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輝夜の花嫁~嫁いだのは、余命一年の旦那様でした  作者: 綾瀬アヲ@2月初書籍発売


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第七話 呪病の真実(一)

 最後に、雪月花は軽く詠唱を唱えながら、空黎の上半身に手をかざして体全体を巡るように動かしていく。


 そして、その手が胸の辺りに差しかかると、動きがぴたりと止まった。雪月花の表情が、さらに深く曇ったような気がして、文緒はじっとその手を見つめる。

 空黎の体内に潜む呪病――その根が、そこにあるのだろうか。それとも、予想以上に症状が悪化しているのか。

 ざわざわと気持ちが落ち着かつかない。けれど、尋ねたくても言葉にする勇気が出ないまま診察が終わった。


「まずは、きちんと食事を取ることだね。君は昔から好き嫌いが多いから」


 診察器具を片付けながら、からかうような口調で言う。でもそれは深刻になりすぎないよう、敢えてそうしているように文緒には聞こえた。


「それから、たまには寝台から降りて少しでも歩くといい。体を動かさないままでいるとますます体力が落ちてしまうよ」


 その言葉に、文緒ははっとする。


 外の世界から切り離されたような空間での暮らし。

 やっぱりそれが、彼をさらに弱らせているのだろうか。


 空黎は肯とも否とも返事をしなかった。

 何も言わずに、ただ外の見えない窓ばかりを見ている――違う、実際は何も見ようとしていないのかもしれなかった。


「空黎、聞いてるかい?」


 雪月花の言葉を受けても、空黎は静かに目を伏せるだけ。その態度に雪月花は小さく溜息をついた。


「……まったく、相変わらずだね」


 言葉に非難の色はなかったが、それでもどこかもどかしさが滲む。


「終わったのなら早く帰れ」


 依然として顔を背けたまま、淡々とした拒絶の言葉だけが返ってきた。

 文緒は、そんな空黎の横顔をそっと見つめる。すべてを拒絶するような態度――けれど、どこかそれが儚く映った。


「まぁ、いい。また来週来るよ」


 雪月花はそれ以上深く追及せずに静かに立ち上がった。


「じゃあね文緒ちゃん」


 雪月花は軽く文緒の肩を叩くと、何事もなかったかのように襖を開けて出て行った。


 部屋の中には再び、空黎と文緒だけが残された。

 張り詰めた空気の中で、文緒は居た堪れなくなって視線を落とす。


(……この人は、一体どこまで自分を閉ざしてしまっているのだろう?)


 この暗い部屋の中に、一人で。

 誰にも手を伸ばさず、ただ時間が過ぎていくのを待っているような。


 何かを言おうと口を開きかけるも、空黎の横顔を見てその言葉は喉の奥に消えた。


「私も…失礼させていただきますね」


 部屋を出ると、雪月花が廊下で待っていた。


「あ…っ、」


 文緒は驚いて大きく声を上げそうになるのを、どうにか踏みとどまる。雪月花はそんな様子の文緒に小さく微笑んだ。


「診察の間、ずっと僕に聞きたいことがあるような顔をしていたなと思って」

「えっと……」


 文緒は少しだけ視線を彷徨わせる。


 聞きたいことは確かにあった。診察では何を確認して、どういった判断を下しているのか。主治医である雪月花から見て空黎の容態はどうなのか。良いのか、あまり良くないのか、それとも……


(違う…それよりも、もっと根本的なことを私は知らない…)


「雪月花さん……」

「何かな?」


 彼の声はどこまでも落ち着いていた。


「呪病とは……どういった病なのですか?」


 雪月花は軽く腕を組むと「少し外に出ようか」と文緒を促した。



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