表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

別れと出会い


 1年と少しの季節を共にしてきた目の前の人がそう言った。

「私、今度結婚するんだ」

 俺のことを真っ直ぐ見つめる女性からの言葉に、俺は淡々と答えを返した。

「………うん。それで?」

「止めたりしてくれないの?」

「俺に止める権利ってそもそもある?」

 そもそもの前提がおかしい。

「…………やっぱり好きじゃないじゃん」

 ただ、ここまでを聞いていたなら、これは恋人の別れ話にでも思えることだろう。俺たちは、付き合ってなどいないんだ。

「そうじゃなくて、親が紹介した人と結婚したくないから、彼氏の役やってよ。とかじゃなくて、そもそも俺と付き合ってないのに、俺がどうやったら君を止められるのかを教えてよ」

「………付き合ってるつもりでいたのは私だけなのが辛かったから結婚するんだよ」

 勝手にどうぞ。と言う話だ。俺がただ冷たい人間に思えるかもしれないが、付き合えないけれど傍にいたい。という条件で一緒にいたのは女の方で…。俺には、呼び止めるほどの情がない。いつも「最低だね」という言葉をもらうのは俺の方なのが理解できない。人間として終わっているのか??

「じゃ、仮に付き合っていたとして、べつの男を見つけました。出ていきますって言われて…ショックなのはコッチなのに、なんでショック受けたのは私ですって言われにゃならん?」

「そういうところが嫌いなんだよ」

 向こうがコウ言うから、コチラはそう言うと…すぐに揚げ足とりとして扱われる。

「知ってるよ。だから、付き合わなかったんだろ」

 目の前の女性にかぎらず、それは学生時代からずっとそうだった。女にとって、俺は一途な人間でも、一途ではなくても、結論として「最低な人間」という感情論をぶつけられる。

「でも、好きだったんだよ」

 アナタは、ね。それは、アナタだけなんだよ。30歳を手前にして、恋人に求めるものが『ルックス』を譲れない人間が、愛情もないのに、友達に自慢したいっていうそれだけで俺と付き合ってると思い込みたい愚かな女の末路だろ。

「一緒にいたから付き合ってると思ってた。とか……好きとも言ってないのに私は好きだったのに。とか言われても………」

 女にとって男って飾りなんだと思っていて、そんな女の機嫌をわざわざとって恋人でいることが馬鹿らしくて、大人になってから、まともな恋愛をしてきたことがなかった。

 そもそも学生時代の恋さえ、まともだったのかさえ怪しい。

 女は、自分にも悪い部分があるくせに、それを認められない所も嫌いだし、そんなものに振り回されて生きるのはごめんだ。と、思いながらも独りでいる寂しさから、来るもの拒まずな人生を送ってしまっていた。

 おおよそ、これは俺が悪いのか…?そうなのか?いつもよくわからない。

 女の身勝手さに付き合ってると思ってはいるが、勝手に幻滅して勝手に去っていくのには慣れこそあれど、やはり面倒くささが拭えなかった。

 本当の恋愛って、存在するんだろうか?出会って運命の人だ!と、ビビッとくる。という言葉が、いまだになんなのか、よくわからない。

 でも、恋はしてみたい…。という気持ちがないわけではない。どんな人となら『恋』と呼べるのか、どんな人なら自分を信じさせることができるのか、俺はいまだに謎のままでいた。


 この日もファミレスで水を頭からカブって帰宅した。



◇◇◇

 俺は成人してからずっと花屋で働いている。

 誰かがやってきては、毎日知らない人のお祝いのために、せっせとブーケを作る。

 自分が好きな人のために花束を贈ったことはない。

「これ、お兄さんに」

「…………?」

 よく花屋にくる女子高校生が俺に小さなブーケを差し出した。

「すごい花が似合うから」

「……それは、どーも」

 女の子は小走りに去っていく。

「あーあ、これはまたイケナイ恋始まっちゃう?」

 花屋のオーナーがニヤニヤしながら言った。

「いや、犯罪者にはまだなりたくないですね…」

「え、かわいかったのに、もったな」

 女と付き合うことに飽き飽きしているのに、明らか女子というジャンルに手を出す気すらない。

「俺みたいな人間になんて、すぐ飽きますよ」

 高校生からしたら、大人の恋に恋焦がれているだけの、それこそ恋愛というにはマヤカシに近いような気がする。

「いつもつまらないって言われてるんだっけ?」

 ヒゲを生やしたオーナーが俺の日常を勝手に想像して評価をする。

「そんなこと言われたことはないです」

「そう」

 いつも「アナタみたいな彼氏が理想」と言われる。理想のわりにすぐにフラれるのは何でなんだろうな。


 茶髪の女の子は次の日もやってきた。

「あ、いた」

 とても小さな声でそう聞こえた気がする。

 本当に俺は、ロックオンでもされてしまっているんだろうか?

「お兄さん、カッコいいですよねっ」

「ここのオーナーがイケメンしか雇わないだけだよ。べつにオレは自分をイケメンだとか思ってないし」

「えーそうなんですか?もったいない!」

 もったいないの定義がよくわからんな。俺は、話題を変えることにした。

「推しとかいないの?」

「推し?アイドルの?いないかな…なんで?」 

 女の子は、少し考えると芸能人の推しは居ないと返答した。

「いま花屋に来る女子って推し活の人が多いから」

「お兄さんといつならデートできます?」

 話をそらしたはずなのに、何故かド直球な球が放られた。

「土日はライブの花作らないとだから、忙しいかな…。学生なんて休日しか休みないでしょ?」

「そんなことないですよ」

 ていよく断りたいのに、向こうからグイグイくるなぁ。…若さかな。なんの嫌味なんだろうか。

「部活とかしてないの?」

「3年生なんで、部活は引退しました」

「ヒマ人なの?」

 部活を引退した人ってやる事が恋愛しかないの?

「受験は控えてますけど、まーまーヒマです!」

 少し考えるような素振りをして、ヒマなのかヒマじゃないのか、よくわからない曖昧な答えを返される。

「……………そ。いらっしゃいませ」

 他のお客さんが入ってきて、話ができる時間が終わってしまったことを悟ると女の子は帰っていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ