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魔法少女ビビット・マジカ  作者: 雪音月華
魔法少女ビビット・マジカ〜運命の胎動〜
38/42

第38話〜三本の絆が行き着く先〜

「三人の合体技…。ルナお姉ちゃんとリーゼお姉ちゃんの特性はわかるけど、私自身の特性ってなんなんだろう…」


 私は村の端でひとり静かに戦略を練りながら、心の中で決意を固めていた。しかし私の中で蠢いている不安とプレッシャーは大きかった。アニメの中で見た連携攻撃がもし本当に可能なら、私たちが抱える強敵にも立ち向かえるかもしれない。けれど、その為には戦えるだけの意思と力が必要になる。二つとも私には欠けているものだった。


「もっと強くならなくちゃ…」


 私はそう呟きながら、スケッチブックの上に描かれた図を見つめた。そこには、ルナお姉ちゃんにリーゼお姉ちゃんの二人の力で起こる事象が書かれていた。ここに私が混ざることは出来ない。不協和音があれば、綺麗な音色にならない。あのブラックドッグたちを倒せない。けれど私は同時にこうも考えていた。


「どうしてこの絵の中に立てないんだろう…」


 一人の迷える子羊の独り言は風によって掻き消されていく。少女は相談することも出来ずに黄昏の空を眺めるのだった。


「マーヤ?何してたの?」


 突然、背後から誰かの気配がした。振り返ると、そこにはルナお姉ちゃんが立っていた。少し疲れた表情を浮かべながらも、お姉ちゃんは心配してくれていたのか私の姿を見て安堵していた。


「ルナお姉ちゃん…」

「怒ったりしないから、マーヤの言いたいことを言ってごらん?私はマーヤに辛い想いをしてほしくないな」


 私は一瞬言葉に詰まる。ルナお姉ちゃんは優しい笑顔で私の隣に座る。私は勇気を出して口を開いたのだった。


「私、思いついたことがあって…。ルナお姉ちゃんの見せてくれたアニメを見て気がついたの。三人の合体技、それがあればあの大きなブラックドッグにも勝てると思うの…」


 私は少し顔を赤らめながらも、自分の思考を伝え始めた。


「連携攻撃…!そうだ、忘れてた!三人分の魔力を共鳴させることによる魔力の渦は三倍じゃなくて三乗の効果を持つ…!なんでそれを思いつかなかったんだろう!」

「みんなの力を合わせて、強敵を倒す。その方法しかないと思うの…。それぞれの特性を活かして、一つの大きな力にする。たぶん、それができればあのブラックドッグの主に立ち向かえると思う」


 ルナお姉ちゃんはしばらく黙って考え込み、それからゆっくりと口を開いた。


「じゃあそれをリーゼにも伝えに行かなきゃ!行こうマーヤ、私たちであのブラックドッグを討伐しなきゃ!」

「ありがとう、ルナお姉ちゃん!一緒に頑張ろっ!」


 私は力強く答えてルナお姉ちゃんの手を握る。私たちは手を繋いで村長の家へと歩き始めるのだった。



「お邪魔します」


 ラジエルとエリスは村長の家に入った。古びた木の扉を閉じると、部屋の中には重苦しい沈黙が漂っていた。村長は机に肘をつき、深い皺の刻まれた顔で静かに二人を見つめる。


「お呼び立てして申し訳ないな。だがこの村を守るためには、もう天使様に頼るしかない。エリス、天使様を連れて来てくれてありがとう」


 ラジエルは村長の言葉に頷きながら椅子に座る。エリスも緊張した面持ちで隣に腰を下ろした。


「ブラックドッグの弱点について教えてください。私たちがあれを倒し、この村を守るための手がかりを知りたいんです」


 ラジエルの声は冷静でありながらも、どこか焦りを含んでいた。村長は一つため息をついて語り始めたのだった。


「厄災の魔女が遺した厄災の獣の瘴気によって私たちの住むこの地が呪われてしまった。それによって各地であらゆる厄災になり得る災厄が溢れ出した。五年前、アヴァロンの扉もそのうちの一つとしてカムランの丘に現れた。その影響でこの村は半壊し、そして――お前の母親も命を落とした。エリス」


 その言葉に、エリスの表情が硬直する。


「お母さんが…そのせいで…?」


 震える声でエリスが呟く。


「そうだ。お前の母は村を守るため、ブラックドッグと戦った。しかし、扉からあふれ出す力を止めることはできなかったんだ」


 村長の言葉に、ラジエルの表情も険しくなる。


「ではその時はどうやって扉を閉じたんですか?方法はあるのですか?」


 村長はしばらく沈黙した後、低い声で答えた。


「モルドレッド=ペンドラゴンという騎士が現れたのだ。彼女は『聖剣クラレント』を手に、扉を閉じた。だがモルドレッドは村の半数の人とエリスの母を守れなかった罪に苛まれて放浪の旅へと出ていってしまった。今彼女がどこにいるかもわからない。そして今この村には聖武器と呼ばれるものはない」

「聖武器…古の時代から伝わる大セブンス島の土地由来の遺物。現在在処が判明しているのはキャメルフォードにあるカルンウェナンとメタトロンの持つロンゴミアントのみだ」


 ラジエルは思案顔になりながら呟いた。


「つまり聖武器なしでは扉を閉じることは不可能、ということですか?」


 エリスの言葉に村長は静かに首を縦に振る。


「一つだけだがある…私としても苦肉の策なんだけれど」


 村長の言葉に、ラジエルとエリスは顔を上げた。だが、村長の表情は深い苦悩に包まれていた。


「魔力の高い者を、アヴァロンの扉に捧げることだ」


 その言葉に、空気が凍りつく。


「捧げるって…?」


 ラジエルの声は驚愕と怒りを含んでいた。村長は重々しい口調で続けた。


「アヴァロンの扉を通り、その身をもって扉を閉じる。これにより扉から漏れ出す力を抑えることができる。ただし――」


 言い淀む村長を、エリスが促す。


「ただし、何ですか?」

「扉を通った者は、天国にも地獄にも行けない。『妖精域』を彷徨う亡霊となるのだ。そこから戻ることは決して叶わない」

「冗談じゃない!」


 ラジエルが机を叩き立ち上がる。


「そんな方法、受け入れられるはずがない!それはただの犠牲、閉じることだけを目的としたやり方です。私たちの目的はあの扉を閉じて、また穏やかな生活が送れるようにすることなんですよ!」


 村長はラジエルの激昂を黙って受け止めた後、静かに言った。


「私も同じ気持ちだよ。しかし、他に方法がない。代償を払ってでもやらなければいけないのだ。ブラックドッグの主が再びこの地に降り立った時、この村だけでなく周辺の大地が飲み込まれる。それだけは止めなければならない」

「…やるしかないんだよね」


 静かに呟く声が、その場を支配した。


「エリス…?」


 ラジエルが驚いて振り返る。エリスは立ち上がり、村長を真っ直ぐに見据えた。その瞳には迷いがなかった。


「私が生贄になります。アヴァロンの扉を閉じるのは私しかいない」

「そんな馬鹿なことは言わないでエリス!」


 ラジエルがエリスを強く制する。


「君がそんなことをする必要はない!私たちで別の方法を探す!絶対に他の手段があるはずなんだ!」


 エリスはラジエルの言葉を振り切るように首を振った。


「でも時間がないんだよ、ラジエル。この村を守らなきゃいけない。お母さんも、私を守るために戦ってくれたんでしょ?だったら、私も戦うしかない!」

「エリス…」

「私は…ずっと後悔してた。何もできなかった自分が悔しかった。だけど、今は違う。この力を持っているのは、きっとこの時のためなんだよ。だから、やらせて」


 その言葉に、村長は目を閉じ、深く頷いた。


「…ありがとう、エリス。だが、無理はしないこと。もし他に方法が見つかれば…」

「うん。それまではみんなと戦うよ」


 エリスは微笑んだ。しかしその笑顔の奥に秘められた覚悟を、ラジエルは理解していたのだった。


――――――――――――――――――――


 村長の執務室を出るとラジエルはエリスの肩を掴んだ。


「エリス、君を生贄にするなんて絶対に認めない。何があってもだ。私がなんとかする」


 エリスは少しだけ寂しそうに笑った。


「ありがとう、ラジエル。でも、もしその時が来たら、私を止めないでね」


 ラジエルは答えられず、ただ拳を強く握り締めるしか出来なかった。



「ただいま帰りました」

「何をしてたんだいマーヤ。心配したんだよ?」

「私、あの…」

「ごめんラジエル。マーヤは作戦を考えてくれてたの。だから許してあげて?」

「わかった。次から何処かに行く時は必ず一言声をかけること。いいね?」

「うん、わかった」

「それで、何かいい案が見つかったの?」


 ラジエルが冷静に尋ねた。マーヤは頷き、もう一度自分の考えを説明し始めた。


「実は、みんなの力を一つにまとめる連携技を考えたの。でも、それにはルナお姉ちゃん、リーゼお姉ちゃん、そして私の力を完璧に合わせる必要があるんだ。そうすれば、あのブラックドッグの主にも立ち向かえると思う」


 リーゼは少し考え込むと、優しく微笑んだ。


「確かに、私たちの力を合わせればより強力な攻撃ができるかもしれませんね」

「そうだね。魔力を共鳴させるには私たちの絆が深くなきゃだね」


 私の見た沢山の映像の中の魔法少女たちは数多の連携技を成し遂げる為に何度も挑戦していることを知っていた。


「私たちの力が合わさったとき、何が起こるかは予測できない。でも、試さないことには何も始まらない!」

「それじゃあ、今すぐ特訓しなきゃですね。時間が惜しい」

「うんっ。疲れてるけど、やるしかないもんね」


 リーゼと共に外へ歩き出す中、マーヤは自分の意見が通ったことが嬉しかったのか顔がへにゃっと溶けていたのだった。


「マーヤさん、行きますよ」

「あ、うんっ!今行く!」

「今度こそ、必ずあの敵を倒すよ!」


 夜の帳が下りる中、私たちの決意は固まった。さあ、修行の開始だ。


――――――――――――――――


 そして気づけばカムランの丘から暁が登り始めていた。食事に休憩、睡眠の時間もしっかりと取りながら私たちは修行を乗り越えて連携必殺技が完成したのだった。


「朝ごはん食べて、お風呂入って休んだら決戦になると思う。だからみんな準備しておいてね」


 戦いの準備が整った時、再びブラックドッグとの決戦が始まるのだ。私たちはそれに向けて休息を取るのだった。



 私たちが修行に励む中、エリスは一人母の墓へと足を運んでいた。夜風が草原を撫で、静寂が辺りを包み込んでいる。


「お母さん…。私、悪い子だよね。お母さんが命を落とした原因を掘り返しちゃった。みんなの平穏を壊してしまったんだ…」


 墓前に膝をついたエリスの手には、小さな野の花の束が握られていた。それを墓石にそっと置き、震える声で語り続ける。


「村長から聞いたよ。お母さんは村を守るためにブラックドッグと戦ってくれた。それなのに、私はまた村を危険に晒そうとしている…。私がいなければ、もっと平和だったのかな」


 その時、草むらがざわめく音が聞こえた。警戒したエリスは咄嗟に剣を構える。やがて茂みから姿を現したのは、一匹のブラックドッグ。だが、その首には赤いリボンが結ばれているのが見えた。


「そのリボン…まさか、お母さんなの?」


 ブラックドッグはエリスの言葉に答えるように小さく頷いた。驚きのあまり目を見開くエリスに、ブラックドッグはそっと近づいていく。


「どうして…お母さんがブラックドッグに?何があったの?」


 次の瞬間、ブラックドッグの体が柔らかな光に包まれる。その輝きの中から現れたのは、見覚えのある女性の姿――エリスの母だった。母の面影をそのまま残したその姿に、エリスは言葉を失った。


「エリス…久しぶりね」


 静かで優しい声に、エリスの胸の奥が熱くなる。


「本当にお母さんなの…?でも、どうして妖精の姿に?」


 母は少し悲しげに微笑むと、ゆっくりと説明を始めた。


「私は今、ブラックドッグという名の妖精。けれどあなたを守りたいという思いが、この姿を取らせているのかもしれないわ」


 エリスは震える声で問いかけた。


「そんな…どうしてお母さんがそんな目に…。お母さん、村を守るためにあの扉と戦ったんだよね?それで命を落として…」


 母は優しくエリスの手を取った。


「そうね。あの時、村を守るために戦ったけど、すべてを守ることはできなかった。だけど、あなたがこうして生きていてくれる。それだけで私は救われたのよ」

「でも、私は…。私が今、また村を危険に晒してしまうかもしれない。ブラックドッグの主を倒すには、私が生贄になるしかないって…」


 エリスの声は次第に涙で詰まり、ついには嗚咽に変わる。母はその肩をそっと抱き寄せた。


「エリス、そんなことを考えてはだめ。命を犠牲にする方法なんて、絶対に選んではいけないわ」

「でも、お母さんだってそうしたじゃない!私が今、同じことをしなければ村を守れないかもしれないんだよ!」


 母はその言葉に少しだけ厳しい表情を浮かべた。


「私はあなたに、命を捨てて戦ってほしいなんて思っていない。エリス、戦うことと犠牲になることは違う。あなたには、仲間がいるのでしょう?」


 エリスは頷く。


「そう。仲間と力を合わせて、違う道を探してほしい。犠牲を前提とするのではなく、未来を切り開くための戦いを選んでちょうだい。あなたの命は、ただ一つしかないのだから」


 母の言葉に、エリスは瞳を大きく見開いた。そして、涙を拭い、静かに頷く。


「…分かった。私、諦めないよ。お母さんが戦ってくれたように、私も最後までやれることをやる!」


 母は優しく微笑み、エリスを抱きしめた。


「それでいいのよ、エリス。それが私たちの家族の強さだから」


 だが、その時遠くから不気味な遠吠えが響き渡り、空気が一気に緊迫する。母が顔をしかめる。


「エリス、急いで仲間たちのところに戻りなさい。ブラックドッグの主が動き出すかもしれない」

「お母さんは…?」

「私は大丈夫。あなたの行くべき場所で、すべてを終わらせてきなさい」


 エリスは母の言葉に頷き、修行中の仲間たちの元へと全力で駆け出していった。後ろを振り返ると、母が静かに微笑みながら手を振っている。その姿を見届けると、エリスの心は決意で満たされていた。



 村長の家で私とマーヤとラジエルと共に最後の作戦確認をしていた。


「この連携技、本当にうまくいくかな…」


 マーヤが不安げに呟くと、私は自信ありげに笑った。


「大丈夫だよ、マーヤ。私たちはちゃんと特訓してきた。あとは信じてぶつかるだけ」

「そういえば今日は光属性じゃないんだな」

「うん。殲滅戦だから今日は炎属性。だからいつもと違って髪と目が赤かったりするけど、気にしないで?」

「ふうん、ルナは色んな魔法を扱えるんだな。ちなみに何属性扱えるんだ?」

「えへへ、五属性!」

「ごっ…!?」


 ラジエルが驚いていたちょうどその時、エリスとリーゼが戻ってきた。


「おかえり、エリス!準備はできた?」

「うん、大丈夫。みんなと一緒なら、絶対にこの戦いを乗り越えられる。行こう、決戦の地へ」


 私たちの士気は高まり、決戦への覚悟が固まった。そして、ついに日の光が村全体を照らし出すころ、戦いの時がやってきたのだった。

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