第四話 拒絶されたとしても
楠上が部屋に戻ってきて、文緒は入れ替わるようにして退出した。
文緒にあてがわれた、旧邸の一角にあるこぢんまりとした和室。締め切られた障子窓の隙間から、わずかに涼しい風が入り込んでいる。
(ここが私の新しい居場所……)
文緒は自分に与えられた部屋で、先ほどまでの出来事を思い返していた。畳の上に静かに座りながら、文緒は自分の手のひらを見つめる。
(あの時、何か見えたような気がした……)
あれは、いったい何だったのだろう。
ただ手を重ねただけなのに――まるで、彼の内側を覗いたような、そんな感覚が頭から離れない。
あの冷え切った瞳の奥に何があるのだろう。
空黎は本当に、すべてを拒絶しているのだろうか。
文緒はそっと目を閉じる。
そして、三年前のあの祭祀の日のことを思い出していた。
(きっと、空黎様は覚えていらっしゃらないだろうけれど…)
あの日、文緒は確かに空黎に救われたのだ。
その時から一度だって、そのことを忘れたことはなかった。
文緒は静かに目を開けて立ち上がる。部屋の隅に積もった埃がかすかに舞うのと構わず障子窓へと歩み寄って、長い間閉ざされていた木枠を力いっぱい押し開けた。
固くなった窓が軋みながら動いて、長い間閉ざされていた部屋に、夕陽の光が真っ直ぐに差し込んでくる。
これは『看取るための婚姻』ではない。
ただ寄り添うだけではなく、何か力になれることをしていきたい。
(これが私にできる、最初の一歩なのかもしれない…)
文緒は目を細めて、窓から入ってくるその光と風を受け止めた。
◇◇◇◇
これは、始まりに過ぎない。
余命一年と告げられた呪術師と、その花嫁。
そして、まだ誰も知らない呪われた謎との戦いの幕開けなのだった。




