誰の主軸の何か
「ありゃりゃ、走って帰っちゃったよ?いいの?」
花屋のオーナーが俺に向き直った。
「彼女を狙ってるのオーナーだけですよ?」
なんとなく、オーナーは俺が女子高生を狙っている風に思っていそうなので、一応訂正しておく。
「いや、狙ってまではいないけどさ」
花屋よりも喫茶店のマスターが似合いそうなオーナーが、顔をぽりぽりと書きながら答える。
「手を出せるものなら出したいって心の声が漏れ出てますよ」
名残惜しそうに女子高生の後ろ姿を眺めていた心の声を代弁する。
「いやいや、むしろ怒ってない?」
俺がジト目で話をするので、不機嫌そうに思われたみたいだ。
「怒ってはないです。倫理感として許せないだけで」
「あいかわらず、固いねぇ」
パパ活を許せない俺に対して、やっぱりパパ活をやっていそうなオーナーが苦笑している。
「それでないと困りますよぉ~加賀くんは、みんなのモノですから♫」
ずっと俺の隣りにいた女が、俺に巻き付き直しながら、店長に茶々を入れる。
「いうて、わざとなんでしょ?」
オーナーが俺に疑問をぶつけてきた。
「なにがですか?」
「女の子連れて、今日来た事」
俺が休みの日にわざわざバイト先を訪れたことがおかしいとオーナーは思ったみたいだ。
「わざとっていうか、もったいなくないですか??高校生の大切な時間を最終的に無駄だったと気づくには」
「無駄かどうかを決めるのは本人でしょ?」
隣りにいる女が、俺がどう思うかより女子高生の気持ちのほうが大切だといいたいらしい。
「無駄に分類されなかった事ないんでね」
なんだか、『無駄』って言われすぎて、むしろ気持ちが落ち込んできてしまった。
「そもそも、俺が特定の誰かと付き合い始めたら困るのはオーナーですよ」
「まー確かに加賀くんが来て売り上げが上がったもんね。うちの花屋」
オーナーの目利きは上手いもんで、あまり繁盛していなかった花屋も俺がきてから仕事が増えているらしい。
「いい迷惑ですよ。歌舞伎町にばっかり卸すから、届けに行くとこういう輩がくっついてきちゃうんで」
俺は、隣りにくっついている女子を見下ろした。
「やからって言い方はどーなの?」
「加賀くんがお届けがいいって要望なんだから仕方ないじゃない」
常に隣りに女がいることがモテるという事ではない。と、俺は思う。
「私に会えて嬉しいでしょ?」
東京の女って自信家しかいないのか…
「キャバ嬢なんで、ホスト狂いのアホばっかじゃないですか。そもそも俺はビッチとか嫌いです」
「またまたぁ~どんだけ女いるか知ってるよー?」
俺は、女を掛け持ちしてるわけじゃないんだから、その言い方はやめてほしい。
「体が満たされたら満足なアホと一緒にしないでください…………人の心は金なんかじゃ買えない。そんなことアンタ等が一番よくわかってんだろ」
「たしかにーw」
純粋に純愛を求めようとしても、大人になると恋がなんなのか、どんどんあやふやになっていく。
だから俺は、好きな人に恋人がいるのかも?いないのかも?と、たかが、そんなことで一喜一憂できる高校生が羨ましいとでも思ったのかも。
大人が本当の意味で大人であるかどうかが、分からないように、俺の思う高校生は『純粋』というのも、もしかしたら間違っているのかもしれない。
理想と現実が交わることがないように、アナタの中の理想の俺が現実的に理想のままということはありえないだろ。とか、拗らせたことを考えてしまうよ。
◇◇◇
そんなわけで、現実に引き戻された。
「ねぇ、聞いてる?」
「うん。ソウダネー」
歌舞伎町で働いてるどこかの女が、今日も愚痴をこぼす。
「本当にさー油ギッシュな手がキモいんだわぁ」
綺麗な爪、綺麗な髪色、高そうな鞄。
女子高生の誰もが、こんな女に憧れるんだろうか?
「じゃ、そんな仕事辞めちゃえば?」
どこかで聞いたことがある。キャバ嬢の女が言われたいセリフのナンバーワンがこのセリフだって。
「辞めるわけないじゃん」
そりゃそう。一度大金を手にして、チヤホヤされたことのある人間が、一般社会になんて戻れるわけもないんだ。
欲しいだけの金額に達したら、自分の会社を始めて女社長になって、人を使う側に立つ。そのために、やりたくもない仕事をいまは我慢してやってるんだもんな。
夢を追いかけるっていうのは、男でも女もカッコいいもんだなぁ。とか、他人事のように思いながら、今日も太陽が昇ってきてしまった。
また、今日も2時間だけ仮眠をとったら、仕事にいかなくてはいけない。
「………………………だる」