第10話:恐怖の顕現
夜の街角、ユイは歩きながら掌を見つめていた。
今日一日、SNSの反応に心が揺れ、友人やライバルの言葉が胸に重くのしかかる。掌から微かに光が零れ、静かに揺れていた。
「……大丈夫、私、落ち着いてる」
そう自分に言い聞かせるが、胸の奥では不安が渦巻き、光は少しずつ暴走を始めた。
手袋越しに感じる感触が熱を帯び、掌から零れる光は制御できない力を告げていた。
その瞬間、通りの街灯が一斉に揺れ、看板の文字がきらめく。光に触れた自動販売機が微かに浮き、空中で揺れた。通行人の驚きの声が響く。
「いや……やめて……!」
ユイの声は震え、足がすくむ。掌の光は彼女の感情を映す鏡のように、喜びと恐怖を混ぜ合わせて街中に放たれる。
通行人が逃げ惑い、子どもが泣き、スマホで動画を撮る人々がざわめく。ユイの胸は締め付けられ、涙がこぼれそうになる。
「ごめんなさい……私じゃない……制御できない……!」
そのとき、レオンが颯爽と現れる。黒いローブを翻し、光を掌から引き離すように手を差し伸べた。
「ユイ、落ち着け! 自分を責めるな、まず深呼吸だ」
しかし、ユイの意識は恐怖に支配され、思考が霧のようにぼやけていた。
「いや……いや……止めたいのに……!」
掌の光は暴走し、周囲の影や看板、街灯が微かに歪む。ユイはその非現実の世界に取り残されたような感覚に陥る――初めての精神崩壊状態だった。
ミナの声が遠くで響く。
「ユイ、大丈夫! 私がいるよ!」
その声に、ユイはかろうじて現実に戻る。掌を握りしめ、光を自分の内側に閉じ込める。
静寂が戻った街角に、ユイの荒い息だけが残る。
「……怖かった……でも、私、負けない……」
掌に残る光は、まだ微かに震えていた。今日の経験は、ユイに力の代償と責任の重さを教えた――そして、心に小さなトラウマとして刻まれた。
夜空に浮かぶ月を見上げ、ユイは静かに決意する。
「もっと、強くならなきゃ……私の力も、私の心も」




