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王都より来たる者

朝、まだ空が白むばかりの時間。

ギルド〈蒼銀の剣〉のホールには、いつもの喧騒がなかった。


普段ならエルドの大声や、リオの皮肉交じりの言葉、そしてリリィの朗らかな笑い声が響いている時間帯だ。

だが今日は、皆が妙に静かだった。


リリィ・エアハルトは、カップを両手で包み込むようにして座っていた。

ミントの香りが立ちのぼるが、心のざわめきは収まらなかった。


「王都から来るって……どんな人たちなんだろう……」


ぽつりと呟いた言葉に、隣の椅子で腕を組んでいたエルドが応じる。


「どうせ、格式ばった連中さ。命令ばっかりで、現場のことなんざわかっちゃいねえ」


「……でも、ユリウスさんの“昔の仲間”なんだよね」


その一言で、場の空気が一瞬にして張りつめた。


向かいの席に座っていたリオが視線を上げる。


「それだけじゃない。今回は“瘴界の兆し”――異常魔力の震源調査って話もある。

本来なら国家規模の問題。そういう意味じゃ、彼らが来るのは当然だ」


「でも……なんか、胸がもやもやするの……」


リリィは唇を噛んだ。


ユリウスと過ごした時間は短い。だが確かに、その中で得たものは多かった。

彼の背を見て、強くなりたいと思った。

彼の言葉に、救われたこともあった。


それでも――

自分の知らない“彼”を知っている人たちが来る。

それが、怖かった。


「リリィ、来たぞ」


重い扉が開き、ギルドマスター・クラウスが入ってくる。

その後ろに現れたのは、三人の異なる気配を持つ者たちだった。


真っ先に目を引いたのは、銀の長髪を持つ女性。

鋭く整った顔立ちに、真紅の外套。肩には騎士団章が輝いている。


「―― フィア・クローディア。王都直属騎士団副団長。命を受け、此度この地に参上した」


凛とした声が、空気を切り裂いた。


その横には、屈強な体格をした大男が立っていた。

黒のコートに身を包み、無骨な剣を背負っている。


「俺はヴァルド・アルヴァイン。……昔の縁ってやつでな、呼ばれてやって来た。よぉ、ユリウス」


最後に姿を現したのは、白銀の髪と淡い金の瞳を持つ修道服の女性。

その立ち姿は優雅で、神聖な気配すら纏っていた。


「神聖術士、シルヴィア・ラングレー。王都神殿の命を受け、魔力裂の調査および浄化のため派遣されました」


三者三様の存在感が、場を圧倒する。

その誰もが、ユリウスの前に立つときだけ、空気を変えた。


「久しいな、ユリウス」


フィアの言葉に、ユリウスは静かに頷いた。


「――ああ、五年ぶりか。変わっていないようだな」


「君こそ。相変わらず冷静な目だ……でも、その奥に、かすかに“怒り”を感じる。瘴界が、原因か?」


「……ああ。ここにも、確実に“侵食”が迫っている」


場の空気がさらに張り詰める。


ユノが眉をひそめて一歩前に出る。


「侵食……あなた方はどこまで知っているの?」


その問いに応じたのは、シルヴィアだった。


「王都神殿では、すでに三つの瘴界兆候を観測しています。全て、地脈の乱れと“魔素の濁り”を伴って出現した。

北の山岳地帯――この地にある裂け目は、最も深く、危険です」


その言葉に、全員の表情が険しくなった。


クラウスが低く声を発する。


「それで……“今の”〈蒼銀の剣〉と“王都勢”が、共同で任務にあたるわけだな?」


「はい」

フィアとユリウスが同時に頷いた。


「異議はない。俺たちは、力を尽くす」


「共に戦おう。過去の仲間として――今の仲間として」


その一言に、リリィの胸がざわめいた。

けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。


(……ユリウスさんの過去も、きっと彼の一部なんだ。なら――)


ぎゅっと拳を握る。


(私も、負けない。この場所で、ユリウスさんと一緒に歩んでる今を……私は、大切にしたい)


過去と現在が交錯し、未来の戦いへと繋がっていく。

瘴界の兆しと、王都の使者がもたらす運命の歯車が、今、動き始めた。

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