第2話:イベントの舞台裏
秋葉原の街は、朝から鮮やかに騒いでいた。コスプレイヤーたちの衣装が色とりどりに光を反射し、看板やネオンの光と混ざって街全体がひとつの舞台のようだった。
ユイは深呼吸をひとつして、会場の入り口に立つ。胸の奥が少し高鳴る。周囲の視線、ざわめき、スマホで撮影するカメラのフラッシュ。すべてが現実の世界なのに、どこか非日常の感覚だった。
「ユイ、今日も頑張ろうね!」
背後から元気な声が響き、振り返るとミナが笑顔で手を振っていた。ショートの金髪が太陽の光を受けて輝く。いつもどおりの無邪気な笑顔。しかし、ユイにはその笑顔の奥に、気を張っている何かが見えた。
「うん、頑張る……」
ユイは小さくうなずきながら、自分の衣装を整える。今回のテーマは「魔法使い」。ローブの青が落ち着いた光を放ち、手袋の先には魔法の象徴を模した刺繍が施されていた。
会場に足を踏み入れると、そこにはライバルたちの姿もあった。SNSで何度も目にしたあの笑顔と完璧な衣装。心臓がぎゅっと締め付けられる。
「今日こそ負けない……」
ユイは小さな呟きとともに前に進む。人混みの中で、ミナが肩を叩いた。
「大丈夫だよ、ユイ。あなたならできるって、私が保証する」
その言葉に、ユイは少しだけ肩の力を抜いた。だが、胸の奥にはまだ緊張の糸が張り詰めていた。
ライバルが振り返る。その視線が、まるで矢のように突き刺さる。ユイは息を呑み、掌をぎゅっと握った。
「負けない……私も、ここで輝きたい」
ステージのライトが徐々に灯り、衣装の青が光に映える。
ユイは深呼吸をして、笑顔を作る。仮面の中の私が、今日も現実に飛び出す瞬間だった。




