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騒がしき静寂

シエラから緊急の連絡を受けたユリウスは、軽く顎を引いてうなずくと、


「詳しい話は、奥で聞こう」


 とだけ言い、彼女を伴って事務棟の小さな会議室へと向かった。


 壁には木製の書棚、中央に据えられた古びた長机。窓から差し込む午後の光が、埃を金色に浮かび上がらせていた。普段は報告書の整理や簡易な会議に使われるだけの、静かな空間だ。


 シエラは、先ほど受け取った王都からの報告書を急ぎ机に広げる。その指先はわずかに震えていた。


 ──調査隊、消息不明。

 ──遺跡周辺、魔素濃度の急上昇。

 ──構造未解析。内部探索困難。


 赤インクで記されたその文字列が、彼女の胸に冷たい緊張を走らせる。


 黙って目を通していたユリウスが、ふっと小さく息を漏らした。


「……やっぱり、ただの護衛で終わる話じゃなかったか。

 まあ、元より受けるつもりだったが──これで“確定”だな」


 その言葉に、シエラはふいに胸が詰まるのを感じた。

 ユリウスはいつも通り落ち着いている。でも、彼がこれから向かうのは、命の保証もない危険地帯だ。


「ユリウスさん、一人で向かわれるのですか?」


 言葉を選びながら問いかけると、彼は淡々と答える。


「調査隊に生存者がいる可能性もあるからな。迅速な救出が優先だ。……情報はすべて整理しておいてくれ」


「……はい。すぐに用意します」


 シエラは深くうなずき、息を吸い込んだ。彼女にできるのは、ユリウスの背を支えることだけだと分かっているからこそ、足取りを重くして部屋を後にした。


 ──でも本当は、言いたかった。「行かないで」と。


 その一言を胸の奥に沈め、シエラは走り出した。


 静けさが戻った会議室で、ユリウスは腰に備えた愛剣《蒼牙》に手を添えた。常に携えるその剣の重みは変わらない。だがそこに込める覚悟だけが、少しだけ違っていた。


(……せっかく築いた平穏だ。守れるものなら、守らないとな)


 独り言のようにそう呟き、彼はコートの襟を整える。


 木造の廊下を抜け、昼の陽射しが差すギルドの玄関へ。すれ違う冒険者たちが、彼の背中を見送るように静かに道をあける。


 扉を押し開ければ、辺境の町の風景が広がっていた。

 通りにはパンの香り、遠くから聞こえる子どもたちの笑い声、鍛冶場の槌音──守るに足る日常の音がそこにあった。


 ユリウス=レインハルトは静かに歩き出す。


 その一歩は、消息不明の調査隊と、遺跡の奥で蠢く“異変”へと向けて。

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