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沈黙の集落

旧集落の門をくぐると、そこは死の静寂に包まれていた。


朽ちた木造の家々は半ば崩れ落ち、灰色の土に埋もれている。石畳だったであろう道も、いまや瘴気と砂埃に覆われ、歩くたびに細かな粒子が靴底にまとわりついた。


「……風が、まったくない」


ユノが囁くように呟く。


「ここだけ、時間が止まったみたい。音も気配も、何も感じられない……」


ユリウスは剣を下げたまま、周囲を警戒しながら進む。視線は止むことなく動き続け、わずかな異常をも見逃さないように。


「建物の構造は典型的な鉱山町のものだな。地下に降りる通路がどこかにあるはずだ」


「この集落……ただ廃れているだけじゃない。妙に“整理”されてる気がする」


ユノの言葉に、ユリウスも足を止めて辺りを見渡した。


確かに、瓦礫や倒壊した家具は自然崩壊にしては整いすぎている。まるで誰かが“不要なもの”を片づけたかのように、通路が確保されていた。


「導線がある……?」


「ええ。誰かが明確な意図を持って、この集落を“整えてる”。もしくは……中に何かを“保管”しているのかも」


そう言って、ユノは一軒の建物を指差す。かつて役所だったと思しき二階建ての石造りの建物だ。扉は開き、内部から微かに瘴気の匂いが漂っていた。


ユリウスが頷き、先行する。


内部は思いのほか整っていた。机や棚は倒れずに残っており、紙束や報告書のようなものも辛うじて形を保っている。


「……これは、鉱山運営の記録だな」


ユリウスが一冊を手に取り、ページを捲る。だが文字の多くは瘴気に侵され、黒ずんでいた。


「読めるところだけ抜き出すと……“異常鉱石の採掘”“瘴気の噴出”“作業員の変調”……それから、“内部封鎖命令”か」


「それって……地下に何かが?」


「可能性は高い。封印系の魔術記号も添えられてる。専門の魔導技師が施したものだな」


その時──建物の奥から、鈍く低い音が響いた。


「……今の、何?」


「下だ。地下に何かがある」


ユノが警戒しながら魔力を集中する。


「……結界反応あり。相当古いものだけど、まだかすかに機能してる。けど、それを“内側から”打ち破ろうとする力も感じる」


ユリウスの眉がぴくりと動く。


「“内側から”……か」


二人は奥の階段を降りる。地下は薄暗く、足元の石畳は湿気を帯びて滑りやすかった。


そして、地下室の最奥。かつて倉庫だったらしき広間の中央に、それはあった。


巨大な封印陣。だがその表面にはヒビが走り、中心部から瘴気がじわりと滲み出していた。


「……もう、限界に近い」


ユノが顔を強張らせる。


「何かが封じられてる。たぶん、調査隊は……これに近づいたせいで」


「いや──違うな」


ユリウスは、封印陣の隅に落ちていた金属片を拾い上げる。それは、王国の魔導装備の一部だった。だが、変形の痕跡がある。


「この封印……外側から“壊された”形跡がある。調査隊は封印を『解いた』んじゃない。“誰か”が、彼らを利用して封印を破ったんだ」


「……じゃあ、黒幕がいるってこと? 異形でもなく、変異体でもない、知性を持った存在……」


「そういうことになる」


ユリウスの目に、鋭い光が宿る。


「やはりこの谷には、ただの災厄だけじゃない。“意志ある敵”がいる。そして、それはまだ──解き放たれていない」


その瞬間、封印陣が不気味に脈動した。


──ゴウッ。


瘴気が渦巻き、広間の空気が歪む。


「……来るぞ、ユノ!」


ユリウスは剣を抜き、ユノは術式を組み上げる。


未だ名も知らぬ存在が、目覚めようとしていた。

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