影との戦闘
影が膨張する。
その中心にある瞳のようなものが、明確にユリウスを捉えていた。
(来る──!)
意識を集中させ、剣を構える。
広間全体が軋み、まるで空間そのものが悲鳴を上げているかのようだった。
「──《霧刃・壱ノ型》──『瞬閃』」
踏み込みと同時に、空間が弾けた。
ユリウスの身体が視認できない速度で滑るように移動し、影の表層を斬り裂く。
黒い霧のような瘴気が噴き出すが、斬撃が手応えを感じたわけではない。
──斬れる。しかし、それは“肉”ではない。
影の反撃が来る。触手のように伸びた漆黒の腕が、空間をなぞるように襲いかかってきた。
「──《霧刃・参ノ型》──『霞織』」
姿が霧へと溶ける。多重残像と幻霧の中でユリウスは位置をずらし、影の攻撃を紙一重で躱していく。
その動きの中、冷静に敵の“中心”を探る。
瞳。
あれが核だと直感した。
「ユノ、あの目を狙えるか!」
「了解!」
後方から氷の魔矢が放たれ、鋭い軌道を描いて瞳を穿とうとする。だが、影が蠢き、まるでその一部が意思を持つかのように氷の矢をはじいた。
(やはり、そう簡単にはいかない……ならば)
「──《霧刃・伍ノ型》──『裂旋』」
剣に魔力を集中し、螺旋状の斬撃を発動。
爆ぜるような回転が黒霧を削り取り、強引に道をこじ開ける。
影がうねる。壁や床に染み出し、空間そのものが影に飲まれ始めていた。
(ここで仕留めなければ……!)
「──《霧刃・肆ノ型》──『返刃』」
あえて一歩踏み出し、影の一撃を左肩に受ける。その瞬間に重心を回転へと乗せ、反撃の一閃。
見事に影の一部を切断──その断面から黒煙が噴き出す。
(手応えはある。だが、これでは足りない)
ユノが後方で詠唱を続けている。
冷気の奔流がユリウスの背を押す。彼女の魔力が、霧のように身体を覆っていく。
「──《霧刃・弐ノ型》──『斜刃連舞』」
息を吸い、連撃を放つ。
左右の斬撃が波状に放たれ、影の表層を切り裂いていく。黒霧が爆ぜ、部屋の温度が一気に下がる。
だが、それでも影は止まらなかった。
(まだ終わらない……この気配……!)
影の瞳が再びユリウスを睨みつける。
わずかに揺れ、ひび割れたように見えたが──それだけだった。
「……今の斬撃で崩れたかに見えたが、まだ“本体”じゃないのか」
影の気配が後退する。
まるで引いていくように、黒霧が広間の奥へと流れ込んでいく。
「退いた?」
「いや……まだ何かある。奥へ行こう」
剣を構えたまま、ユリウスは影が消えた方角を睨む。
──何かが、待っている。
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