封印の奥
石の階段を降りるたびに、空気は濃密になっていく。
ただ冷たいのではない。魔力が凝縮し、空気中の粒子一つ一つが重みを持って圧し掛かってくるような感覚。ユノは額に滲む汗を拭い、慎重に足を進めた。
(これは……自然な魔力じゃない)
生物が発する魔力とは違う。もっと、原初的で、制御されていない。それでいて、明らかに「そこに留められている」ような、人工的な気配も混じっていた。
「ユリウス……これって、結界?」
「いや、もっと古い。封印というより、“封土”だ」
「封土……?」
「大陸の東部にある、王国時代以前の遺跡群。その一部では、魔力の根源を石ごと『閉じ込める』技術があったとされている。理論では否定されているが……現物を見るのは初めてだ」
ユノは言葉を失った。王国時代より古いとされる“忘れられた文明”。その痕跡が、こんなところに残されていたというのか。
やがて階段は終わり、石造りの広間が現れた。天井は高く、壁面には見慣れぬ紋様が刻まれている。淡い蒼の光を帯びた結晶が、規則正しく床に埋め込まれ、微弱な魔力を放っていた。
──不気味なほど、静かだ。
「何も……いない?」
「いや、いる」
ユリウスが立ち止まり、剣に手をかける。その視線は、広間の中央。そこには、円形の石碑のような構造物があり、無数の鎖がその周囲を取り囲んでいた。
「……封印されたもの?」
「可能性は高い。だが……おかしい。これだけの結界にしては、干渉が弱すぎる」
ユノは眉を寄せた。
「つまり……既に、中身が……」
「いないか、あるいは……目覚めているか、だ」
その言葉に、ユノの背に冷たいものが走った。だが、目の前のユリウスは微塵の動揺も見せない。
ユノは冷静に魔力を調整し、構えを整える。
──その時だった。
「ッ……魔力波、来る!」
突然、床の結晶が脈打ち、広間に魔力の波が放たれた。空間が軋み、壁の紋様がうっすらと光を帯びる。
「回避!」
ユリウスの声と同時に、床下から魔力の針が無数に弾け飛ぶ。ユノは咄嗟に氷壁を展開、ユリウスも雷光を伴って跳躍する。
「結界が……生きてる!」
「自動迎撃型。外敵への反応だ」
だが、どれも致命的な威力ではない。むしろ、“殺さずに排除する”ような設計に思える。
(なら……何かを守ってる?)
それとも、“中に近づかせたくない”だけか──
ユノは氷の槍を連続して放ち、魔力針の発生源を抑えた。ユリウスは雷を纏った一閃で、石碑の足元の魔力核らしき部分を切断する。
──ビィィィィ……ッッ。
耳鳴りのような音が広間に響き、魔力の奔流が一度、すべて引いた。
沈黙。
そして──
「……封印、解けた?」
ユノの言葉に、ユリウスはかすかに首を振る。
「いいや……『もう封じられていなかった』だけだ」
その意味を理解した瞬間、石碑の中心がわずかに揺れ、空間が“歪む”ように波打った。
「来るぞ!」
ユリウスが剣を構え、ユノも氷の魔術陣を展開する。
広間の奥、影の中に、確かに“何か”が蠢いていた。
それは、異形とも違う。魔物でも、魔族でもない。もっと曖昧で、名前のない“存在”。
それがゆっくりと、二人の方へと顔を向けた。
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