白銀の意志、影を裂く
空間が、悲鳴を上げるように軋んだ。
圧縮された重力が歪み、ユリウスの身体を押し潰すように圧力が覆う。まるで世界そのものが、この異質な存在を拒絶しているかのようだった。
だが、彼は一歩を踏み出す。揺るぎない意思と共に。
「……目覚めたばかりか。それとも、封印のほころびに紛れて、今まで蠢いていたか」
問う声は低く静か。しかし、それは刃のように鋭く“それ”へと突き刺さる。
仮面の奥から、紅く光る瞳がユリウスを射抜いた。返されるのは言葉ではなく、圧倒的な“意思”──
『名を問う。お前は、誰だ』
その瞬間、背後の空気が渦を巻く。遅れれば、押し寄せる“存在”に飲み込まれる。
「ユリウス・レインハルト。ギルド《蒼銀の剣》所属の調査・戦闘担当だ。遺跡調査と調査隊の捜索の任を受け、この地に降り立った」
名を告げる声に、虚飾はない。感情を込めれば、付け込まれると本能が告げていた。
“影の王”──その名すら知られぬ存在は、無言のまま気配を増す。
『レインハルト……かつて、“その名”を冠した者が、我が眠りを強いた』
その言葉に、ユリウスの瞳が揺れる。
(……北方戦役。“王殺し”の伝承……まさか)
『霧を纏い、白銀の刃を掲げた影。その血脈、未だ絶えず、我が前に現れたか』
「……《霧刃》を、封じの鍵と見たか」
『否。鍵は力ではなく、“縁”だ。拒絶した意志の残響。それが汝に宿る』
ユリウスの中で、霧の剣術の意味が塗り替えられていく。
ただの技法ではない──かつて神性に抗い、その身を封じた“意志”の形。
『問う──汝は、我を再び封ずる者か。それとも、我を許し、共に歩む者か』
選択を迫る声。だが、ユリウスは迷わない。
腰の《蒼牙》がわずかに鳴く。剣が、意志に共鳴する。
「……答えは、一つだ」
「お前をここに封じた者たちの想い──その続きを、俺が担うだけだ」
『ならば、示せ。剣と意志で、我を断ち切ってみせよ』
次の瞬間、黒き腕が空間から噴き出す。
──《霧刃・壱ノ型》──『瞬閃』
白銀の光が一閃。飛び跳ねるようにユリウスが影の間隙を突き、中空へ舞い上がる。
その身には、もはや恐れはない。血が技を覚え、魂が型を超える。
“影の王”が空間を滑るように動く。人の理から逸脱した軌道、重圧だけで未来を潰そうとする。
(──ならば、型すべてを以て応じる)
──《霧刃・弐ノ型》──『斜刃連舞』
踏み込みと共に連なる斬撃が、渦を巻いて影を刻む。
『浅い。汝の剣、なお“恐れ”を抱く』
囁きと共に、空間が歪んだ。現れるは、ユリウスの“過去”。
あの時、仲間を救えなかった手。震えた刃。ためらい。
それが幻影となって周囲に現れ、心を蝕もうとする。
(……記憶の干渉……!)
だが、ユリウスは目を閉じ、息を吸う。
「恐れがあるから、俺は振るう。止めた手を、もう二度と止めないために──!」
──《霧刃・伍ノ型》──『裂旋』
回転する螺旋の斬撃が幻影ごと影を貫いた。
反応が遅れたその刹那を、見逃さない。
──《霧刃・陸ノ型》──『流閃陣』
疾走する幻の斬影が現れる。かつて共に戦った仲間の幻影が、ユリウスと並び立つ。
一人では届かぬ想いが、剣を加速させる。
そして──
「これが、俺たちの答えだ」
──《霧刃・終ノ型》──『霧幻殲華』
八型すべてが統合された剣舞が、白銀の極光となって迸る。
神聖すら薙ぐ閃光が空間を飲み込み──
全ての影が、光の中へと沈んだ。
──そして。
“影の王”の仮面に、静かに、亀裂が走った。
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