勇気の中のざわめき
文化祭の準備で賑わう放課後の校庭。
オレンジ色に染まった夕陽が、校舎の影を長く伸ばしていた。
風は少し冷たくて、でも心地よい。
美咲は小さな拳を握りしめ、深呼吸をする。
(……今日こそ、悠真に気持ち伝える……!)
毎日一緒に過ごす悠真。
でも、彼は相変わらず天然で、鈍感すぎるほど鈍感。
美咲は何度も距離を縮めようとしたけれど、悠真はまったく気づかない。
焦りと苛立ち、そして胸の奥の熱い想いがごちゃ混ぜになって、心臓はバクバクと鳴っていた。
「ねぇ、悠真……ちょっと、話せる?」
悠真は振り向き、無邪気に笑う。
「お、いいよ。なに?」
美咲の顔は少し赤くなり、心臓の鼓動が耳まで届きそうなほど早い。
彼の笑顔を見るだけで、胸がきゅっとなる。
「……あのね、わたし……」
美咲は精一杯の勇気を出して言葉を紡ごうとした瞬間、悠真が軽く腕を組み、ぽんと肩を叩く。
「今日も文化祭準備、頑張ろうな!」
その無邪気な言葉で、美咲の言葉は止まった。
(……え……今の……わたしの気持ち……聞いてくれんの……?)
胸がぎゅっと締め付けられ、悔しさと焦りで唇をかむ。
その横で、美月がさりげなく笑みを浮かべる。
「ふふ、二人とも頑張っとるね〜」
その微笑みは自然だけど、どこか牽制を感じさせる。
美咲は心の中で小さく舌打ちをする。
(……悠真、まったく気づかんのんじゃ……でも、あんたの笑顔に、つい見とれてまう……)
そして、胸の奥で小さな炎がじわじわ大きくなっていく。
夕陽の光が校庭の芝をオレンジに染め、三人の影を長く伸ばす。
美咲は心の中で決意する。
(……悠真が気づかんでも、わたしは諦めんけぇな……!)
(いつか絶対、あんたの心に届かせてみせる……!)
悠真は変わらず無邪気に笑い、何も気づかない。
その天然さに、美咲は胸の中で小さく笑みを浮かべる。
でも同時に、焦りと悔しさで胸が張り裂けそうになる。
風に揺れる髪をかき上げながら、美咲は心の中で何度も自分に言い聞かせる。
「……絶対に負けんけぇな、悠真……!」
校庭の夕陽はだんだん色を濃くしていき、
三人の間に漂う空気は、言葉にできない甘酸っぱさで満ちていた。
その日の帰り道、美咲は一人で小さく拳を握り、
悠真の後ろ姿を見送りながら、胸の中で誓う。
(……いつか、あんたの心を、絶対……!)
無邪気な悠真は振り向かず、笑顔のまま歩く。
でもその無自覚さが、美咲の恋心をさらに熱く燃え上がらせる――。




