静寂の裏にて
朝の喧騒が過ぎ、ギルドの中は少し落ち着きを取り戻していた。
ユリウスは掲示板の前に立ち、ざっと依頼の内容に目を通している。魔物討伐、薬草採集、護衛依頼……大半は若手向けの雑務や低ランクの任務ばかりだ。
(……平和だな)
思わずそんな感想が漏れる。
この町に来てからというもの、毎日が穏やかだ。時折、難易度の高い依頼が舞い込んではくるが、それもそう頻繁なことではない。少なくとも――かつての戦場に比べれば、夢のような日常だった。
「ユリウスさーん!」
振り返ると、受付カウンターからシエラが手を振っている。さきほどの騒ぎの後、すっかり落ち着きを取り戻した様子だ。
「さっき言ってた遺跡調査の件、少し詳しい情報が入りました。依頼主は王都の考古学者で、遺跡の魔物化を懸念しているそうです。護衛兼、内部の簡易調査をお願いしたいとのことでした」
「なるほど。潜るつもりはあるってわけか」
「はい。でも危険度が不明なので、Aランク以上の冒険者に限定した依頼になるみたいです」
「了解。考えておく」
軽く答えたユリウスに、近くにいた別の冒険者が声をかけてくる。
「ユリウスさん、またS級の話ですか?」
「まあ、まだ確定じゃないがな」
声をかけてきたのはリリィだった。彼女は昼の依頼準備を終えたばかりのようで、肩に背負った小さなバックパックを降ろしながら言葉を続けた。
「やっぱり、ユリウスさんって特別ですよ。私なんか、昨日やっとD級の依頼を無事こなしたくらいなのに……」
「お前が“やっと”って言うなよ。初めて一人で完遂できたんだろ?」
「……えへへ、はい!」
リリィの笑顔に、ユリウスも自然と口元を緩める。
そんな彼らのやりとりを、背後から眺めていたエルドがにやりと口角を上げる。
「お、まさかデレてんのか、ユリウス」
「違う。純粋に成果を称えただけだ」
「うわ、つまんな」
「お前がつまんないって言うなよ。昨日、川辺でフロッグトードにびっくりして川に落ちてたくせに」
「なっ、リオ! それ言うなって!」
ぼやくエルドを、リオが肩をすくめて笑いながら宥める。
そんなやり取りをよそに、ユリウスは再び掲示板に目を向ける。
その視線の奥には、かつて剣を交えた日々の記憶が、淡く揺れていた。
(……できる限り、この空気を守りたい。それが、今の俺にできることだ)
しかしその祈りのような願いを、誰かが聞き届けることはなかった。
なぜなら、ちょうどその時。
カウンターから小走りで近づいてきたシエラが、やや緊迫した声でユリウスを呼び止めた。
「ユリウスさん、大変です。王都から緊急の連絡が入りました!」
その声に、ギルド内の空気がぴんと張りつめる。
「……平穏ってのは、やっぱり長続きしないらしいな」
ユリウスは苦笑しながら、掲示板から視線を外し、静かにコートの裾を払った。
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