壁ドンの先は
文化祭の準備もひと段落し、放課後の教室は少し静かになっていた。
美咲は悠真のそばに座り、今日の作業の反省を話しながら、心の中ではずっと胸がドキドキしていた。
(……今日こそ、あんたに本気で気持ち伝えよう……!)
でも、悠真は相変わらずの天然ぶりを装い、時々チラリと美咲を見ては微笑むだけ。
その視線に、美咲はたびたび胸をぎゅっと握りしめる。
(……気付いとるんじゃろ……あんた……ほんまにもう!)
美咲が少し離れて席に座ろうとした瞬間、悠真の眉がぴくりと動く。
(……焦っとるな、あいつ……)
その時、悠真の中に不思議な感情がわき上がった。
「……もう、いっそわからせてやるか」
その言葉は頭の中だけの呟き。
悠真は静かに立ち上がると、美咲の前に歩み寄り、ゆっくり背を向ける。
美咲は気づかず、慌てて「ちょ、ちょっと待って……!」と声を出す。
その瞬間、悠真は勢いよく壁に手をつき、背後から美咲を壁ドン!
「……っ!?」
美咲は思わず息をのむ。
胸の奥がドキドキして、手足が震えるのを感じる。
悠真はゆっくりと顔を近づけ、目をじっと見つめる。
その瞳には、いつもの天然とは違う、真剣で少しやけっぱちな光が宿っていた。
「……美咲、わかっとるやろ?お前の気持ち、全部」
その低く響く声に、美咲は全身が熱くなる。
(……え、えぇ!? なんで、気付いとるん……!?)
「……悠真……そ、そんな……」
言葉がうまく出ない。
胸の奥が張り裂けそうで、視界が少し霞む。
悠真はその微妙な沈黙を楽しむかのように、さらに少し顔を近づけ、ほほに風が触れる距離で微笑む。
「気付いとるけど……ずっと気付かんフリしとったんじゃ」
美咲は驚きと動揺で、思わず目を大きく見開く。
(……うそ……あんた、ずっとわかっとったん……!?)
心臓が破裂しそうなくらいバクバク鳴る。
そのとき、美月が教室の入り口に立ち、目を見開く。
「な、なにしてんの……!?」
美月の声に、美咲はさらに動揺。
(……見られとる……!?)
悠真はちらっと美月を見て、にやりと笑う。
(……ちょっと焦らしてやろう……)
そして、美咲に向き直る。
「……でも、もう黙っとれんかったんじゃ。焦らすのも限界やった」
その言葉と同時に、悠真はほんの少しだけ力を抜き、壁に手をついたまま美咲の視線を捉える。
美咲の頬は真っ赤で、胸の奥は熱く、息が上がっている。
手のひらは自然と汗でしっとり濡れ、思わず胸元を押さえる。
「悠真……あんた……!」
思わず声が震える。
悠真は微笑みながら、軽く肩をすくめて見せる。
「……お前の顔、ほんまにかわいいな」
美咲はその一言で完全にノックアウトされ、頭が真っ白になる。
(……あぁ、あんた……ずるい……っ!)
夕陽が教室の窓から差し込み、二人の影を長く伸ばす。
その影の間で、美咲の胸の炎は、悠真のやけっぱち+思わせぶりな行動によって、一気に燃え上がった――。




