勇気、チョビっとだけ♡
翌朝の登校時間。
美咲は、いつもよりちょっと早めに家を出とった。
「……今日こそ、ちゃんと話すけぇ」
――そう。昨日、渡り廊下から見た光景。
悠真と、美月が並んで笑っとったあの場面が、ずっと頭に焼き付いて離れんのんよ。
(別に、付き合っとるとかじゃないし……)
(けど、なんで、あんなに楽しそうに……)
胸の奥が、キュッと締めつけられるように痛い。
ギャルは強くてキラキラしとる、ってみんな思っとる。
でもほんまは、美咲だって恋に関しては超初心者じゃけぇ。
「……なぁ、美咲」
横から彩香が追いついてきた。
「今日、勝負かけるつもりじゃろ?」
「うっ……ばれとるし」
「そりゃそうじゃ。昨日、めっちゃ顔に書いとったけぇな」
彩香はにやにやしながらも、ふっと表情を引き締めた。
「美月が悠真としゃべっとっても、ビビる必要ないで。あんたはあんたじゃろ?」
「……あいつ、キレイじゃし。なんか、悠真と並んだらお似合いに見えるんよ」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜……」
彩香はため息をついて、美咲の頭を軽くポンッと叩いた。
「そんなことで引いてどーすん。好きなら、ちょびっとでも前に出らにゃ勝てんのんじゃ」
その言葉が、胸の奥にスッと入った。
怖い。でも、ほんまは話したい。
ギャルだからじゃなく、“美咲”として向き合いたい。
* * *
放課後。
教室のドアを開けると、悠真と美月がまだ残っとった。
二人で、何やらプリントを見ながら話しとる。
(くぅぅぅ……またこのパターンかい……)
でも今日は、逃げんって決めとるんじゃ。
美咲は深呼吸をひとつ。
制服のスカートを軽く整えて、
「――なあ、悠真」
声をかけた。
教室の空気がピタッと止まったような気がした。
悠真がちょっと驚いたように顔を上げる。
「……美咲?」
「帰り、ちょっと……いっしょに帰らん?」
――言えた。
ほんの一言じゃけど、ちゃんと自分の気持ちを出せた。
美月が一瞬だけ目を見開いて、すぐに笑顔を作った。
「……あたし、ちょうど図書委員あるけぇ、先いっとっていいよ」
そう言って教室を出ていった。
(え……今の、譲ってくれたんじゃろか……? いや、そんな単純な話じゃないよな……)
悠真は少しだけ困ったように笑いながらも、
「……いいよ。駅までやろ?」
「うん!」
胸の中が、じんわりあったかくなる。
ちょっとの勇気で、景色がこんなに変わるなんて思わんかった。
* * *
下校途中の歩道で、並んで歩く二人。
道端の銀杏の木が、秋の色に染まりはじめとる。
美咲の指先が、ほんの少し震えてた。
でも――震えとるのは、怖いからじゃない。
きっと、うれしいから。
彩香(心の声)
「よっしゃ、美咲……その調子じゃ。恋はな、逃げんほうが勝ちなんよ」




