誰かに続きを書いてほしい
バンドマンと社会人の百合が書きたかった
目がくらむ程の光を放つ看板、まばらに聞こえる酔っぱらいの叫声、車のクラクション音、そんな騒がしい街の一角。閉め切った地下の一室では、大勢の人が押し寄せる中、静まり返っていた。それはこれから身を震わせるパフォーマンスを見逃すまいと集中するための静けさだった。ライトで照らされたステージの中心には、マイクスタンドを握りしめ、ただ整然と立つ女性の姿がある。その女性は、周りのギター、ベース、ドラムを担当するメンバーに目を合わせず、ただ、立っていた。やがて、カウントを刻み、鳴り始めたハイハットの音を刺すように、ギターがメロディを奏でる。そのメロディの深みを与えるように低音を響かせるベースが食いかかると、口を閉ざしていた人々は歓声を上げ始めた。そんな盛り上がりの中、まだ、女性は微動だにしない。歓声は彼女の名前を呼ぶ声に変わる。その声が一斉に重なったその一瞬。盛り上がりが途端に静寂に変わったその瞬間。彼女はマイクスタンドごと身に寄せ、叫び声を上げた。その声を皮切りに、演奏が再び始まり、その演奏に負けないほどの興奮が一室を満たす。歌い始めた彼女は、金色の少し長い前髪の隙間から鋭い目を観客へと送る。飄々としているようで、芯のある歌声。時には苦しそうに、不埒に笑うように、歌うその姿。曲間も自身のことを語ることはず、ただ曲の世界を体現する。そんな未詳であり、その実力だけでパフォーマンスする彼女を人々は「カリスマ」と呼んだ。
「…あ、」
午前七時。ライブが終わり、大勢の人が向かう方向とは逆に、その「カリスマ」は自宅のマンションに着いた。彼女はエレベーターから降りて、自分の部屋に向かう中、部屋の前に人がいるのに気づいた。その人は慌ただしい様子で、急ぎ足でこちらに向かってくる。姿が近くなったところで、その人は彼女の存在に気づいたようだった。
「わっ、胡々!?おかえり!ごめん、散らかしちゃったけど、帰ったらちゃんと掃除するから!」
そう言って彼女の横を通り過ぎると、忙しない音がエレベーターの箱に呑まれて消えていく。
「……うん」
もう居なくなってしまった相手に返事を一つ。
それは、数時間前にステージから客席までを響かせていたとは思えない、小さな小さな声であった。
先程閉められた鍵を開け直し、彼女は靴を脱ぎながら、ため息混じりに呟く。
「また、まどちゃんと話せなかったな……」
そうして、彼女は玄関に飾られた写真を手に取る。それは、木々の淡いピンクが背景に差し込む二人の少女の写真であった。左側の黒髪の少女はともに並ぶ少女の腕を取り、満面の笑みでカメラに向かってピースをしている。右側の金髪の少女は気恥ずかしそうに腕をひかれながら、黒髪の少女を見つめていた。学生時代の彼女と“まどちゃん”である。互いに高校卒業を迎えた日の写真であり、彼女が“まどちゃん”に交際を申し込み、承諾を得た日の写真でもあった。それから六年。二人で共に暮らすようになって、彼女は危機を覚えていた。本当に、進展しているのだろうか。もしかしたら、これは、友達関係のままなのではないか。と。
これは、カリスマボーカルと世間に称されている佐志原胡々が、その天性を放ち、ただ一人の女性として、“まどちゃん”こと、栗坂円を愛し、普通の生活を送るだけの話である。




