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影王顕現

空間そのものが呻くような重圧の中、ユリウスは一歩を踏み出す。漆黒の祭壇の前に立つその存在は、まるで時を拒絶するように動かない。ただ静かに、確かにそこにいる──否、存在しているという“圧”だけがあった。


「貴様が、この封印を破った者か」


 低く、割れた鈴の音のような声が響く。人語に似ていたが、どこかしら違う。言葉の奥にある感情が、人のそれではなかった。


 ユリウスは無言で応じたまま、《蒼牙》の柄に手をかける。


「……答える義理はない。だが一つ、確認したい」


 影の王と呼ぶべきその存在──“それ”は微動だにしなかった。


「お前は何者だ。この遺跡に封じられていた理由は何だ」


「問うか。よかろう」


 その声に、祭壇を囲む空間が振動し始める。


「我が名は、“影喰らいの王”ノスフェリオ──かつて神々に仇なした十三の災厄、その最果ての一つ」


 声と同時に、祭壇の背後、壁面に刻まれていた封印術式が淡く赤黒く染まり、次々に崩壊していく。


「この地はかつて我を討った者たちが築いた墓所。我が骸を封じ、記憶を削ぎ、永遠に眠らせようとした。だが──時が流れ、血が絶え、名が忘れられた今、我は目覚めた」


 影王ノスフェリオはゆっくりと右手を掲げる。


 空気が凍るように緊張し、ユリウスの頬を冷たい汗が伝った。


 だが──その手はまるで誰かに触れるように、静かに伸ばされていた。


「貴様に問う。かつて我を封じた者たちは、今もなおこの世に在るのか」


 その問いは、まるで千年を越えた孤独の果てに漏れたような声だった。


 ユリウスは答える。


「少なくとも、俺は知らない。だが──今ここに立つのは、彼らの意思を継ぐ者だ」


 次の瞬間、影が動いた。


 言葉は不要だった。二者の間に横たわるのは、対話では埋まらぬ“断絶”と、“責務”だった。


「ならば、その刃を証明せよ。我が魂を断てるか否か──!」


 影が爆ぜ、黒き触手のような闇が空間を覆い尽くす。腐蝕の魔力を帯びた影の群れが、ユリウスを四方から包囲した。


「──来い、《霧刃》」


 ユリウスの声が響くと同時、銀の風が巻き起こる。


──《霧刃・伍ノ型》──『裂旋』


 その一閃は渦となって広がり、迫る影の一部を吹き飛ばす。だが、闇は再び形を成して襲いかかってくる。


 ただの魔力ではない。これは、意志を持った“影”そのものだ。


(……手数で押し切れる相手じゃない。何か、核となる意識体が……)


 斬っても斬っても再生する闇の波。ユリウスは思考を巡らせつつ、霧を纏って後方へ跳ぶ。


──《霧刃・参ノ型》──『霞織』


 幻霧が空間に展開され、一時的に視界と気配を撹乱する。


 だが──その一瞬、影の王の目が、霧の奥を正確に捉えていた。


「……幻など、意味をなさぬ」


 巨大な影の爪が、霧を突き破ってユリウスを襲う。


 ユリウスは咄嗟に──


──《霧刃・肆ノ型》──『返刃』


 回避からの反撃の一閃。爪の間隙をすり抜けるようにして、霧の斬撃が影の王の外套を裂いた。


 しかし──そこには何の手応えもない。


「……よくも、我が外殻を」


 影王ノスフェリオの声が低くなった。


 空間が更に歪む。


「ならば見せよう。我が本質を──!」


 祭壇の奥、空間そのものが“裏返る”。


 無数の眼が、闇の中に現れる。


 それは神話の獣か、悪夢の深淵か。


 この存在は、単なる魔力の塊でも、魔物でもない。かつて神すら恐れた、概念の災厄そのもの──!


(……これは、確かに“人ではない”)


 それでもユリウスは、一歩、前に出る。


「“終ノ型”はまだ使えない。ならば、突破口を見つけるまで──戦い抜くだけだ」


 銀の霧が再び舞う。


 そして、戦いの幕は──真に、開かれた。

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