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第6話:小さなトラブル

昼下がりの街角、ユイは魔法使いの衣装のまま、いつものように軽く手を振りながら歩いていた。掌の先から淡い光が零れる。

通行人の視線が集まり、スマホを向ける手が増えていく。今日も街は、少しだけ非日常の光で染まっていた。

「……楽しんでくれてるなら、いいんだけど」

心の奥に、微かな不安が残る。光は思った以上に自由で、時に制御しきれない。ユイは慎重に歩を進めるが、その瞬間、光が小さな犬の首輪に触れ、ふわりと犬を宙に浮かせてしまった。

「わっ……!」

犬の飼い主が慌てて手を伸ばす。ユイは全力で手を差し伸べるが、掌からの光は止まらない。周囲の人々がざわめき、子供たちが驚いて後ずさる。

「ご、ごめんなさい! 私、止められなくて……!」

ユイの声は震え、心臓が喉まで跳ね上がる。手を握る力が強まるたびに、光は増して、街角の小物がちらりと浮き上がった。

掌の光に驚いた通行人が叫び声を上げ、動画を撮る人が増える。ユイの顔は真っ赤になり、足が震える。

「……どうしよう、どうしたら……」

冷たい汗が額を伝い、胸がぎゅっと締め付けられる。普段なら克服できる些細なことでも、今は光の暴走が全てを現実にしてしまう。恐怖と責任感が入り混じり、心が押しつぶされそうだった。

その時、背後から聞き慣れた声。

「ユイ、大丈夫?」

振り返ると、ミナが駆け寄ってきた。小さな手でユイの腕を掴み、落ち着くように声をかける。

「怖かったよね……でも、私がいるから」

ユイは涙をこらえ、うなずいた。掌の光は徐々に弱まり、犬も地面に戻った。通行人のざわめきが遠ざかる。

「……ありがとう、ミナ」

ユイの胸の奥には、恐怖と罪悪感がまだ残る。でも、同時に小さな希望も芽生えた。力は制御できなくても、支えてくれる仲間がいる――それだけで、少し前に進める気がした。

夜、ベッドに横たわったユイは天井を見つめる。今日の出来事が脳裏で反芻され、心がまだ震えている。掌から零れた光は、楽しさと恐怖、喜びと責任、すべてを混ぜ合わせた存在だった。

「……もっと、私、強くならなきゃ」

握りしめたアクセサリーは、淡く光を反射している。

ユイは静かに決意を胸に、仮面の中の私を現実の世界で生かすことを誓った――初めての本当の試練を経て。

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