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交差する刃、重ならぬ心

演習場に、風が鳴る。


クラウスの掛け声で始まった合同訓練は、思いのほか重苦しい空気を孕んでいた。

“かつての英雄”ユリウスを中心とした〈蒼銀の剣〉と、王都からの精鋭三名。

両者の間には、見えない壁があった。


「次は模擬戦だ」


クラウスが厳粛な声で言う。


「エルドとリオ組、対するはヴァルドとシルヴィア。制限時間は十分、戦意喪失か戦闘不能で勝敗を決める。全力で挑め」


「うし、やっと俺の出番か」


エルドが鉄の盾を肩に担ぎながら歩み出る。


「よろしく頼むぜ、王都の騎士さま方」


口調は軽いが、眼光は鋭い。


「……こちらこそ」


シルヴィアが礼儀正しく会釈する。


隣のヴァルドは大剣を肩に担ぎ、鼻で笑った。


「手加減はいらねぇよな? 模擬だろうが、戦場だ。叩き潰す覚悟で来いよ」


リオはそれに対し、冷ややかに応じた。


「ならこちらも、容赦しない」



開始の合図と同時に、ヴァルドが地を蹴った。


「《剛破陣》!」


踏み込んだ大剣が、空気を震わせて唸りを上げる。


「くっ……!」


エルドが盾で受け止めるも、衝撃が全身を打ち、二歩ほど後退する。


「エルド、下がれ!」


リオがすかさず後方から矢を放つ。風の魔力を帯びた連射矢が、一直線にヴァルドの胸元を狙う。


「……見えてますよ」


だが、矢の前に聖なる光の壁が展開される。


「《聖障壁・第七層》」


シルヴィアが柔らかな微笑みのまま詠唱し、すべての矢を防いだ。


「障壁が機能してる、か……」


リオは眉を顰めながら間合いを取る。

その間にも、シルヴィアはさらなる魔術を唱えていた。


「《加護の福音・力の恩寵》」


光の粒子がヴァルドを包み、筋肉が一回り膨張するような圧を纏う。


「強化魔術込み、かよ……! 盾じゃ足りねぇな、こりゃ」


エルドが苦笑しながら再び前に出る。


「《鋼鎧の号令・重斬》!」


盾を構えたまま突進し、大剣の軌道に力で割り込む。

だが、その隙をヴァルドは見逃さない。


「その動き……読める」


瞬時に足元を蹴り崩し、斜め上からの斬撃。


エルドがよろめく。


その瞬間、リオの矢がヴァルドの脇腹を正確に射抜いた。


「……よしっ!」


しかし、それすらも、


「効かねぇよ、小細工はなァッ!」


振り抜いた大剣の余波がリオの足元を削り、彼はバランスを崩して膝をつく。



模擬戦、終了。


「勝者、王都チーム」


クラウスが静かに宣言する。


「……くそ、なかなかやるじゃねぇか……」


エルドが苦笑しながら立ち上がる。


だが、場の空気は静かだった。


リリィが、不満げにシルヴィアに詰め寄る。


「ちょっと、もう少し手加減してもいいんじゃないですか!? 模擬戦なのに……!」


シルヴィアはにこやかに応じた。


「すみません。でも、こちらとしては“命を預ける相手”かどうかを見極めたいのです」


「……!」


「甘いのよ」


それまで黙っていたフィアが口を挟む。


「そんなんで瘴界に挑むつもり? あれは“ぬるい信頼”じゃ乗り越えられない」


リオが間に立つ。


「それでも、俺たちは……お互いを信じる選択をしてきた。力のぶつけ合いじゃ、守れないものがある」


フィアが目を細める。


「相変わらずだね、ユリウス。変わってない」


その視線が、静かにユリウスに向けられる。


「……お前は変わったように見えて、何も変わってない。“甘い絆”に寄りかかって、傷つく未来が見えてない」


ユリウスは静かに彼女の言葉を受け止めた。


「……それでも、守れると信じてる。誰かを信じる強さは、お前が思ってるほど脆くない」


二人の視線が交錯し、やがてフィアはふっと目を逸らした。


「……なら、見せてもらおうか。“絆の強さ”ってやつを」


その一言に、仲間たちの視線が集まる。


確執と対立。その奥にある、かつての信頼と痛み。


すれ違う心は、再び交わる日を迎えるのか――。

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