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名前で呼んでくれない?

 8月の予定がない東京在住30才手前のオッサンって皆なにしてるんだろか。

「ヒマだなぁー」

 海に行く予定もなければ、キャンプにいく予定もない。でも、シマにナイトプールに誘われたような気もする。

 でも、水着もってないしなぁ…

 冬生まれの俺は夏が嫌いだった。生まれてこの方フェスにも行ったことはないし、夏にはしゃげる人間になってみたいもんだ。

昼前の11時頃、今日も女子高生はやってきた。やたら大きな紙袋と小さな紙袋を持っている。…大きなつづらと小さなつづら…を想像して、夏のホラーが始まるのかと身構えた。

「あの、お借りしていたスエットと…その…お弁当作ってみたんですけど!どうぞっっ」

「え…(大きなつづら系ホラーじゃなかった」

 美鈴ちゃんから大きな紙袋を差し出されるまで、正直泊まりに来た日から今日まで自分のマンションからスエットがなくなっている事にすら俺は気がついていなかった。

「あ゛…人が作ったもの食べれないタイプですか?!すいません」

「違う違う。スエットの事すっかり忘れてただけ。今日も塾?一緒にお昼食べない?」

「え、でもお弁当ひとつしか…」

 いきなり女子高生が焦り始めた。俺はべつに1つのお弁当を2人でシェアしたかったわけではないんだが。

「君のお昼を俺が買わせて?お弁当作ってきてくれたお返しにさ。そうしたら、一緒にお昼食べる時間ありそ?」

「なるほど!はい、時間はありますっ」

 相手の返事を待って、笑顔になった俺がいる。これは、恋?なんだろうか。

「オーナー、俺休憩行きます」

「はいはいーいってらっしゃい」

 あいわからず、ニヤニヤしたオーナーに見送られて、俺達は花屋の裏にある公園にやってきた。

 公園というか市が運営しているビルに広場が併設されている場所なんだが、普段お昼はここで食べている。

 ビルには、図書館や国際センターなどが併設されている。その一部に、パン屋とカフェがある。

 俺は美鈴ちゃんと一緒にパン屋にやってきた。

「食べたいもの言ってー」

 俺がトングとトレーを持つと、自分が食べたいものも取っていく。

「ベーコンフランスパンと夕張メロンパンを…」

「お昼、そんだけ?!」

 その2個だけで、22時に家に帰るまでたりるんだろうか?

「え…じゃ、コーンパンを追加します。(絶対に3つも食べられない気がする」

 店内にテーブルがないので、外で食べることになるから、飲み物も買わないと…と思い質問する。

「オレンジ大丈夫?」

「はい(ジャムの話?かな」

 俺は購入したパンに飲み物を付けて会計をした。持ち帰りといっても、ビルを出たところの広場で食べるんだけど。

 パン屋を出て、広場の木陰のベンチに座った。

「えーと、ベーコンと夕張とコーンパン…あとオレンジのフラッペ」

「え?!私に?いいんですか?」

 パンと一緒に美鈴ちゃんが受け取る。

 広場にミストが出ているといっても暑いことは暑い。

「あの…また、オゴってもらってしまってすいません」

「いいよ。お弁当を作るのって、わりとお金かかるでしょ?」

 あまりバイトをしていない高校生にお金を使わせたくないという気持ちが率先してしまう。

「だから、嬉しいけどあまり無理しなくていいから………いや、嬉しい事に間違いないんだけどね?」

 無理して作らなくていい。は、もうお弁当持ってこないでくれる?って聞こえてしまいそうなのが嫌で、気持ち側をメインに伝えてみた。

「よかったです。喜んでもらえて」

 受け取った小さな紙袋のほうから、お弁当箱を取り出す。キャラクターが描かれた小さなお弁当を開けると、そこにはオムライスが入っていた。

「オムライスだ」

 一緒に入っていたスプーンで卵とケチャップライスをひろい口に運ぶ。

「うん。美味しい。料理あまりしたことないって言ってたのにすごいね」

「卵を何個か失敗しちゃいましたけどね」

 失敗することよりも、俺のために使った時間がもったいなくて申し訳ない。

 美鈴ちゃんもパンを口にする。

「買ってもらったパンも美味しいです」

「このパン屋さん気に入ってるんだ」

「そうなんですね。わかります。どれも美味しいですもん♫」

 思いの外ちいさかったので、俺は作ってもらったお弁当をすぐに食べ終わってしまった。自分用にもパンを買ってよかった。

「でも、なんでお弁当作ってくれたの?」

 いままでは、こんなことしてきたことがなかったから、なんでいきなり今日お弁当を受け取ることになったんだろうか?

「こないだのスパゲッティのお礼ですっ」

「ああ、なるほど。たいしたパスタでもなかったろうに…」

「そんなことないです!私、嬉しかったです」

 高校生にとっては、簡単に作れるメニューでも嬉しいらしい。

「また、いつでも食べにおいでよ」

 そう口にして、相手がビックリしている事に気づいて訂正する。

「あぁ、未成年にこういうこと言うのはよくないね…」

「いけるものなら、行きたいですよぉ」 

 怒っているような、泣き出しそうな、喜んでいるような?複雑な表情をされる。

「ごめん。泣かないで…うーん、高校生と付き合ったことないから、チャラくみられるのも嫌だし、たぶらかしてるみたいに思われるのも嫌で困る」

「なんでですか?」

 自分の気持ちがまだはっきりとはしなくても、相手からの好意を好意で返してあげたいとは思うから…かなぁ

「誰かに料理を作ってもらったことがなくて、純粋に嬉しいんだけど、俺が美鈴ちゃ……あ、美鈴って呼んでもいい?」

「いま?!いきなり?!(何故」

 なんか、大切なことを言わないといけないところだったような気がするんだけど、ずっと気になっていたので話題を変えてしまった。

「こないだ泊まりに来た時に喋ってて思ったんだけど、ちゃん付けって俺のガラじゃないなって気づいて…だから、そっちも名前で呼んでくれない?」

「お兄さんじゃなくて…加賀さん?」

「うーん……」

 俺が、ソレじゃないくてーという顔をしていると

「えと、ミュートさんのほうですか?(下の名前で呼ばれるの嫌なのかと思っていたのですが」

「うん。誰からも呼ばれないから、なんかそのほうが意識するかも」

「でも、いきなり下の名前は緊張します(い、意識するって言った?」

 名前で呼んでもらうのは、あまりにも唐突だっただろうか。

「でも苗字だと、みんなと同じだしな」

 なんか、他の人とは違うなにかがあったら自分が特別なんじゃないか?って勘違いできるかもしれないなって思ったんだよね。

「ぐ………じゃ、頑張ってみます」

 まーとはいえ、無理なお願いをしてしまったのかもしれない。

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