交差する刃、重ならぬ心
演習場に、風が鳴る。
クラウスの掛け声で始まった合同訓練は、思いのほか重苦しい空気を孕んでいた。
“かつての英雄”ユリウスを中心とした〈蒼銀の剣〉と、王都からの精鋭三名。
両者の間には、見えない壁があった。
「次は模擬戦だ」
クラウスが厳粛な声で言う。
「エルドとリオ組、対するはヴァルドとシルヴィア。制限時間は十分、戦意喪失か戦闘不能で勝敗を決める。全力で挑め」
「うし、やっと俺の出番か」
エルドが鉄の盾を肩に担ぎながら歩み出る。
「よろしく頼むぜ、王都の騎士さま方」
口調は軽いが、眼光は鋭い。
「……こちらこそ」
シルヴィアが礼儀正しく会釈する。
隣のヴァルドは大剣を肩に担ぎ、鼻で笑った。
「手加減はいらねぇよな? 模擬だろうが、戦場だ。叩き潰す覚悟で来いよ」
リオはそれに対し、冷ややかに応じた。
「ならこちらも、容赦しない」
◆
開始の合図と同時に、ヴァルドが地を蹴った。
「《剛破陣》!」
踏み込んだ大剣が、空気を震わせて唸りを上げる。
「くっ……!」
エルドが盾で受け止めるも、衝撃が全身を打ち、二歩ほど後退する。
「エルド、下がれ!」
リオがすかさず後方から矢を放つ。風の魔力を帯びた連射矢が、一直線にヴァルドの胸元を狙う。
「……見えてますよ」
だが、矢の前に聖なる光の壁が展開される。
「《聖障壁・第七層》」
シルヴィアが柔らかな微笑みのまま詠唱し、すべての矢を防いだ。
「障壁が機能してる、か……」
リオは眉を顰めながら間合いを取る。
その間にも、シルヴィアはさらなる魔術を唱えていた。
「《加護の福音・力の恩寵》」
光の粒子がヴァルドを包み、筋肉が一回り膨張するような圧を纏う。
「強化魔術込み、かよ……! 盾じゃ足りねぇな、こりゃ」
エルドが苦笑しながら再び前に出る。
「《鋼鎧の号令・重斬》!」
盾を構えたまま突進し、大剣の軌道に力で割り込む。
だが、その隙をヴァルドは見逃さない。
「その動き……読める」
瞬時に足元を蹴り崩し、斜め上からの斬撃。
エルドがよろめく。
その瞬間、リオの矢がヴァルドの脇腹を正確に射抜いた。
「……よしっ!」
しかし、それすらも、
「効かねぇよ、小細工はなァッ!」
振り抜いた大剣の余波がリオの足元を削り、彼はバランスを崩して膝をつく。
◆
模擬戦、終了。
「勝者、王都チーム」
クラウスが静かに宣言する。
「……くそ、なかなかやるじゃねぇか……」
エルドが苦笑しながら立ち上がる。
だが、場の空気は静かだった。
リリィが、不満げにシルヴィアに詰め寄る。
「ちょっと、もう少し手加減してもいいんじゃないですか!? 模擬戦なのに……!」
シルヴィアはにこやかに応じた。
「すみません。でも、こちらとしては“命を預ける相手”かどうかを見極めたいのです」
「……!」
「甘いのよ」
それまで黙っていたフィアが口を挟む。
「そんなんで瘴界に挑むつもり? あれは“ぬるい信頼”じゃ乗り越えられない」
リオが間に立つ。
「それでも、俺たちは……お互いを信じる選択をしてきた。力のぶつけ合いじゃ、守れないものがある」
フィアが目を細める。
「相変わらずだね、ユリウス。変わってない」
その視線が、静かにユリウスに向けられる。
「……お前は変わったように見えて、何も変わってない。“甘い絆”に寄りかかって、傷つく未来が見えてない」
ユリウスは静かに彼女の言葉を受け止めた。
「……それでも、守れると信じてる。誰かを信じる強さは、お前が思ってるほど脆くない」
二人の視線が交錯し、やがてフィアはふっと目を逸らした。
「……なら、見せてもらおうか。“絆の強さ”ってやつを」
その一言に、仲間たちの視線が集まる。
確執と対立。その奥にある、かつての信頼と痛み。
すれ違う心は、再び交わる日を迎えるのか――。
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