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晴れの国で、恋をした  作者: 櫻木サヱ
揺れる想い、交錯する心

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2人の約束

放課後の校舎は、夕焼けの光でオレンジ色に染まっとった。

窓の外では野球部の掛け声、風が少しだけ涼しゅうて、秋の匂いがした。


屋上の扉を開けると、そこには美咲が立っとった。

髪が風に揺れとって、目の端は少し赤い。

けど、その顔はもう泣いとる子の顔やなかった。


「……来てくれたんじゃな、里奈ちゃん」


「うん。話したいことがあってな」


二人はしばらく、風の音だけを聞いとった。

沈黙が痛いほど長く感じたけど、不思議と嫌じゃなかった。


「この前……悠真くんに、告白したんよ」

美咲がぽつりと口を開く。

里奈は黙って頷いた。


「知っとる。……見とったけぇ」


美咲は少し驚いたように目を見開いたが、

すぐに、ふっと笑って「やっぱりな」と言った。


「わしもな、美咲ちゃんに言いたいことがあるんよ」


里奈は胸の前で両手をぎゅっと握った。

夕日の光が瞳の中で揺れて、声が少し震えた。


「わしも……悠真くんのこと、好きじゃ」


その言葉は、風に溶けるように静かに流れた。

けど、確かに届いた。


美咲は驚いたように口を開き、そしてゆっくりと閉じた。

ほんの数秒、何も言わんかった。

だけど、やがて小さく息を吐いて、

「……そっか」

とだけ言った。


沈む夕日が二人の間を赤く染める。


「正直な、最初は泣きそうじゃった。けど今は、変な気持ちなんよ」

美咲は風に髪を揺らしながら続けた。

「里奈ちゃんが悠真くんを好きになってくれて、

なんか、うれしい気もする。変じゃろ?」


「変じゃねぇよ」

里奈は少し笑った。

「だって、同じ人を好きになったんじゃもん。

悠真くんがええ人なの、わしら二人とも分かっとるけぇ」


二人は、目を合わせて笑った。

涙がにじんだけど、それは悲しみじゃなかった。


「……ねえ、約束しよ」

美咲が言った。


「どっちが選ばれても、もう泣かん。

ちゃんと、笑って“おめでとう”って言おう」


「うん……それ、ええ約束じゃ」


里奈は差し出された手をぎゅっと握り返した。

その手は温かくて、少し震えとった。

でも、確かに二人の心を結んどった。


「わし、負けんけぇな」

「こっちだって、簡単には譲らんけぇ」


夕陽の中で笑い合う二人は、

恋敵でもあり、最高の友達でもあった。


そしてその笑顔の奥で、

どっちも心の底で、同じことを思っとった。


──“悠真くん、どっちを選ぶんじゃろうね”


風が静かに吹き抜け、

夕日が沈む瞬間、二人の影はひとつに重なった。


その日交わした“二人の約束”は、

これから来る嵐の前の、ほんの束の間のぬくもりだった。


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