静かな、火花
美咲と悠真が少しだけ距離を縮めた、その翌日。
学校はいつもと変わらんはずなのに……美咲の胸の中は、なんか落ち着かん。
だって、昨日――悠真といっしょに帰ったんじゃもん。
(やばい……昨日のこと思い出したらニヤけてまう……)
朝の教室。悠真はいつも通り本を読んどる。
でも、目が合った瞬間……
「……おはよ」
「お、おはよっ!」
ちょっと照れたように声が重なる。
周りの空気が、ちょっとだけ柔らかくなった気がした。
そこへ、スッと静かに現れたのが──美月。
ストレートの黒髪がさらりと揺れる。
制服の襟はきっちりしていて、まるで教科書の“理想の女子”みたい。
「おはよう、悠真くん」
「……おはよう、美月」
(うわ……今日も隣に座る気か……)
美月は自然な顔で悠真の机の横に立ち、何か話し始める。
たぶん、また委員会かテストの話。
でも美咲には、それが耳障りなぐらい、近い距離に見えるんよ。
(なんか……胸がぎゅってなる)
放課後。
昇降口の前で、靴を履き替えているとき、後ろから声がかかった。
「美咲さん、ちょっといい?」
振り向くと、美月。
やわらかい笑顔。けど、その奥にある何かが、ピンと肌に刺さる。
「昨日……悠真くんと帰ったんだよね?」
「……あ、うん。まあ……たまたま」
「そっか。ふふっ」
美月は笑いながらも、目が笑ってなかった。
「悠真くん、ああ見えてモテるんだよ。いろんな子が、気にしてる」
「……ふ〜ん」
「でもね、私、悠真くんとは小学校のころからの知り合いなの。だから、ちょっと特別なの」
(……なに、その“マウント”みたいな言い方……)
「……だからって、わたしが引く理由にはならんけどな」
気づけば、美咲の口からスッとその言葉がこぼれとった。
美月の笑顔が、一瞬だけ止まる。
けどすぐにまたにっこりして、
「……負けないからね」
そう言い残して、颯爽と歩き去った。
(……やっぱり、そう来るよな)
昇降口を出た美咲の胸の奥では、ふわっと小さな炎が灯ってた。
ただドキドキしてただけの恋が、“勝負”の色を帯びていく――。
美咲(心の声)
「負けとうない。
悠真に、わたしのこと、ちゃんと見てほしいけぇ」




