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輝夜の花嫁~嫁いだのは、余命一年の旦那様でした  作者: 綾瀬アヲ@2月初書籍発売


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第十八話 空黎の変化

「朝餉をお持ちしてきますね」


 五日目の朝。

 毎朝の決まった挨拶のように文緒(ふみお)が言うと、空黎(くれい)は小さく頷いた。


 最初の頃のように、空黎が文緒を拒絶することはなくなった。

 それどころか、以前なら冷たく突き放していた朝の挨拶にも、ほんの少しの温度が感じられるようになってきている。


 それが嬉しくて、文緒は自然と笑みを浮かべながら御膳を運ぶ手に力を込めた。

 温かい味噌汁と、細かく刻んだ具材で作った煮物。空黎の体調を考えて、消化の良いものばかりを選んでいる。


 最初はひと口だけ口をつける程度だったおかずにも、今では少しずつその量が増えていた。今朝も同じように運んできた御膳を、空黎の前にそっと差し出そうとした。その時だった。


「……君の分は?」


 静かな声が、ふいに文緒の耳を打つ。一瞬、何を言われたのか分からなくて動きを止めてしまった。


「私は、あとで自分のお部屋でいただきます」


 だから気になさらないでください、の意味で伝えたのだけれど、空黎は僅かに眉を寄せた。


「せっかくなら……共に」


 目を逸らしながら、ぽつりと確かにそう言った。

 予想していなかった言葉に、文緒は思わず目を瞬かせる。というよりも、驚きですぐに言葉が出なかった。


「えっと、よろしいんですか…?」


 信じられなくておそるおそる聞き返してしまう。


「君さえよければ。こんな部屋だが……」


 空黎は、ほんのわずかだが気恥ずかしそうにしていた。


(もしかして……私と一緒に食べようとしてくれてる……?)


 心の奥がじんわりと温かくなる。


「では……ご一緒させていただきますね」


 空黎は何も言わず、ただ目を伏せたまま頷いた。


「すぐに取りに行ってきますので、先に食べていてください」

「……あまり急がなくても」


 空黎が小さく咳払いをしながら、ぼそりと呟いた。

 その言葉に、文緒の手が止まる。


「君はそそっかしそうだから、急ぐと膳をひっくり返しそうだ」

「っ、そ、そんなことはありません…っ」


 からかわれたのだと分かって、自然と頬が熱を持つ。

 空黎はその顔を見て、ほんの少しだけ口元を緩めると窓の外へと視線を向けた。


 程なくして、二人分の御膳が並べられた。

 御膳の上には、湯気の立つ味噌汁と、ふんわりと炊き上げた白米。塩で味付けした焼き魚に、口当たりの良い出汁巻き玉子。

 温かい湯気が静かに部屋の空気を揺らし、その温もりが、ほんの少しだけ旧邸の冷えた空気を和らげているようだった。


 向かい合って座る二人。

 それは、まるで本当の夫婦のような光景だった。


 お互いに言葉は多くない。

 けれど、ゆっくりと箸を進めるたびに、部屋に静かな時間が流れていく。


 文緒が食事をとる姿を、ふと空黎がじっと見つめていることに気づいた。文緒が何か言おうと顔を上げると、空黎はすぐに目を逸らした。


(……何だったんだろう?)


 けれど、それを尋ねるほどの勇気はなく。


 文緒もまた、何も言わずに再び箸を動かした。

 わずかに揺れる湯気の向こうで、空黎の指が静かに箸を握り直したのが、文緒の視界の片隅に映った。


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