霧晴れの朝にて
遺跡の天井の崩落を避けるようにして、ユリウスは転移装置の残骸を越え、地上への道を辿った。
その足取りは重い。だが、迷いはなかった。
ノクス=アストラルとの対話。その余韻はまだ胸中に残っていたが、今はまず──仲間たちの元へ帰ること。
遺跡の出口に差しかかると、ひときわ強い陽光が差し込んだ。まるで長い夜を抜けたかのような、穏やかな朝の光。
「──ユリウスさん!」
声に振り返ると、そこには見慣れた顔ぶれがあった。
〈蒼銀の剣〉の仲間たち。シエラ、リリィ、リオ、エルド。そして、アリシアもその中にいた。
驚きに目を見開くユリウスに、シエラが駆け寄ってきた。
「無事だったのですね……本当によかった……!」
シエラは、思わずその胸に飛び込むようにして彼を抱きしめた。ユリウスが硬直していると、すぐに気づいて離れる。
「あっ……すみません。つい、心配で……」
「いや……こちらこそ、心配かけたな」
そのやり取りに、リリィが泣き笑いしながら近づいてきた。
「本当によかったです……ずっと心配してました……!」
エルドは腕を組み、ふんっと鼻を鳴らす。
「無茶すんなっつっても無駄だって分かってたけどよ……今回はマジで戻ってこいって祈ってたぜ」
リオも目を細めて頷いた。
「アリシアさんから連絡が入った時は、正直間に合わないかと思ったが……さすがですね、ユリウスさん」
「……アリシア?」
ユリウスが視線を向けると、アリシアが静かに一礼する。
「……遺跡の外で目を覚ました時、すぐに支援要請を出しました。転移装置の一部が稼働していて、それで外に逃げられたみたいです。あなたの剣が、私たちを守ってくれたんだと思います」
彼女の目には、涙が浮かんでいた。
「ありがとう、ユリウスさん。本当に……ありがとう」
ユリウスは、わずかに微笑んだ。
「俺一人の力じゃない。みんながいてくれたからだ」
その言葉に、ギルドの仲間たちが頷いた。仲間との絆──それこそが、彼の剣を支えたものだった。
アリシアが小さく息を整え、再び口を開いた。
「それから、他の調査隊の皆さんも、大部分は無事です。一時はあの異形に捕らえられていましたが、拘束が解けたあと外で保護されました。重傷の方もいましたが、幸い命に別状はありません。ユリウスさんがあの異形を倒してくれたから、被害を最小限に抑えられたのだと思います」
ユリウスは、静かに頷いた。
「……そうか。それを聞いて安心した」
少し離れた場所で、シエラがそっと口を開いた。
「……それで、あの“異形”とは……どうなったのですか?」
ユリウスは空を仰ぐ。その先には、祭壇の天井にあった歪みが、ほんの微かに揺れていた。
「終わってはいない。でも、対話の道は残された。戦うだけが全てじゃないって……今、少しだけ信じられる」
シエラはその言葉を聞いて、優しく笑った。
「そう……ユリウスさんがそう言うなら、きっと間違っていないのでしょうね」
彼女の口調には、いつもの穏やかさが戻っていた。仲間がそばにいる──それだけで、普段の自分を取り戻せる。それはユリウスも同じだった。
空はすっかり晴れていた。
遺跡の探索、そして未知との邂逅。
だが、それは終わりではなく、始まりでもある。
「……帰ろう。まずは、報告と休息が先だ」
「はいっ! 帰ったらちゃんとご飯食べて、寝て、あとシエラさんにたくさん説教されてくださいね!」
「も、もう……そういう茶化さないでくださいよ」
笑い声が、遺跡の入口に響いた。
ユリウス・レインハルト。
彼の旅路は、まだ続く。だが今は──
仲間と共に在る、その“現在”を胸に刻みながら、彼は歩き出した。
そして、彼が背にした遺跡の奥底には、いまだ静かに脈打つ力があった。
“影”との邂逅、それは運命の序章。
記されぬ歴史の片隅に、ひとつの選択が刻まれた。
光と闇、その狭間で。
誰も知らぬ対話の記録が、静かに未来を待っている。
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