第3話:骨董屋の謎
雨上がりの午後、ユイはふと目に留まった小さな骨董屋の前で立ち止まった。
看板はかすれ、ガラスには手書きの文字がうっすらと残る。中には、埃をかぶった小物がぎっしり並んでいた。
「……こんなところ、入ったことないな」
心の片隅で、冒険心と少しの不安が入り混じる。店の扉を押すと、きしむ音が響き、店内の薄暗い光がユイを包んだ。
埃の匂い、古い木の匂い、そして不思議な静けさ。まるで時間が止まったようだった。
「いらっしゃい」
低く柔らかい声に、ユイは振り返った。そこに立っていたのは、背筋のまっすぐな中年の店主。
目は鋭いのに、どこか優しさを湛えていた。
「な、何か…探しているものが…?」
思わず口をついて出る。
店主は無言で頷き、棚の奥から小さなアクセサリーを取り出した。銀の鎖に、小さな宝石がひとつ埋め込まれている。光を受けて、淡い青色に揺らめいた。
「これを身につけたら、なりたい自分に近づける……ただし、代償は覚悟せよ」
その言葉に、ユイの胸がわずかにざわつく。
「代償……?」
店主は微笑むでもなく、静かに店内の影に溶けた。ユイは手に取ると、ひんやりした冷たさが掌に伝わる。
指先に宿る感触は、衣装を着たときの感覚に似ていた。心臓の奥が小さく跳ねる。
「……欲しい」
その瞬間、ユイの世界がわずかに揺れた。雨上がりの街の光、遠くで鳴る車の音、そして自分の鼓動。すべてがほんの少しだけ鮮やかに見えた。
店を出ると、雨上がりの光が路面に反射して、街全体がまるで魔法のように輝いていた。
ユイは握ったアクセサリーをそっと胸に当てる。
「……これで、私も変われるのかな」
背後で店の扉が閉まる音がした。それはまるで、何か大きな扉の向こうに進む合図のようにも思えた。




