片想い組×2
(少年くん:小野目線)
「え?ちょっと!!」
オレの目の前から畑谷とオッサンが手を繋いで公園から走り去っていく。
オレは呆然として足を止めた。
「行っちゃったね。君は、加賀くんの知り合い?」
オレの後ろから追いかけてきていたらしい、オッサンの恋人?に話しかけられた。
「え?」
振り返ると小柄な女の人がオレを見上げていた。
「さっきなんか話してたよね?」
優しく微笑まれると初めましてなのにドキドキしてきてしまうくらい綺麗な見た目の人だった。
「アナタはオッサンの何なんですか?」
「オッサンwwあははw」
目の前の女性がお腹を抱えて笑い始めた。
「あはは、君たち年下からしたら加賀くんは、もうオッサンかもしれないねぇ」
オッサンが実際の所、何歳なのかは知らない。けれど、大学生という感じはしないから25歳以上なんだろう。
25歳だと仮定して考えても俺や畑谷からしたら7歳も違うということになる。まちがいなくオッサンだ。
「じゃ、私はオバサン?」
「いえ、そんな失礼なこと言いませんよ」
目の前の人は若そうだし、オバサンというほどではない。
「加賀くんと一緒に走って行った女の子の同級生か、なんか?」
「まあ、塾が一緒なだけです」
「でも、好きなんだよね?」
なんだろうか。このやりとり、こないだオッサンともしたような…。
「はい。でも、オッサンとの恋を邪魔するなって怒られました…」
畑谷とのことを問われて、なんだか虚しくなってきてしまった。通っている学校も違うし、ただ塾で一緒のクラスなだけの存在なオレ。
「振られちゃったの?」
「いえ、まだ告白してないので…振られたわけでは………そう、思いたいだけかもしれません………」
走り去っていく畑谷が、一瞬こちらを振り返ったような気がするんだけど、オレに申し訳なさそうな顔をするわりには、畑谷はやっぱりオッサンを優先したんだから、振られたようなもんなのかもしれない。
「ふふ、私と一緒だね♫」
「なにが、ですか?」
「私も加賀くんには振られてるから、振られた者同士一緒だねって」
相手から振られているのにキスしたのか…この人は??意味が分からん。
綺麗な女の人は、オレに一歩近づくと、オレの体をぎゅっと抱きしめた。
「な、なっ…なにを」
「ぎゅーってして、よしよししてあげる」
年上の女性の胸があたって、同時に頭を撫でられる。それだけで、好きでもないのに自分で自分の顔が赤くなるのを感じる。
「男子ってー単純だよねー」
そんなオレを見て相手はゲラゲラと笑っている。正直、気に入らない。
「オレをからかうのやめてください。オレは畑谷が好きなんです…」
目の前の女の人の目的がよくわからない。
「でも、振られたなら次にいけば?」
「……それは、アナタが自分に言い聞かせたい言葉ですか?」
もしかして、この女の人は諦めるきっかけが見つけられずにいるんだろうか?
「そうかも。諦められないよね。振られても簡単にはさ」
お姉さんは、明らかに悲しそうな顔をし始める。
「諦められないから、ズルズルするのは相手にも失礼ですよ」
好きな人の新しい恋を邪魔するためにオッサンにキスをして、畑谷を苦しめたんだとしたら…そうとうな性格の悪さがうかかえる。
恋は盲目だっていうけど、それは自分にも言えることなんだろうか…。
オレも畑谷の恋を邪魔してるわけで…。
本人からも迷惑と言われてしまったわけで…。
好きな人が自分以外の誰かと幸せでいてくれたら満足なんて、そんなこと言う人もいるけれど、そんなの嘘だ。
やっぱり苦しい。諦めること以前に、自分が好きな人を幸せに出来ない事実も振られたかもしれない事も…何もかも受け止められないくらい苦しい。
お姉さんの状況と自分の状況が同じすぎて、自分が口にする全てが綺麗事のように自分自身に突き刺さる。
たしかに、お姉さんのように好きな人が自分を好きにならない事も振られた事も全て箱につめて、どこかに置いておけるなら、そのほうが楽なことは確かだ。
伺ってしまうんだ。好きな人が好きな人に振られる瞬間を……自分をもしかしたら頼りにしてくれるんじゃないかという期待が、諦めるという選択肢を見えなくさせてしまうんだ。
でも、客観的にみたらこんなにも答えはわかりきっていることなのに…。
自分も足掻いて藻掻いて畑谷の好きな人をオッサンってディスって…オレもそうとうに性格が悪い。
「おぉーい」
喋らなくなったオレの目の前をお姉さんの手が揺れる。
「えと」
「花火始まったから、一緒に見ようよー」
「え?」
お姉さんが指さした先には、大きな花火が空を彩っていた。
「花火見るために来たんでしょ?」
「そうですけど…」
強引にオレの腕を掴んだお姉さんが、屋台やキッチンカーのあるほうへと引っ張る。
「落ち込んだまま一人で見るよりいいじゃん♫お姉さんがビールオゴってあげるぅ」
「だから、オレ未成年……」
「マジメくんかよw」
最後の最後まで抵抗すると、お姉さんが自分用に買ったビールを一口だけオレにくれた。なんだか、いまの自分の置かれている状況と同じくらい苦い味が口の中に広がった。
大人になることが、毎日苦い気持ちをお酒でごまかして、次の日を迎えているというのなら、オレはまだ大人にならなくてもいいやってビールを返しながら思った。




