転校生との最悪な出会い
倉敷の朝は、ちょっと肌寒くて、それでも空は抜けるように青かった。
星川渚は、いつも通り鏡の前で自分の姿を確認する。金髪の髪は光を受けてキラキラと輝き、ピンクのネイルは完璧に塗り直されている。
「よし、今日もバッチリじゃな!」
声に出して言うと、なんだか勇気が湧いてくる。派手な見た目でクラスメイトの注目を浴びるのは日常茶飯事。でも、渚はそれが嫌じゃなかった。むしろ、自分らしくいられるって楽しい。
教室に入ると、ざわざわした声が聞こえた。
「今日から転校生が来るらしいよ」「どんな子なんじゃろ」
「都会からって、なんかヤバそう…」
渚は小さく鼻で笑った。「ふーん、またおもろい子かもしれんじゃん」
隣の親友・愛理が小さく吹き出す。
「渚、気になっとるやろ?都会から来るとか、なんかミステリアスじゃん」
「別に…ほっときんしゃい。でも…ちょっと楽しみじゃな」
そのとき、教室のドアが開き、一人の男子が入ってきた。
背は高く、黒髪をきちんと整えて、制服もピシッと着こなしている。都会から来たばかりらしいが、どこか落ち着いた雰囲気がある。
「はじめまして、真田悠真です…よろしくお願いします」
声は落ち着いているが、少し硬い。
渚はちょっとだけ目を細め、心の中でつぶやいた。
「ふーん…カタいのんじゃな。でも、なんか面白そう」
昼休み、渚は愛理とお弁当を食べながら、悠真を観察する。
「なんか…めっちゃおとなしい子じゃな」「うちらのノリについてこれるんか?」
「でも、ちょっと気になるんよな…」
渚はちらっと悠真の方を見る。都会から来たってだけで、なんか特別に見えてしまう自分がいた。
放課後、渚はいつものように教室で荷物をまとめていた。そのとき、悠真と廊下でばったりぶつかってしまう。
「ご、ごめんっ!」悠真が慌てて謝る。
「はぁ?ぶつかるん、普通じゃろ!」渚はちょっとムッとするが、心の奥がドキッとしたことを認めるしかなかった。
悠真もまた、派手な髪とネイルの渚に圧倒されつつ、「なんか…面白そうな子かも」と思う。
帰り道、渚は友達にその日のことを話す。
「ぶつかっただけじゃのに、なんか変なドキドキするんよね…」
愛理は笑いながらツッコむ。
「お前、恋する気じゃろ!?」
渚は赤面して否定するが、心のどこかで、悠真のことを考えている自分に気づいていた。
家に帰ると、母・美佐子が夕飯の支度をしていた。
「今日も派手じゃなぁ、学校で問題起こさんじゃろうな」
渚は小さく頷きつつ、「大丈夫、うちは大人しいもん」と笑う。
でも、心の奥底で、今日出会った転校生のことがちらつく。
こうして、ギャルで派手な渚と、真面目で落ち着いた悠真の、最悪(?)だけどどこか運命めいた出会いは、静かに、でも確実に始まったのだった。




