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脱出  作者: にめむ
6/9

 コンビニエンスストアの駐車場で女は降りた。黒曜石の大岩みたいなアルファードを見送って、男にもらった長靴をぱたぱた鳴らしながら帰路につく。

 小道を少し歩いて、古いアパートの三階の一室の前で彼女は立ち止まる。冷たい黒い金属の扉に耳をあてて、中の音を探る。音はしない。ドアノブを時間をかけてゆっくり回して、扉を開ける。部屋に入り、後ろ手にゆっくりとドアを閉める。ぎいと鈍い金属同士がこすれる音がするが、部屋の中は重たい静けさが充満している。

 彼女は長靴を脱ぎ、散らかった玄関の奥に隠す。そして寝室に入る。ベッドには彼の姿はない。どこかへ行ってしまっている。その事実を知った彼女の脈拍が急激に高まる。耳がまるで燃えているみたいに真っ赤に発熱し、心臓がどくどくと異常な速さの鼓動を鳴らす。

 彼女は想像する。隣で眠っていた彼が目を醒ます。となりに女がいないことを知る。部屋中を探す。どこにもいない。ジャケットを着て外へ出る。女を探し続ける。まるで囚人が脱走したことを知った刑務官みたいに。


 部屋は散らかっている。棚やタンスは乱暴に開かれ、中の荷物が外に飛び出している。食器やガラスがいくつか割れている。壁にたたきつけて彼が割ったのだろう。パニックになると何をするかわからない男だ。男の怒りの匂いが部屋を充満している気がする。

 相席居酒屋で彼と出会った。女友達とふたりで飲んでいたところに、彼とその友達がやってきたのだ。彼は背が高く、肩幅がしっかりとしていた。30代前半、彼が近づいてきた時、薬品の香りがした。革ジャンにダメージデニム、ニット帽をかぶり、サングラスを頭にかけていた。首元には十字のネックレスがついている。指には10本中7本の指に指輪がはめられている。彼の友人はまるで葬式帰りのように、真っ黒なネクタイをつけたストライプのグレーのスーツを着ていた。髪色は赤色で、そこだけが葬式とは相いれない。

 それから四人で酒を飲んでいたのだが、そこから先の記憶は断片的にしかない。ベッドの上に押さえつけられて、服を破かれるところ、わたしは必死に拒絶しようと男の身体を手ではねのけようとするが、男に顔を殴られるところ。頭が痛く、意識がもうろうとしていたため、彼と彼の友人の二人がかりで交互にいいようにされたこと。


 翌朝目が覚めた私の身体には、押さえつけた際にできたあざや内出血があった。それと陰部が痛い。腹痛、意識がもうろうとする。三日間眠っていないみたいに、強烈な眠気が消えなかった。鏡で身体を確認するが、眠気に耐え切れず、再びベッドにもぐりこむ。

 それから夕方になって、私は男に起こされた。男はわたしに昨晩の動画を無言で見せられた。ひどいありさまだった。意識がないわたしがいたぶられ続けていた。

 わたしはアルバイトを辞め、一人暮らしをしていた家を引き払い。彼が用意した部屋に住み始めた。そして彼が紹介してきた仕事を始めた。もちろん綺麗な仕事ではない。夜の仕事だった。お金は今までにないくらい稼げたが、そのほとんどは彼にもっていかれた。すべてが彼の言いなりだった。

 時々彼がやってきて、彼と寝た。彼は女をいたぶる趣味があった。傷ができることを防ぐために、手をぱーにして身体のいたるところをたたいた。彼はぐっすりと隣で眠っていたが、わたしは身体がひりひりと痛んで仕方がなく、まったく眠られなかった。


 そうして彼と暮らし始めて一年半。わたしは彼と、時折見える彼の背後にいる彼の上司らしき人間にがんじがらめにされている。その日も特段変わったことはなく、彼が突然家にやってきてシャワーを浴びて、ベッドで彼と寝る。深夜、わたしは彼から離れたくて仕方がなくなった。眠れない深夜に、家の外にそっと飛び出して、どこか遠くに逃げてしまう決心がついた。

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