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重ための指輪

(女子高生目線)


 悲劇とは、まさにこういうことを言うんじゃないのかな…。

 いつも塾で同じように遅くなる日なんて、いくらでもあるのに、何故かミュートさんに会っていたクリスマスだけ、お母さんが駅まで迎えに来てしまった。

 何も悪くないのに、ミュートさんはお母さんに謝ってくれて、どうにか私は家に帰ってきたんだけれど、帰りがけのミュートさんの表情が思い詰めているのではないか?と、とても不安になった。

 そうでなくても、ミュートさんにとってクリスマスはそんなに楽しい思い出ではないみたいだったのに、こんなことになってしまったら、別れようとか言われてしまうのではないかと気が気ではなかった。

 どうにかこうにか、ようやく恋人になれたはずなのに……。

 家に帰ってくると、さっきまであんなに怒っていたはずのお母さんは、すでに上機嫌になっていた。

 家族全員そろってホールのケーキを食べたかっただけみたいで、全員分の紅茶を用意して、ケーキを等分して、テレビではクリスマスの番組が流れている。

 口に運んだケーキの味なんて全然しなくて、ミュートさんは子供の頃からこんな気持ちで誕生日を過ごしていたのだろうか…。

 バースデーカードを買っている時間もなかったし、コンビニのケーキも見つけることが出来なかった自分に、なんだか涙が溢れてきてしまった。

「もう、いらない」

 私は自分の部屋に戻った。

 こういうとき、やっぱりスマホがあれば……さっきはすいません。とか、何か言えるのに…。いま、ミュートさんは何を思ってるんだろう。受験勉強をしながら時計を見てみた。あと、1時間でミュートさんの誕生日が終わっちゃう…。私が、クリスマス当日にこだわらなければ、こんなことにはならなかったのかな。

「こんなに…好きなのに…」

 私が、あと1年早く生まれていたら、子供じゃなければ、頭の中を後悔でいっぱいになっていってしまう。

 

 この日の夜、めずらしく夢をみた。

『もう、お別れだね』

 悲しそうな表情のミュートさんを何も言えない私が見つめている。

 夢の中の私は「どうして?」も「なんで?」も言わない。自分の気持ちを伝えられない私はただ、ソレを飲み込むだけしかしない。立ちつくす私に、ミュートさんがどんどん遠ざかる。

 そして、私は悪夢にうなされながら目覚めた。

「ミュートさん…」

 朝6時、いつもよりも少し早く起きた私は、胸がザワザワしてしまって飛び起きた。制服に手を通すと、カバンを掴んだ。

 ドタドタと玄関まで行くと、お母さんに呼び止められた。

「朝ごはんは?」

「いらない!急いでるからっ」

 自分でもどこに向かっているのか分からないけれど、とにかく走った。

「(どこにもいなくならないでね…」

 始発の電車に飛び乗る。いつもと同じ景色が流れているはずなのに、すごくゆっくり動いているように感じた。

「(早く…早く渋谷駅について…」

 改札をICカードで抜ける。いつもの花屋さんまできて愕然とする。


『本日より正月三が日までお休みです』


「そんなぁ」

 いままでお休みなんて、あまりなかったのに…これじゃ昨日のことを謝るどころの話ではない。

 もう、今年は手紙のやり取りすらできないってことじゃん。

 私は、すぐにミュートさんのマンションまで走った。

 ピンポーンピンポーン

 中から人が出てきそうな雰囲気はない。いけないと思いながらもドアノブをひねった。

 ガチャッ

と、音をたてて扉は開いた。

「(え、開いてる?」

 不用心なほどのマンションの部屋を開けると、昨日きたときよりも殺風景になっているような気がする。

 机や椅子ソファーはあるのに、生活感だけがなくなっている。

 ミュートさんの部屋を開けると、布団やシーツがなくなり、本棚からも物がなくなっている。

「ミュートさん…」

 もしかしなくても、引っ越ししてしまったんだろうか。でも、リビングにはテレビも冷蔵庫もあるのに?


『明日、一緒に食べようか』


 ミュートさんがそう言っていた事を思い出し、電源が切れた冷蔵庫を開けてみた。そこには、私が昨日買ったマカロンがあった。

 私と同じように置いてけぼりにされた、マカロンを掴んで号泣してしまった。

「なんで………………」

 やっぱりマカロンは昨日一緒に食べればよかった。昨日が誕生日だったのになんで、今日食べることにしちゃったんだろ。

 私、なんで今日もミュートさんと一緒にいられるからって思っちゃったんだろう。

 冷蔵庫の上段に置かれたマカロンをどけると、その後ろにもまだ箱があるのが見えた。

「……?なんだろ」

 少し背伸びをしないと届かない位置には、赤い小さな箱にリボンがかけられていた。

「これって…」

 箱を開けると、また箱がでてきて、それを開けると、そこにはピンクの指輪が現れた。

「私に?」

 そんな都合のいいことあるかな?と思ったけれど、指輪の内側を見てみると、『Misuzu9/16』と、刻印されていた。

「これ、私の?!」

 私の誕生日と名前が刻まれている。間違いなく私の物だ。

 ミュートさんは、私にクリスマスプレゼントを用意していてくれたのかな。

 ピンクの指輪を自分の指にはめてみるけれど、薬指にするには少しゆるめだった。でも、中指にするには外れなくなっちゃいそうだし、どうにか落とさないように薬指にはめておくことにした。

 なんとなく、ここで待っていても、もうミュートさんは帰ってこないような気がした。なんでだろう。静かすぎるマンションに一人で待っている事が出来ないだけかもしれないけれど、冷蔵庫の扉を閉めると、マンションからも出た。

 ごめんなさいも言えず、さよならも言ってもらえないって、なんて悲しいんだろう。

 昨日まで恋人になれたことが、あんなに嬉しかったのに。

 塾へたどりつくまでの間、号泣してしまった。でも、ミュートさんに買ってもらった御守りのためにも行きたい大学には行かなくちゃ。


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