準備の裏、交わる視線
体育館では、ステージの設営が進んどった。
照明係や音響班が忙しそうに動き回り、舞台の上には脚立や板が並んでいる。
その中で、悠真は実行委員として汗を流しながらも、
どこか落ち着かんような表情をしていた。
「悠真くん、それ、もう少し右のほうがええんちゃう?」
里奈が言うと、悠真は笑ってうなずいた。
「おお、わかった。…こうか?」
「うん、ばっちり!」
里奈の笑顔は明るくて、まっすぐで、見てるだけで周りの空気が柔らかくなる。
悠真の胸が、少しだけ熱くなった。
――でも、ふと頭をよぎるのは、美咲の顔。
あの、不器用に笑って「がんばりぃよ」って言った時の声が耳から離れん。
(なんでやろな…)
里奈とおると楽しいはずやのに、
心の奥がどっか引っかかっとる。
一方その頃、美咲は教室で飾りつけの準備中。
紙花をつくる指先は慣れたもんやけど、
頭の中ではどうしても、体育館の光景を想像してしまう。
「悠真…今、どんな顔しとるんやろ」
つぶやいた声は自分でも驚くほど小さくて、
その瞬間、ドアが開いた。
「おーい、美咲!テープ足りんのんじゃけど、ある?」
美月が元気よく顔を出す。
「…あるよ、そこ。机の上」
「おっけー。てかさ、体育館行った?悠真ら、えらい楽しそうじゃったで?」
「……そうなん」
美咲は、紙花を結ぶ手を止めずに答えた。
美月はしばらく彼女を見つめて、
「…美咲、無理すんなよ」って、ぽつり。
「うちは、もう大丈夫じゃけえ」
「その言葉、何回目や思っとる?」
「……うるさい」
それでも、美月は笑ってテープを持っていった。
残された教室の中、
美咲の指先が小さく震えていた。
その頃、体育館では――
ふと里奈が転びそうになり、
悠真がとっさに支える。
「わっ、ごめん!」
「大丈夫か?…ほれ、手」
悠真の手に、里奈の指が触れた。
一瞬、時間が止まる。
(なんで…こんなにドキドキするんやろ)
里奈の頬が少し赤く染まり、
悠真も目をそらした。
誰もいない体育館の片隅で、
二人の影がほんの一瞬、重なった。
その光景を、
廊下の隙間から見ていたのは――美月だった。
「……こりゃあ、またややこしゅうなりそうじゃなぁ」
彼女はニヤリと笑って、
手に持ったテープをくるくる回した。




