと、いまを逃したら、二度と告白するタイミングなんて無い、そう感じたのだ。

「なんだ?」

聖は足を止め、愛の方を振り返る。

「わ、わたし……」

戸惑ってはいけない。最後まで言い切らないと、想いは伝わらない。

噛み締めるようにして、愛は言葉を続けた。

「わ、わたし……聖のことが……好き」

最初に呟く様にそう告げた。

「あなたのことが好き……大好き!! 聖のことが好きなのっ!!」

呟く様に言ったあと、大声で、聖の心に届くように、大声で告白した。

結果がどうなるかなんてこのときは考えてなかった。きっとそれを考えていたら、告白なんて出来なかったから。

「………」

数秒間の静寂があったあと、聖は無言で、真剣な表情で、愛のもとに歩み寄る。

そして、愛の目の前まで来ると足を止め、彼女の目をしっかりと見る。愛もまた、聖の目をしっかりと見る。

「あ、あの、俺も……愛のことが好きだった。多分だけど、出逢った時からずっと」

そして、そっと、愛を抱きしめた。

「――!! せ、聖!?」

思わぬ行動に、気が動転してしまう愛。だが、聖にしっかりと支えられ、身動きは取れなかった。

「たしかに、俺って女子にモテたり、ちやほやされてるかもしれないけど、俺、本当は恥ずかしがりでさ。本気で恋愛しようとしなかった。

ずっと逃げてたんだ。本気で恋愛して、失敗したらどうしようって。もし愛にふられて、友達でも居られなくなったらって考えると

凄く不安だったんだ。でも、愛が告白してくれて決心出来た。俺もずっと愛のことが好きだったんだ。だから、ここから先は俺に言わせてくれ」

陽は落ち、辺りは街頭の光と、月明かりだけだった。

「愛、お前のことが好きだ。俺と、俺と……付き合ってくれないか?」

涙が出た。感動なのか嬉しさなのか、その両方なのか、そんなことは分からなかった。でも、聖の言葉を聞き、愛の瞳からは涙が出ていた。

「う、嬉しい……!! わたしも……聖のこと大好き……」

泣きながら、愛は聖の告白に応えた。その時、二人の上から、チラチラと雪が降り始める。

まるで二人を祝福するかのように、白く輝く雪の結晶が、宙を舞い散る。

「キス……していいか?」

「そんなの……訊かなくても良いよ……」

午後7時、聖と愛は、雪の降る公園で、優しく、初々しいキスをした。長く、もしくは短く。

こうして二人は長い年月を経て、幼馴染から恋人になった。甘く切ない、バレンタインの日に。




End...










おまけ


Happy Valentine's Day


昼放課、森永は一人で購買に行き、パンを買って帰ってくる最中のことだ。

「ねぇ、きみ森永君?」

後ろからかけられる女子の声に森永は振り返ると、そこには3年生のリボンをつけた女性が森永を見詰めながら立っていた。

「な、何で御座いましょう!」

森永はとても興奮しながらそう答えていた。バレンタインの日『知らない女子生徒に声をかけられた=俺の事を好きなのでは無いか?』と言う

勝手過ぎる勘違いを森永は起こしていたのだ。

「良かった! 実は聖くんに渡しといて欲しい物があるんだ」

「……ん? 聖に……ですって?」

「きみあの子の友達なんだよね? だからきみから聖くんに渡しといて欲しいの」

「……あ、あははは!!! ですよね〜!! 判りました!! この森永が、誠意を持ってあなたのチョコを聖にお渡します!!」

やけくそに成りながら、森永はそう宣言していた。

「頼もしいわね! それじゃ、よろしく〜」

女子はチョコを森永に渡すと、そのまま去っていった。

「ははは……(聖に渡す)チョコ貰えたなぁ……」

頑張ってポジティブに考えようとしたが、無理だった様だ。



「はぁ……何で俺があいつの荷物運びの手伝いをしなきゃ行けないんだ……」

聖の荷物を自宅の目の前まで運んだ後、森永は文句をぶつぶつと言いながら、黄昏の空の下、一人家までの帰路を歩いていた。

「……俺もひとつくらいチョコ欲しいな」

聖のをひとつ貰うとかそういうのじゃない。女子から直接俺に欲しいのだ。友チョコでもなんでもいい。俺に対してのチョコが欲しかった。

「まぁ、そんなの夢の話だよな……。スポーツもできて、イケメンな奴しか早々チョコも貰えないだろ」

テニス部に所属する森永ではあったが、決して強いというわけでは無い。

それこそ普通にできる程度で、試合には出してもらえず、ただ部活をしているどこにでもいる様な人間だった。

だから自分はモテるはずが無い、そう自覚していたのだ。

彼は家に帰って母親がくれるチョコを貰うありがたみを想いながら、道を歩き続ける。



「森永先輩!」

そろそろ家に着く頃の所で、後ろから声をかけられた。

「ん?」

振り返ってみると、そこには一年生のリボンをつけた、可愛らしい女の子が一生懸命な表情で立っていた。

先ほどと同じ様な女子との出会いになんとなく展開が判りつつ、問いかけてみる。

「なにか様かい?」

「あ、あのこれ……」

優しげに声をかけてみると、女の子はおそるおそるチョコを差し出してきた。

やはり、先ほどと同じ展開の様だ。やれやれ、やはりバレンタインはリア充の盛り上がる日でしかないんだな。

「……またあいつに渡しとけってか。わかったよ。心配しなくても、頼まれた品はしっかりと本人に―――」

そう言いながらチョコを受け取ろうとすると、

「ち、違います!」

と全力で否定され、差し出してきた手を引いた。

「ち、違うって……」

違うとはなにが違うのだろうか。森永は女の子がなにを言ってるのか理解出来ていなかった。

「私は……森永先輩にチョコを渡したいんです!」

一生懸命に、女の子はそう言った。数秒間、森永の思考は停止した。そして、徐々に再起動を始める。

「……お、俺に、チョコを渡したい? この……俺に?」

再起動を開始した頭で、先ほど耳から伝わった情報を口で言いながら現状理解を始める。

「森永先輩!! 好きです!! チョコ受け取ってくれませんか!!」

そう告白しながら、女の子はチョコを再び差し出した。

かれは再び思考が停止しそうになったが、そう言うわけにもいかず、逆に頭を全力で回転させた。

だが、すぐに止めた。もしこれが夢だとしても、誰かの悪戯だとしても、俺に差し出されたチョコを拒む理由など、どこにもないから。

森永は手を伸ばし、差し出されたチョコを受け取る。

「あ、ありがとな……」

照れながら、彼はお礼を言った。

「い、いえ……それでは私はこれで……。あ、ありがとうございました!! 失礼します!!」

頭を思い切り下げ、彼女は走り去って行った。

「まだ名前聞いてない……」

まだ夢なのかもしれないと言う気持ちがありながらも、森永は彼女に恋をしたのだった。


End...

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