表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/42

虚構の影

あたり一面を覆っていた黒霧が、音もなく渦を巻いた。

影の中心に、禍々しくも静かな“それ”が浮かび上がる。


異形の影──人の形を模しているようで、けして人ではない。

全身が煤けた闇に包まれ、節くれだった腕が六本、そして背後には無数の触手。

核を破壊されてもなお動く、影の本体だった。


「……随分と、しぶといな」


ユリウスは剣を構えたまま、静かに睨む。


「先に出てきた連中とは明らかに違うわね。……ユリウス、これは危険よ」


ユノの声も低く張り詰めていた。魔力の密度が異常だ。影は核を破壊されることで、本質をむき出しにしてきた。


「──!」


突如、影が跳躍した。視界に捉えた次の瞬間には、腕が大地をえぐる。


「速い!」


ユリウスがすかさず跳び退き、地を蹴って横へ跳ぶ。その直後、地面に突き立った腕が黒い霧を爆ぜさせた。


「《霧刃・肆ノ型》──『返刃』!」


回避しながら体を捻り、ユリウスの斬撃が影の腕を斬り返す。だが手応えが薄い。刃が通ったかに見えて、霧のように形を保ったまま戻る。


「物理が効きにくいのか……!」


「ただの影じゃない、魔力そのものが実体を作ってる。下手に近づけば包まれる!」


「なら、散らすしかないな──!」


ユリウスの左手が、青白い光を帯びた。


「《風魔術・短詠》──『風断』!」


斬撃に合わせて放たれた風刃が、影の本体を裂く──はずだった。だが影は自ら分裂することでその軌道を回避し、背後に回り込んできた。


「っ!」


ユリウスが振り返る間もなく、触手が伸びる。その瞬間、


「《氷壁展開》──!」


ユノの詠唱が終わり、ユリウスと影の間に氷の盾が瞬時に生成された。触手が叩きつけられ、氷塊が砕ける。


「助かった」


「礼はあと。……行くわよ!」


ユノが詠唱を続けながら後方に下がり、ユリウスが突っ込む。《霧刃・弐ノ型》──『斜刃連舞』で切りかかると、今度は影がその攻撃に合わせて触手で絡め取ろうとする。


「──《雷魔術・連式》、『雷纏掌』!」


ユリウスの剣から迸る雷が、触手の根元を撃ち抜いた。影が苦痛のように後退し、黒霧が激しく渦を巻く。


「剣だけじゃ通じない……魔術と併用する」


「最初からそのつもりだったでしょう?」


「まあな」


ユリウスが息を整えながら構え直す。

その姿に、ユノは確信する。彼は本気を出し始めたのだ。


「なら、合わせるわ」


ユノが再び詠唱を始めた。複数の氷槍が頭上に浮かび、魔力の気配が強まる。


「──来る」


影が咆哮を上げ、地面に突き立てた六本の腕から黒い波動を走らせる。大地が跳ね、重力の波のような衝撃が辺りを覆う。


「ユノ、上空!」


「任せて!」


ユノの指先が奔るように動き、氷槍が一斉に射出された。その合間を縫うように、ユリウスが飛ぶ。


「──《霧刃・壱ノ型》──『瞬閃』!」


風を切るような一閃が、影の顔面を抉る。続けて放たれる雷撃が胴体を貫いた。


「《雷魔術・中詠》──『雷走雷鎖らいそうらいさ』!」


周囲に走る鎖状の雷が、影の周囲に幾重もの拘束を形成する。影が抵抗しようと触手を爆ぜさせた瞬間、


「──《氷葬魔術・極式》、『凍結葬矢』!」


ユノの矢が雷の拘束の隙間から滑り込み、影の胸を正確に貫いた。

凍てつく音。瞬間的に影の動きが止まる。


「今だ、ユリウス!」


「──ああ。仕留める」


剣にすべての魔力が集中していく。風が渦巻き、雷が暴れ、氷が剣を彩る。


「《霧刃・終ノ型》──『霧幻殲華むげんせんか』!」


一歩、二歩、三歩──すべてを溶かすような剣閃が放たれる。

周囲の影を切り裂き、雷を引き、氷の花弁を散らしながら、影の中心へ突き刺さる。


刹那、影の本体が光の粒子となって四散した。

黒霧が消えていく。残されたのは、静寂だけだった。


「……ふぅ。終わった?」


ユノが魔力を収め、地面に膝をつく。

ユリウスは肩で息をしながら剣を鞘に納めた。


「……ああ。今度こそ、本当に」


彼の声は、戦いの終わりを告げる安堵と、まだ残る警戒を帯びていた。


(だが、これだけの魔力密度……あれはただの魔物じゃない)


心の中で、ユリウスは静かに呟いた。


「ギルドに戻って報告しよう」


「そうね、これ以上の戦闘は厳しいわ」


この戦いの裏にある何かが、少しずつ姿を現し始めていた。

感想、評価、ブックマークよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ