花屋の店員らしい贈り物
眠い目をこすりながら、朝7時の花屋のシャッターを開けようとする。
「あの!」
そこへ、いつもの女子高生がやってきたようだ。
「…おはよ」
あまりにも眠たすぎておざなりな挨拶になってしまったが、相手はいたって元気だ。
「おはようございます!あの私、やっぱりお兄さんのこと諦めたくないですっ」
若さが眩しい………。
「そんなことのために朝からきたの?」
「はい!」
初めから諦めろとは誰も言ってないのにね。
「ま、勝手にすればいいよ?それで、諦めないかわりに、どうするの?」
「えと、なので、お兄さんのこともっと知りたいです」
知りたいと言われても、自分もどうしたらいいのかわからない。
「スマホ持ってないって言ってるのにどうやって」
メールのやり取りが面倒なので、あえてスマホは持ってないことにしている。
「それは…その、まだ考えてないです」
女子高生は、家から勢いのままココへやってきたようだ。
「んー……文通でも、する?」
「ブンツー……」
相手が目を丸くしている。文通という言葉を知らないかもしれない。
「手紙のやりとりでもしてみる?って事なんだけど」
「あ、いえ、文通がなんなのかは分かります。発想が斜め上からだったので、驚いちゃっただけなんで」
一応、平成の女子にも文通という言葉は伝わるらしかった。
「そっか」
俺は、店のレジから付箋を持って、ササッと文字を書くと二つ折りにして高校生の胸のポケットにインした。
「はい。コレ」
「え、え?!なんですか?」
女子高生がポケットのメモを取り出そうとしている。
「ほら、そろそろ学校始まるよ?いってらっしゃい」
「わ!いってきます」
腕時計を確認して、登校時間がギリギリなことを確認したのだろう、相手はいきなり慌て始めた。
「あとで、読んだら検索しといて」
「け、検索?!」
女子高生はなんのことか分からないまま、振り返りながら学校へと足を走らせた。
「純粋な恋愛を夢見たら怒られるだろうか…」
誰に問うでもなく自分に問いかける。
純粋な人の傍にいたら、自分も純粋になれるような気がするのは、それこそマヤカシだ。
自分の罪やあやまちを、何も知らない無垢な人へと代替わりさせているようで…なんだか心苦しい。
「俺のことを知りたいって…どんなことを、だろう…」
俺は、晴れた空を見つめた。
少しして、花屋の外側へ商品を出す。下を向いていた花達が太陽を見上げ始める。
「俺も早く『前向き』にならなくちゃ」
ガーベラの花言葉: 限りなき挑戦 前向き