帰還と報告
ギルド〈蒼銀の剣〉本拠地。木造の梁と石の土台が調和する、堅牢かつ温かみある空間に、ユリウス・レインハルトの姿があった。
彼は遺跡調査任務を終え、仲間たちと共に帰還を果たしたのだ。
「なるほど……では、その異形との戦闘を経て……」
ギルドマスター・クラウス・アーシェンバッハが、卓上に置かれた映像魔晶を見つめながら、静かに言葉を継ぐ。
ユリウスは背筋を伸ばし、真摯な声音で報告を続けた。
「遺跡の最奥で、調査隊の痕跡を確認しました。幸い、生存者は多数。一時は異形に囚われていたものの、拘束が解けた後は外で保護されました。重傷者はいましたが、命に別状はありません」
言葉の端々に、ユリウスの安堵と仲間への感謝が滲んでいた。
「異形の名は、《ノクス=アストラル》。意志ある存在で、かつて神格に近しいものだった可能性があります。完全な撃破も封印もできていません。ですが……」
彼は一拍置き、魔晶に収められた映像を再生する。
黒き異形の咆哮。剣戟の交差。そして、最後に残された対話の記録。
「……対話が成立しました。わずかですが、奴にも理性と意志があった。世界を脅かす存在であると同時に……変わる可能性を持つものだった」
クラウスは沈黙のまま耳を傾けていたが、やがて深く息を吐く。
「眠りについた……と?」
「はい。姿を消し、深き闇の彼方に退いた。いずれ再び現れるかもしれません。ですが、今は直接的な危険はありません」
「ふむ……それを信じるのは、容易ではないな」
「ええ。しかし……俺の剣は、ただ敵を斬るためだけのものではありません。守るべきものを見極め、選ぶために振るうものです」
クラウスは目を細め、少しだけ笑った。
「ユリウス……それはお前にしかできぬ選択だ。ならば、その選択に誇りを持て」
「はい」
ちょうどそのとき、扉が開き、数名のギルドメンバーが姿を現す。
「ユリウス様! お帰りなさいっ!」
真っ先に駆け寄ってきたのは、Aランク冒険者カレン・アイゼナッハだった。長い金髪が揺れ、碧い瞳が潤んでいる。
「本当に、無事だったんですね……!」
彼女は両手を胸元で組み、尊き聖人を拝するようにユリウスを見上げた。
「お怪我は!? 疲労は!? 水分は足りていますか!? 何かお手伝いできることは!? 肩、揉みましょうか!? あっ、でも、私が触れるなんて恐れ多い……!」
「いや、落ち着け。水は飲んでるし、怪我もない。肩も大丈夫だ」
「さすがユリウス様……! 任務を終えてなお、こんなにも涼やかで雄々しく……!」
恍惚とした表情のまま、彼女はその場でぴょこりと一礼した。
その様子に、背後のリオが小さく溜め息をついた。
「……また始まったか。あれでも、戦場では結構頼れるんだけどな」
続いて現れた豪腕の剣士・ガロウは、カレンの騒ぎなど気にも留めず、無言でユリウスの肩を軽く叩いた。それは言葉ではなく、戦士としての敬意と労い。
「ユリウス、お疲れ様。無事に帰ってきてくれて良かったわ。」
静かに歩み寄ったのは、Sランク魔導士・ユノ。涼しげな目元がわずかに和らいでいた。
「ありがとう。皆も、変わりないようで安心した」
その言葉に、皆が微笑を浮かべた。
〈蒼銀の剣〉――再び全員が揃った。
嵐の後に訪れた静けさのように、温かで、確かな絆を抱きながら。
そして、ユリウスの戦いは……まだ、終わってはいない。
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