本当のこと
花束をあげた日から、お店に行列が出来ることはなくなった。
それを喜んでいるのは俺だけかもしれないが、オーナーは売り上げが下がってしまったことに、落ち込んでしまっていた。(たぶん、あとは若い女の子に会う機会が減ったからってのもあるのかもしれない。
それからは、いつも通り美鈴との手紙のやり取りが再開する形になった。
『合格祈願の神社行きたいです!
今週の土日なら、午前中大丈夫です。』
との事だったので、土曜日の午前中に一緒に神社へ行くことにした。
今回は待ち合わせをお店ではなくて、新宿駅にすることにした。
朝9時だけれど、新宿の街にはわりと人がいた。外人観光客も多いみたいだ。
「加賀さん!おはようございます!」
新宿駅で待っているとロングスカートをはいた美鈴がやってきた。
「おはよう」
あまり昼前から人に会うことがないから、まだ眠たいかも。
「渋谷駅じゃないんですね」
美鈴を送っていく駅が渋谷駅だから、2人の待ち合わせで駅というと渋谷駅を思い浮かべてしまうのかもしれない。
「調べたら新宿からなら1本でいけるみたいだったんだよね」
渋谷駅から近いと言ったのは自分のくせに、時間をよく見てみたら、新宿駅から40分もかかるらしい。下調べの大切さってあるよね…
「今日は、どこに行くんですか?」
「神田明神?っていうところ?」
自分が行こう!と言ったわりに、あまり神社には詳しくない。
「わぁ!いま、みんなソコ行ってますよ!」
「そうなの?やっぱり有名なんだね」
どうやら受験生は、みんな願掛けに行く場所のようだ。合格の御守りを買うのは、受験や勉強に関連しているから、遊んでいるとは言っても許してもらえるような気がしたんだ。
「調べてみたら、片道40分しちゃうんだけど、塾間に合う?」
「13時からなので、大丈夫です!(本当は12時半からだけど」
今日は、1時間くらいは一緒にいられるのかな。相手は、学生さんなのに受験生だとこんなにも忙しいのかと思ってしまう。
「ご両親とは、御守り買いに行った?」
「いいえ、元から頭が良くないから、親からはあまり期待されてないんです」
なんだか、相手の心をえぐってしまったようで心苦しい。
「ごめんごめん。御守りがたくさんになったら困るかなって思っただけなんだ」
「御守りはたくさんあっても困りませんよ?」
そうかな。俺は、あまり御守りをたくさん鞄につけるのは好きじゃないんだよね。
御茶ノ水駅で降りて、徒歩で神社まで向かう。手とか、繋いだほうがいいのかな。今日は、美鈴が制服を着てるわけじゃないし、周りから見ても変じゃないよね?でも、なんとなくビックリさせてしまいそうな気がして、手を繋ぐことはやめた。
何段かある階段の一番上にたどり着こうとした時、美鈴がロングスカートに足を引っ掛けたのか、前につんのめった。
「わっ!」
俺は美鈴が床に手をつくよりも早く、その腕を引っ張ってその体の前に自分の体を滑り込ませようとして、バランスを崩した。結果、床に上向きに転がった俺の上に美鈴が倒れてくる形になった。
「すいませんっ!」
「いや、受験生が転ぶのはどうかなって思って、どうにかしたかったんだけど、むしろなんか巻き込み事故みたいになってごめん…」
美鈴が体を起こしたので、俺も上半身を起こした。
「怪我はないですか??」
「美鈴は大丈夫?やっぱり手、繋ごうか」
「え?!」
俺は先に立ち上がって手を差し出した。
「いえいえいえ!緊張します!!手汗とか無理です!」
俺の手を使わずに美鈴は、ササッと立ち上がった。
「俺は気にしないからいいよ」
「私が気にするんです!」
すごい強めに意思表示されて、俺も恐縮してしまった。
「あ…すいません。今日も女子の気持ちが分からなくてすいません」
「いやいやいやいやいや…」
そのまま後ろが階段なのに後退していこうとする美鈴を自分の方へとひっぱった。
「いや、だから落ちるって………………俺と居るの楽しい…?」
「え…」
俺は、神社の方へと1人で歩き出した。
「俺、女の子といて『楽しい』って一度も言われたことない。だから、なんでいつも一緒にいるんだろう。って思う」
「そんなこと…………」
「………俺、種ナシなんだよね」
俺の後ろを追いかけてきていた美鈴の足が止まった。美鈴が立ち止まった3歩先で俺は振り返った。
相手は絶句しているんだろうか?あまりにもセンシティブな内容に、それとも理解が追いつかずにいるんだろうか、ポカンとしている美鈴に、俺は出会った時に言った言葉をもう一度口にした。
「だから、俺と一緒にいるの無駄だって言ったじゃん」
子供を望む女の子と一緒に居ることは相手にとって無駄な時間なんだろうなと、俺は思ってしまう。
美鈴にとって夢も将来もこれからやってくる人にとって、俺なんかは余計に無駄な時間だし、無駄な存在なんだろう。
「だけど、それを無駄かどうかは、自分で判断したいんでしょ?…俺は、今日が最後のデートになってもいいよ」
「そ、そんな…悲しい事言わないでください」
絞り出すように言葉をつむいだ美鈴が明らかに動揺している。
それはそうだ、キスもしていないのにそんなこと言われても困るって俺だったら思う。でも、俺からしたら、一つ一つの行為が着実に「終わり」へと向かっていくような気がして恋愛をすること自体が怖かった。それは、相手が女子高生だからじゃない。誰といても同じ。手を繋いでも、キスをしても体を重ねても、俺にはそれ以上の未来がない。相手にそれ以上の未来を与えることも出来ない人間が恋をするべきではない。
トトトッと俺に近づいてきた美鈴が、俺の目の前に手を差し出した。
「やっぱり手、繋ぎたいです」
まるで、年上の俺が手を繋げない事に駄々をこねたみたいじゃないか。少しだけ笑えてしまった。
俺は、差し出された手を握り返した。
「温かいね」
「むしろ、ミュートさんの手、冷たすぎませんか?」
「緊張してるのかも……俺も」苦笑




