入試そして卒業へ
(女子高生目線)
怒涛のように正月がすぎた。ようやく1月4日の日になり、花屋さんが店を開けたのでオーナーさんに話を聞いてみた。
「……それが、体調崩した日からいきなり辞めるって言われちゃってね。12月の終わりから出勤していないんだよ」
やっぱりオーナーさんも12月25日以降にミュートさんには会っていないみたいだ。
かき氷屋さんのお姉さんにも聞いてみたけれど、やっぱり連絡がつく手段がないみたいだった。
…諦めるしか選択肢はないのかな。相手が受験のことを気にしていたし、とにかく今は受験に専念するしかないか。
あまり、ミュートさんのことを考えないようにしながら塾に通った。
冬休みの成果なのか、Aに近い判定まで取れるようになっているけれど、これだとどこか少しでも危ういところがあれば、試験には落ちてしまうだろうし…気を緩めるわけにはいかない。
塾の先生には、これなら大丈夫だね!みたいに言ってもらってるけど…どうなんだろう…。
苦手教科だけをもう一度復習しておこう。
試験当日になった。
何故か毎年、入試がある日だけ天気が悪いのは何でなんだろう??
この日も朝から雪が降っていた。試験会場までは電車で間に合うから、実家からスタートした私に悲劇の電光掲示板が現れた。
「え…雪のため電車動けない?!」
ど、どうしよう…バス?では間に合わないか…?とにかくスマホで調べて…
私の周りにも朝の通勤の人達が、焦りの色を見せている。
「美鈴!!乗って!」
不意に背中から声がした。名前が呼び捨てな時点でミュートさんだと思ってしまった。
振り返るとそこにはシマさんが車でロータリーから声を出している事に気がついた。
「どうしたんですか?」
「困ってると思って迎えに来た。送るよ会場まで」
「え、悪いですよ。そんな」
「いま、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
たしかに。困っているのは確かなんだけど、いいのかな。
「あの、お願いします」
あとどれくらいで電車が動くのか分からないので、シマさんの車に乗ることにした。
「安全運転でいくね」
「…………。」
「ちゃんと寝れた?」
「あ、はい」
受験の前の日なんて、みんな詰め込んでるんだろうけど、なんとなくしっかりと寝ておいた。眠たい目をこすりながら問題を解くのもよくないかなって思って。
「あの…ミュートさんって」
「オレに聞いても無駄だよ。なんの連絡もないから」
皆さん、スマホを操作していたけど、ミュートさんはスマホを持っているのだろうか?
「去年までは、連絡できてたんだけどね。こないだの歌舞伎町のことでそうとう怒らせたみたいだね」
「そうなんですか?」
私には、そんなに怒ってるようにも感じなかったけど。なんのことだろう?
「予習、復習、大丈夫?」
「あ、はい。なんか、朝から妙に冷静で、落ちたら落ちたってだけのことなんで」
本当は嘘だ。ガチガチに震えてるし、落ちたらどうしよう。とは、思う。
でも、落ちたら「ほら、デートなんてして遊んでたから」と、お母さんには言われてしまいそうでそれが、嫌だった。誰も彼もミュートさんのせいにするのが…。
クリスマスに一緒にいたいって決めたのは私だし、それで落ちるなら私のせいだし、私は自分の行動を誰かに責任転嫁なんてしない。
恋も勉強も両立できると思う。だって、勉強をしたくない日だって、ミュートさんの手紙があったから、ここまで頑張ってこれたんだと思うから。
学校の友達にはSNSですぐ会って、すぐに相談できてすぐに解決できるかもしれない。でも、顔も見れなくて声も聞けなくて、それでも好きでいられるって、きっと本当に好きなんだなって実感する。
この恋が、もしミュートさんの中では、もう過去形になってたとしても…。
私は、ミュートさんがくれた指輪を見つめた。
「(あの日のミュートさんの気持ち、ちゃんと受け取ったからって、いつかどこかで会ったら、その時にはちゃんと伝えたい」
…その時には、私はもう別の人を好きになっていたりするのかな。
「会場についたよ?」
「あ、ありがとうございます」
「帰りもオレが……」
「大丈夫です!ご迷惑おかけしました」
私は、シマさんに頭を下げると試験会場へ歩き出した。
やっぱり近くに泊まっている人もいるのか、会場にたどり着いている人達は多かった。
試験表を取り出して、スマホの電源を切った。ここからは、本当に1人の戦いだ。鞄に付けた合格守りをギュッと握りしめた。
試験が始まった。私は、この空気感があまり好きではない。学校での学期末テストとかもそうだけれど、静かな空間にペンの音だけが走っている異様な空間にどうも慣れることができない。
そんなことを考えている時間も余裕もないのだけれど、答えられない問題を飛ばして、書き込める問題に挑む。
1つの教科が終わるたびに、できた問題と出来なかった問題をノートに書き込む。
「(85%くらい正解してるといいなぁ」
そう祈るしかない。全部の教科が終わって、本当だったら行きもその電車に乗ってくるはずだった路線に乗って家に帰ってきた。
結果が出るまでは、ただ待つしかない。なにも考えずに、ただ待つってなにもすることがなくて案外つらいかも。
普通の人は塾にいって、どの問題は正解してて、どれを間違えてるかで合格ラインに達しているかを予測したりしているんだろう。
過去は変えられないし、いまから正解数を変えられないし、自分はただ待つだけにした。その間に、受験する大学の倍率が例年より多い事を知り、自分がこぼれ落ちるんじゃないかってヒヤヒヤしたりもした。
でも、どうにかこうにか自分の行きたい大学には受かっていた。
それには親が一番喜んでいたと思う。
自分は、自分のことなのに、あまり受かったことを実感することもなく、卒業式の日になった。
卒業生として、受付で花を受け取る。
「ねぇねぇ、花を持ってきた人カッコよくなかった?」
「……?」
自分の胸のポケットの花を見つめながら、そうか!卒業式にも文化祭と同じように花を届けにミュートさんが来ていたのかも!と思って、駐車場に走った。
まだ、花屋さんのトラックはとまっていた。
でも、そこに居たのはオーナーさんだった。
「あ、美鈴ちゃん!卒業おめでとう」
「あ…ありがとうございます」
カッコいいってオーナーさんの事か。
そりゃミュートさんが来ていたら、人だかりとかできてるよね。きっと。
私は、自分の卒業式に戻った。吹奏楽部の後輩から、お花を受け取ったり、お祝いのメッセージを貰ったりした。
そういえば、ミュートさんに出会う前って部活とか頑張っていたっけとか、学生時代を懐かしんだ。
たった半年。…半年もなかった時間のほうが、こんなにも鮮やかな色をしていることに驚く。部活動もちゃんと青春してたなって思うんだけどな。
「美鈴ー写真とろー」
「うん」
高校生活を一緒にすごした友達とも、これであまり会えなくなっちゃうのも寂しいなと思いながら、卒業式の記念写真を撮って私の高校生活は幕を閉じた。
本来、考えていた物語は、ここで終わりの予定でした。
めずらしくブックマークついているので、
ハッピーエンドよりの1話を追加します。




