第5話〜決闘場に響く熱狂と新たなる伝説〜
「いいですかルナさん、ボマーさんは強いんです。だからAランクにいるんです！なんで喧嘩買っちゃったんですか！」
「だってぇ〜。私、最近ストレスあってぇ〜。仕方ないでしょ〜？」
お母さん直伝、面倒くさい時は適当に流せ攻撃を使ってなんとか誤魔化した。
「はぁっ…良いですか？こうなったらもう勝つしか方法はないんです！負けても私、後始末のサポート出来ませんからね！」
「大丈夫大丈夫！私強いから。負けるなんてこと、あり得ないよ」
冒険者協会の裏手にある決闘場は、冒険者たちが日々の鍛錬を積むための場所だった。平穏だった街での決闘を見るために観客席に多くの人が集まってきていた。
「こんなでかい舞台にしなくても良いのによ。なあ、アリナ・ユーリシア嬢？」
「その呼び方やめてくださいっていつも言ってますよね？私も頑張って小さな規模にして欲しいって頼んだのに、ギルマスが『この決闘は集金に使える』って聞かなくて」
ボマーは大剣を肩に担いだままぐいっと酒を飲み干すと、受付嬢さんに酒瓶を渡し、威圧的に力を誇示するかのようにポージングをしていたようだった。一方の私は、ハゲ——げふんげふん！ボマー相手に怯むことはなかったが、お母さん以外との対人戦闘は初。お母さんの試験をクリアしたからお母さんからは実力を認めてもらったけど、それとこれとは話が別だ。この国の冒険者たちはどんな力を持っていて、私の力がどこまで通用するのかを確かめる。今回の戦いはその目的の為でもあった。
「今日は一番得意な光属性でいこう。手は抜けないもんね」
勇気を振り絞り魔杖を高く掲げ、魔法少女としての力を解放した。光の扉を通り抜け、魔法少女ビビット・マジカへと変身する。ピンクのリボンは黄色く変化し、片方の目の色も琥珀色へと変色した。私は決戦の地に向けて歩き出すのだった。
「野郎ども！久しぶりの決闘大会だ、準備は出来てるか！」
「「「おおおおお！！！！」」」
決闘場の観客席が一斉に湧き立つ。教会にまで聞こえる程大きな歓声が飛び交っていた。
「今日のカードはこいつらだ！赤コーナー！Aランク冒険者で赤熊狩りの爆弾魔、ボマー選手！」
「彼の大剣の色は元々黒だったんですが赤熊の血の色を浴びせ続けた結果、赤いマーキングがついたとのことです！知りませんけど」
「いや知らんかい」
一瞬、場に微妙な空気が流れる。
「……って、おい！今の笑うとこだからね！？ ちゃんと拾ってよ！？ これだから実況って大変なんだから！」
「アリゼさん、あまり場を冷やさないでください」
「うぐっ、はい…。で、では気を取り直して青コーナー！未だ実力は未知数、されど何が起こるかわからないダークホース！冒険者になり始めて数日の可愛らしい少女、魔法少女ビビットマジカ！え、アリゼさん名前違うんですけど」
「合ってますよ〜。どうやらルナさん、表舞台での名前はこっちで通したいみたいです。本名で売っていけばいいのに」
ビビット・マジカはお母さんの目指した最強の魔法少女。だから私は魔法少女ビビット・マジカとして戦う！全く。私は選手なんだから集中させて欲しいのに。
「では準備が出来たようだ！アーレア・ヤクト・エスタ。決闘開始！」
「おっしゃ行くぜ！」
ギルドマスターの一言で闘技場の空気が一瞬で変わり、観客たちは息を呑んだ。私は戦いの火蓋が切って落とされた瞬間、その場で魔法陣を複数展開し弾幕を貼り始めた。略称詠唱で次々と繰り出される魔法に、観客からは歓声が上がった。しかし、ボマーはその攻撃を軽々と叩き落としながら、徐々に迫ってきた。
「こんなもんかよ！やはり俺の方が強いみたいだな」
ボマーが近づいてくる中、私は詠唱を開始する。魔弾が破裂する音に掻き消され、私の声は誰にも届かない。
「輝きて天を裂く聖なる光よ、
銀の刃となりて、我が前に道を拓け——」
煙幕の中、魔杖が淡く光を帯び始める。剣の姿へと変化し、純粋な魔力を凝縮した刃を生み出した。
「やはり俺の方が強いな！」
ボマーが次々と弾幕を切り落とす中、私は微笑みながらさらに詠唱を重ねる。
「銀の閃光を纏い、断罪の一閃をここに示せ——《フォトン・パニッシュメント》！」
煙幕が晴れると私は光の剣を握りしめ、一気にボマーの懐へと潜り込んだ。
「な、なにぃぃいいい！？」
逆袈裟に振り下ろした光の剣が、ボマーの大剣を真っ二つに斬り裂く。鋼鉄の武器が容易く砕ける光景に、観客たちは息を呑んだ。
「しょ、勝者！青コーナー、魔法少女ビビット・マジカ！」
「やったあ！！！」
誇らしげに笑い、魔杖を天高く掲げる。観客たちから歓声が上がるのだった。
「クソッタレ！覚えていろよ！」
「やりぃっ！」
悔しそうに折れた剣を見つめるボマーは、急いで入場ゲートへと走り去っていった。その姿を見送りながら、私は少しだけ胸を張るのだった。
＊
決闘が終わった後、私はギルドの酒場でアリナさんたちと祝勝会を開くことになった。ボマーとの戦いに勝利したことで一気に知名度が上がり、多くの冒険者たちが私に興味を持ち始めたようだった。
「ルナさん！すごかったですよ！あんな大剣を真っ二つにするなんて！魔法少女の力、半端ないですね！」
「ふふん♪ まあね、当然の結果ってやつよ！」
誇らしげに胸を張る私に、酒場の冒険者たちが次々と話しかけてくる。
「おいおい、ビビット・マジカちゃんよぉ、あんな戦い方ができるなら最初から言ってくれよ！」
「ボマーの野郎、すっかり落ち込んでたぜ。まあ、いい気味だけどな！」
「まさか嬢ちゃんにやられるとは思ってなかったんだろうな、アイツ！」
酒場のあちこちで笑い声が弾ける。私はちょっとした英雄のような扱いを受けていて、なんだかくすぐったい気持ちだった。
「はい、ルナさん！勝利の乾杯ですよ！」
アリナさんが私の前にジュースの入ったジョッキを置いてくれた。他の冒険者たちは当然のように酒を飲んでいたが、私は未成年なのでジュースだ。
「それじゃあ、ルナさんの初勝利と、これからの活躍を願って…」
「「「かんぱーい！！！」」」
ジョッキがぶつかる音が響き、場はさらに盛り上がる。私もジュースを一口飲みながら、ようやく実感が湧いてきた。私はこの世界でちゃんと戦えるんだ。お母さんから教わったことがちゃんと通じるんだ。
「ルナさん、これからどうするんですか？もうAランクの冒険者とも戦えるって証明しちゃいましたけど？」
「うーん…とりあえず、もっと強くなる！」
私の答えに、アリナさんは驚いたように目を丸くした。
「えっ、まだ強くなるつもりなんですか？」
「もちろん！だってお母さんはもっともっと強かったもん。あの人に追いつくにはまだまだ修行が足りないから」
真剣な表情でそう言うと、周りの冒険者たちは感心したように頷いた。
「なるほどな…こりゃあ、本当に大物になるかもしれねぇな」
「今のうちにサインもらっとくか？ 将来、超有名になったりしてな！」
「いやいや、そんなに大げさな…」
わいわいと賑やかな雰囲気の中で、私はジュースを飲み干しながら決意を新たにした。今日の勝利はまだ始まりに過ぎない。もっともっと強くなって目指すのだ。母さんが夢見た魔法少女になるために。
