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封印、崩れる刻

封印陣が悲鳴のような軋みを上げ、広間の空気が震える。


「っ、封印が……!」


ユノが警告を発するより早く、中心の魔方陣が砕け、瘴気が爆発的に噴き上がった。


咄嗟にユリウスが前へ──


「《霧刃・参ノ型》──『霞織』!」


振り抜いた刃から霧が広がり、ユノの周囲を素早く包み込む。瘴気の直撃を遮り、視界も制御下に置かれる。


「ユノ、後退しろ!」


「ええ……でも、気をつけて!」


霧の中、ぬめるような音と不快な気配が蠢く。やがてそれは姿を現す──人の面影を僅かに残しながらも、変異した肉体。皮膚は剥がれ、黒い鱗と異様に伸びた肢体がそれを覆っていた。


「……調査隊の成れの果て、か」


ユリウスの声は冷静だった。哀れむよりも、剣を向ける理由を確認するような瞳。


異形が咆哮し、瘴気を荒れ狂わせて霧をかき消そうとする。


「ならば──斬るのみ」


ユリウスの魔力が一気に高まる。剣の刀身が雷光を帯びる。


「《雷霊招来》──雷よ、我が刃となれ」


雷が剣を這い、刃先から閃光がほとばしる。


──《霧刃・壱ノ型》──『瞬閃』!


ユリウスの姿が一閃の軌跡と共に掻き消える。異形の視界には、雷と共に目の前に現れた幻影のような姿が残るのみ。


防御の構えすら追いつかず、雷を纏った一撃が異形の肩から胴を斜めに断ち割った。


「──ギィ……ッ!」


苦悶の声と共に、断面から肉が再生を始める。異形の異能──再生。


「なら、凍てつけ」


剣に走らせるは、冷気。青白い魔力が刀身に宿り、辺りの空気を凍えさせる。


「《氷結陣式》──氷よ、静かなる刃となれ」


──《霧刃・伍ノ型》──『裂旋』!


螺旋を描く斬撃が異形の胸元に突き刺さり、氷の力が肉の再生を阻害する。うねりかけた肉が凍りつき、再生は寸断された。


「が、あああ……!」


しかし異形は完全には止まらない。


その時、ユノが霧の向こうから叫ぶ。


「──《氷柱槍・双牙》!」


二本の氷の槍が異形の背を貫き、咆哮が空間に響いた。


「好機だ、畳みかける!」


ユリウスは再び前へ。今度は剣が風を纏い、斬撃に疾風の鋭さを与えていた。


──《霧刃・弐ノ型》──『斜刃連舞』!


風を切り裂く連撃が異形に殺到する。切断、裂傷、痛撃。反応すら許さぬ速度の連撃が、異形の四肢を次々に断ち落としていく。


「──ッ!」


異形が呻く。再生が追いつかず、立ち上がる力すら削がれていた。


ユリウスは刃を収め、冷たい目でその様を見下ろす。


「……これ以上、喰われる者を出すわけにはいかない」


一歩踏み込み、氷と風の魔力を再び刃に乗せる。


──《霧刃・陸ノ型》──『流閃陣』!


剣が描いた弧が空中に軌跡を残し、魔力の波がその軌道を巡っていく。斬撃が連動するように空間を斬り裂き、残された異形の身体を断続的に切り裂く。


最後の一太刀が振り下ろされる頃には、異形の肉体は霧のように崩れ、黒い瘴気だけを残して散った。


静寂。


ユリウスが肩で息をしながら剣を収めると、ユノが近寄ってきた。


「……倒したの?」


ユリウスは残滓を見やり、静かに頷く。


「……ああ、だが──」


崩れた封印陣を見つめる視線は鋭く、どこか張り詰めていた。


「下には、もっと深い何かがあるはずだ」


「封印がこれだけ壊れてて、これで済むとは思えない、か」


ユリウスは頷いた。


「“ただの異形”なら、これで終わっていた。だがこれは──呼ばれてきた側だ」


ユノの顔が引き締まる。


「つまり、まだ“呼んだ奴”が、いる……?」


ユリウスは霧散した異形の残骸に視線を投げ、背後の崩れた階段を見据えた。


「……行こう。ここから先が、本番だ」

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