ざわめく心
文化祭の準備で賑わう放課後の教室。
美咲と美月は、相変わらず悠真の近くで小さな火花を散らしていた。
悠真は相変わらず無邪気で、二人の駆け引きには全く気づいていない。
そのとき、教室のドアが静かに開いた。
長い茶髪に大きなリボンをつけた里奈ちゃんが入ってきた。
柔らかい笑顔を浮かべながら、悠真の机に歩み寄る。
「悠真くん、これ手伝ってくれる?」
悠真は笑顔で「おお、もちろん!」
その無邪気な笑顔に、美咲は胸がギュッと締めつけられる。
(……え……悠真の本命って、あの子なん……?)
里奈ちゃんは、作業をしながら少し小さな声でつぶやいた。
「実はね、今日、気になる人に告白しようと思ってたんよ」
悠真はなんの疑いもなく「え、そうなん?」と答えるだけ。
美咲は心臓がバクバクして、言葉が出ない。
美月も少し眉をひそめ、内心で緊張を隠す。
(……まさか、悠真の本命……!?)
里奈ちゃんは目を伏せ、息を整える。
「でもね、相手、他の子が好きみたいで……うまくいかんかったんよ」
美咲の胸は一瞬、ぎゅっと痛む。
(……フラれたんじゃ……!)
悠真は状況がわからず、ぽかんとした顔。
「そ、そっか……まぁ、気にせんでええよ」
その無邪気な態度に、美咲は少しだけ胸が和らぐ。
里奈ちゃんは小さく微笑みながら、涙をこらえて言った。
「ごめんね、悠真くん。うまくいかんかった……でも、ありがとう」
美咲はその様子を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。
(……よし、チャンスかもしれん……!)
美月も横で少しだけ目を見開き、唇をきゅっと噛んだ。
(……あんた、ここで諦めるん?)
二人の間には、言葉に出さない緊張感が漂う。
教室の窓から差し込む夕陽が三人の影を長く伸ばす。
美咲の胸の奥で、小さな炎がじんわり大きくなる――。
その日の帰り道、美咲は一人で小さく拳を握った。
(悠真……あんた、まだ気づいとらんけど……わたし、本気で行くけぇな)
悠真は無邪気に後ろを振り返り、笑顔で「また明日な!」
何も知らずに歩く背中が、美咲の心をさらに燃え上がらせる。




