第39話〜決戦!VSブラックドッグ〜
「いっけえぇええっ!」
戦場は混沌としていた。ブラックドッグの群れは、闇の波となり押し寄せ、私たちに襲いかかってくる。地響きのような咆哮が響き渡り、私たちの陣形はギリギリのところで保たれていた。
「ラジエルの書、第ニの翼。幻獣召喚、第四の獣ハルピュイア!」
ラジエルは鳥人を召喚し、ブラックドッグたちを屠っていく。前衛に立つ私たち五人の目的は数多の獣たちを倒すこと。取りこぼした分は後続の村人たちがしてくれてはいるが、少ないことに越したことはない。
「炎剣イフリート!我が敵を燃やし尽くせ!」
私は自らの剣を振り上げ、炎を纏わせた刃を振り下ろした。赤い閃光が敵を薙ぎ払い、数体のブラックドッグが霧となって消滅していく。
「これでどう!」
だが次から次へと湧き出る敵の群れに、倒しても倒しても追いつかない。
「でえぇええい!」
その横では、エリスが精密な剣さばきでブラックドッグを次々と仕留めていく。彼女の剣が一閃するたびに、敵は消滅していく。
「ここまで数が多いと…さすがにキリがない…!」
エリスは険しい顔をしながらも、疲れを隠さない。一方、後衛の村人たちは必死に弓や投石で援護するが、それでも異形の姿に怯えが見え始めていた。
「前衛が崩れたら、もう終わりだぞ!集中しろ!」
村のリーダーが檄を飛ばすが、彼らの手が震えているのは明らかだった。
「吹き荒れる暴風よ。我が魔力を糧とし、魔弾となりて敵を貫け!」
私の背後ではリーゼが冷静に詠唱を続けている。風の力を帯びた魔弾が次々と生成され、ブラックドッグたちに風穴を開けていく。その手際の良さは見事だったが、表情には焦りが滲んでいる。
「この数、どれだけ時間を稼げばいいんですか…!」
動きを止めてしまったリーゼの元にブラックドッグたちは襲いかかってきた。リーゼは不意の出来事に足を絡ませてしまって転倒してしまった。
「きゃあっ!」
「危ない!」
その瞬間エリスが飛び込んできて光の斬撃でブラックドッグたちを切り伏せる。
「リーゼ、詠唱を止めないで!」
「はいっ!」
「これじゃ埒が明かない!」
私は炎剣を振りかざしたまま叫んだ。敵を殲滅するための一撃、上級魔法を使おうと決意する。
「ここで全部まとめて吹き飛ばす!」
剣を空高く掲げ、全身の魔力を凝縮させ始めた。だが、リーゼがその腕を掴む。
「待ってください、ルナさん!」
リーゼの瞳は鋭く、しかしその奥に不安を秘めている。
「今ここで魔力を使ってしまったら、必殺技に必要な魔力が足りなくなります。だから、魔力の貯蔵が有り余ってる私がやります!」
「何を言ってるの?」
リーゼの言葉に驚いていると、リーゼは決然と前に出る。
「ぶっつけだけどルナさんの魔法、真似てみせます」
リーゼは震える指先を見つめた後、すぐに集中して詠唱を始めた。
「汝、言霊の精霊。闇を討つは希望の極光。煌めけ、煌めけ、煌めけ、煌めけ。仲間と築いた絆、未来を信じる力。そのすべてをこの一撃に込めます!これが私たちの祈りの形!」
リーゼの詠唱は私の兵器としての魔法とは異なる暖かい言ノ葉だった。天空に三重の魔法陣が展開され、無数の光の粒が空中に浮かび上がる。
「これなら…!」
リーゼは両手を掲げ、その光を集束させる。一瞬の静寂の後、凄まじい閃光とともに《フォトン・パニッシャー》が放たれた。白銀の光が広範囲に広がり、ブラックドッグたちを次々と飲み込んでいく。
「やったの…?」
「エリス!それフラグだから!」
「えっ……?」
魔力砲と煙幕が消えていく。圧倒的な火力によって蹂躙したのに、ブラックドッグの主は未だに消滅していなかった。
「嘘…?」
ブラックドッグの主の遠吠えが仲間たちを呼び寄せる。数多の獣たちが闇の中心に凝縮され、一つの巨体へと変貌していく。
「これは…厄介ですね…」
リーゼが額に汗を浮かべながら呟いた。しかしマーヤはここが勝機と判断して口を開くのだった。
「今がチャンスだと思う…!合体魔法…やろう!」
「わかった。ラジエル、エリス!援護頼んだ!」
「わかった。邪魔はさせない!」
私、リーゼ、マーヤは即座に合体魔法の準備を始める。それぞれが魔力を操り、精製したエネルギーを一箇所に集めていく。
「汝、言霊の精霊。三つの想い、絆、魔力を束ね、新たな道を指し示す!この魔法は未来を導く三本の矢!私たち三人の力の具現!」
私は指を動かすと、ピンク色の光が周囲を覆い始めた。次いでリーゼが青白く輝く聖なる魔力を放出し、魔法陣を補強する。最後にマーヤが黄色に輝く魔力を注ぎ込む。それを私が収束、采配する!
「いくよ!」
三人の声が重なり、巨大なビーム砲塔が具現化した。それは天空を貫くほどの規模で、周囲を眩い光で包み込む。
「いっけえええ!!!」
ラジエルとエリスが素早く前衛から退避すると、三人が同時に叫んだ。
「《トリステラ・マジカルバースト》!!」
砲塔から放たれたのは赤と黄色が混ざり合った光軸を青白い光が包み込む特大の魔力の渦だった。その一撃は大地を抉りながら飛翔し、ブラックドッグの主に直撃した。凄まじい衝撃波が戦場全体に吹き荒れる。光の奔流がアヴァロンの扉に向かって一直線に突き進み、闇を浄化していった。
「やった…?」
一瞬、静寂が訪れる。だが光が収まったその場所には、ボロボロになりながらもなお立ち上がるブラックドッグの主の姿があった。その目は赤く輝き、怨念そのものを体現しているかのようだ。
「まだ…立ってるなんて…」
突きつけられた絶望に耐えきれず私は膝をついてしまう。汗で濡れた髪、肩で息を吸う姿。それは私だけではなく、二人の魔法少女も同じことだった。
「どうしよう…私の判断ミスだ…。倒しきれなかった場合のことも考えておかなかった私の…」
マーヤの顔が次第に青ざめていく。リーゼもマーヤも魔力は底をつきかけており、次の一手を放つ余力は残されていない。絶望が、戦場に静かに広がり始めていたのだった。たった一人の少女を除いて―――――――。




