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魔法少女ビビット・マジカ  作者: 雪音月華
魔法少女ビビット・マジカ〜運命の胎動〜
37/42

第37話〜迫りくる獣との死闘〜

 荒れ果てた平原。灰色の空が覆う中、魔法の光と黒い影が激しく交錯していた。ブラックドッグたちは獰猛な唸り声を上げながら、牙を剥き出して仲間たちに襲いかかってくる。その巨大な体躯と素早い動きに、一瞬でも気を抜けば命を奪われかねない。


「こっちだよっ!」


 光の剣を振りかざしてブラックドッグを一匹ずつ消滅させていき、ブラックドッグによるヘイトを集めていると、リーゼは覚えたての光属性魔法の詠唱を始めた。


「神聖なる光をもって、浄化の奇跡を齎せ!ディヴァイン・レイン!」


 リーゼの手元に純白の光の弓が出現し、弓から放たれた光の矢がブラックドッグたちの体を貫いていく。黒い影が散るように、その存在が消え去っていく。しかしその背後から、さらなるブラックドッグが迫ってきた。


「くっ……!数が多いですねっ…!」


 リーゼが防御の構えを取ろうとしたが、間に合わない。瞬時にマーヤが駆け寄り、光の盾を展開した。


「私に任せて!セイクリッドミラー!」


 光の障壁が、ブラックドッグの突進を受け止めると、そのまま弾き飛ばした。衝撃で空気が震え、光の中に影が散った。その隙に、ラジエルが正確な一撃を放った。


「動きが直線的で処理しやすいっ…ラジエルの書第十二章、嵐の詩!」


 風属性の魔法矢を扇状に掃射するとラジエルは冷静に指示を出した。その言葉通り私たちは互いの動きを見極め、戦場を次第に掌握し始めた。だが油断した瞬間、戦局が一変する。


「エリス危ない!」

「グオオオオッッッッ!!!」


 直感的にマーヤが声を上げる。しかしエリスが剣を振り下ろした瞬間に突然、平原全体に耳障りな音が響き渡った。それは、歪んだ鈴の音のようでもあり、何かが軋むような音にも聞こえた。辺りの空気が不安定に震え、遠くの大地がひび割れるように揺れる。その震動と共に、扉が怪しく光り始める。黒い影がそこから現れた。それは他のブラックドッグとはまるで異なる存在だった。


「新手……!?」


 扉の奥から巨大な影に目を見張る。そこに立っていたのは、ブラックドッグたちよりも遥かに巨大で、異形の存在だった。赤黒い紋様が体を覆い、目は底知れぬ憎悪を湛えている。黒い体からは圧倒的な殺気が漂い、空気すらその圧力に屈しているようだった。


「こんなに大きいなんて……」


 マーヤが息を呑んで呟く。すると周囲のブラックドッグたちは一斉に主を称えるかのように遠吠えが平原に響き渡る。その共鳴した音波は目に見える程の衝撃波となりて私たちへと襲いかかる。


「強大な力ですね……!」


 リーゼがその気配に身を縮ませ、身構える。その声には、明らかな恐怖が混じっていた。


「エリス、下がって!これは私たちだけで――」


 危険を察知してエリスに言うがその言葉が終わる前に、エリスは自ら一歩前に出た。彼女の瞳には揺るぎない決意が宿っている。


「いいえ……これは私が成すべき罪だから…!」


 エリスの瞳に宿る力強い意志に、仲間たちは黙って頷く。しかし、目の前のブラックドッグの主が足を踏み出すたびに周囲の地面が砕け、その一歩で大地が歪む。その気配は、何もかもが無力であることを感じさせた。


「くっ……なんて力なんだ……!」


 ラジエルが膝をつき、重圧に耐えられずに崩れ落ちる。その瞬間、ブラックドッグの主が低く唸り声を上げる。その響きが全身に死の波動を送り込むように感じ、仲間たちの動きが鈍くなる。


「だめ……こんなの、どうやって――」

「これ以上、誰も犠牲にさせない!」


 リーゼがつぶやくが、その言葉も途中で途切れた。エリスは再び剣を構え、ブラックドッグの主へと突進した。その熱い想いを込めて、エリスは剣を前に突き出す。光がその剣に宿り、主の首元へと突き刺さろうとしていた。しかしその一撃は、主の巨大な前足に簡単に弾き返された。エリスはその衝撃で吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。


「きゃぁああああっ!」

「エリス!」


 私は叫びながらエリスの元に駆け寄ると、エリスは必死に体を起こした。


「大丈夫……まだ、終わらない……!」


 エリスは地面に手をついて起き上がり、もう一度剣を握り直す。その目にはまだ諦める様子はないが剣に宿っていた光が弱まりだしていた。状況は一層厳しくなって、エリスは勝つ為の方法を条件反射で思考してしまう。しかしその隙が命取りになることを彼女は知らなかった。


「グオオオオッッッッ!」

「えっ…………?」

「エリス逃げてっ!」


 ブラックドッグたちが再び一斉に突撃してきたのだ。エリスは死の恐怖に目を瞑った。しかし聞こえてきたのはブラックドッグたちの弱々しい鳴き声だった。


「キャインッ!」

「グルルルルッッッッ!」


 エリスは目を見開くと驚くべきことに、一匹の赤いリボンの付いたブラックドッグがエリスを庇うように現れた。


「グォォォッ!」


 赤いリボンのブラックドッグは飛び掛かってきたブラックドッグをあっさりと倒していく。エリスはブラックドッグが身につけていた赤いリボンに既視感を感じながらも驚きが隠せなかった。


「一体……どうして?」


 助けてくれたブラックドッグは、何事もなかったかのように走り去っていってしまった。エリスはその出来事に驚いているとラジエルは冷静に口を開く。


「一度体勢を立て直すべきだ。私が殿を務めるからみんなは撤退して!」

「いや、ここで決め切る!ここでやらなきゃ、エリスの村に被害が出る!」

「ルナ!」


 ラジエルの指示を無視し、魔法を詠唱し始める。その声色は震えていたが、勇気を振り絞って言ノ葉を紡いでいく。詠唱が進むにつれて空気が震えはじめ、周囲の魔力が一人の少女のリボンへと吸収されていく。


「汝、言霊の精霊。闇を裁く光の鉄槌がここに顕現する。燃えろ、燃えろ、燃えろ、燃えろ。我が魔力を炉心へと焚べよ。我が魔法はこの一時魔法少女を忘れ、兵器へと成り果てる!星骸の呪いの侵食が進んでも知るもんか!いいから早く!私に、力を寄越してよ!」


 詠唱が完成していくにつれ、四つの魔法陣が展開していく。その魔法はブラックドッグたちに向けて放たれる最も強力な一撃へと昇華するのだ。


「これで倒れて!フォトン・パニッシャー!」


 掌を空に掲げると同時に一番高く設置された魔法陣より降り注いだ光の柱は、二つ目から四つ目の魔法陣を通過して威力が増大していく。眩い閃光はブラックドッグたちを包み込み、地上へと降り注いだ。空気が震え、大地が揺れるような衝撃が走る。周りのブラックドッグたちは消滅していったが、一人の魔法少女が放った特大の必殺技を直で喰らったはずのブラックドッグの主は深傷の傷を負っているだけで生還していたのだった。光の柱の範囲外にいたブラックドッグたちは恐怖に駆られ、扉の向こう側へと走り去っていく。一際大きいブラックドッグの主も足を引き摺りながら扉の向こうへと撤退していったのだった。



「いらっしゃい、カムラン村へようこそ」


 戦いを終えた私たちは村の門へとたどり着いた。エリスはラジエルの肩に捕まりながら村への歓迎の挨拶をしてくれるのだった。自然豊かで穏やかな村ではあるがそんな感想すら出てこない程傷つき疲労困憊の私たちは無言のまま村の入り口をくぐった。


「やっと着いた…」

「ブラックドッグを退治してくれてありがとうございます」

「お姉ちゃんたち強いね」


 中にいた村人たちは、彼らの姿を見つけると一斉に駆け寄った。その顔には安堵の表情が広がり、やがて歓声が上がる。戦闘の音を聞いていた村人たちは、不安と恐怖に震えていたのだろう。私たちの援護は彼らにとって希望そのものだったのだろう。


「ありがとう……! 本当にありがとう……!」


 ひとりの壮年の男性が震える声でそう言い、私の手をぎゅっと握った。その言葉を皮切りに、周囲の村人たちが口々に感謝の言葉を投げかけた。


「助かったよ!」

「神さまが遣わした英雄たちだ!」

「私たちは、英雄というには程遠いですよ。私たちは魔法少女。助けを求める誰かを笑顔にするのが生き甲斐ですから」


 小さな子どもたちは無邪気な笑顔を浮かべて、リーゼやマーヤに駆け寄ったり握手を求めていた。子どもたちの笑顔を見て、私も少しだけ微笑む。しかし、村全体を見渡した瞬間、その笑顔は消えることとなる。


「酷い…」

「苦しそう…」


 村の至るところで、血だらけの村人たちが座り込んでいる。多くの男性たちは武器を手放し、女性や子どもたちが涙ながらに彼らの傷を拭いていた。村人たちの喜びの裏側には、戦いがもたらした深い傷跡が確かに残っていた。


「……大丈夫ですか?」


 疲れた声でそう問いかけたが、誰も答えることができない。ただ少女の目を見て、感謝の思いを伝えようとするだけだった。その視線を受け止めた私は、胸が痛くなるだけだった。そんな中、ひとりの村人が歩み出た。落ち着いた様子の男性は疲労感が拭えていないのか少し引き攣った笑顔で歓迎してくれたのだった。


「エリス…お前が連れてきてくれたのか…。ありがとうございます、冒険者さん。村長が、ぜひあなた方とお話をしたいと申しておりました。どうかこちらへ……」


 私は静かに頷き、村長の元へと向かうことに決めた。しかし、歩き出そうとした時、ふとリーゼが足を止めた。


「ルナさん、先に行っててもらえますか…?」


 リーゼの目線の先では修道士たちが集まり、負傷者の治療に追われていた。村の広場に設けられた臨時の救護所では複数のテントが張られ、血で汚れた包帯や薬品が乱雑に散らばっている。あちこちで負傷者のうめき声や泣き声が響く中、修道士たちは声を張り上げて動き続けていた。


「早く、こちらの包帯を持ってきて!」

「血が止まらない!誰か手伝って!」


 修道士の一人が焦燥感を隠せない表情で叫んでいる。別の修道士は、明らかに疲れ切った顔で祈りを捧げながら、傷口に手をかざしていた。しかし彼女らの手は震え、明らかに限界に近い状態だった。リーゼはその光景を一瞬じっと見つめると、落ち着かない様子で歩き出した。


「見ていられません…。私も手伝ってきます…!」


 そう言うとリーゼは修道士たちの輪の中へと入り、的確に指示を飛ばし始めた。


「この包帯を取ってくれますか?そう、そこにいる人の腕を少し上げてください」


 負傷者のそばにひざまずき、リーゼは目を閉じて詠唱を唱える。


「聖なる光よ、この傷を癒したまえ……『ヒール』」


 リーゼの手から柔らかな光が広がり、傷ついた村人たちの体を包み込む。光が消えた時、傷は徐々に癒え、村人の苦痛に歪んだ顔が穏やかになっていた。


「あなた、もしかして修道士なんですか?」


 驚きの表情を浮かべた修道士が、リーゼに声をかける。


「はい。ルティナの教会で修道士をやっていましたから」


 彼女はそう答えながらも手を止めず、次々と負傷者を癒していく。その手際の良さに周囲の修道士たちが感嘆の表情を浮かべ、次第に彼女の指示に従って動くようになった。その様子を見ていた私は疲れた顔にわずかな笑みを浮かべる。


「さすがリーゼ、頼もしいなぁ」

「ありがたい限りです。では皆さん、村長の元へ案内します」


 案内人に導かれるようにラジエルとエリスは歩き始めるが私はすぐに誰かがいないことに気づき、辺りを見回した。


「あれ、マーヤ……いない……?」


 彼女の姿は、いつの間にか消えていた。


「全く、あの子は…。ルナちゃん、マーヤを探してきてくれるかい?」

「うん、わかった。あとで村長とのお話の内容聞かせてね」


 私はラジエルたちと別れ、マーヤを探す為に村を探し始めるのだった。



 一方その頃、マーヤは村の端にある木陰のベンチに腰掛けていた。手にはルナから借りた幻影水晶を大事に持ち、その中に映し出される映像を食い入るように見つめている。水晶が映し出していたのは『魔法少女のアニメ』だった。これはロンディムに着く前にルナお姉ちゃんに見せてもらったアニメだった。


「何かヒントがあればいいんだけど…」


 画面の中では、主人公たちが強大な敵に追い詰められていた。必死に戦うも敵の圧倒的な力に歯が立たず、街は敵の攻撃により壊滅していく。燃える家屋、砕け散ったビルの破片が悉く人々へと降り注いでいく。魔法少女たちはその光景に胸を痛めながら起死回生の一手を模索していた。すると一人の魔法少女が叫ぶ。


『みんな……連携必殺技をするしか、あの敵に勝つ方法は無い。準備して!』


 少女の号令により、仲間たちはそれぞれの魔法を一箇所に集中させる。五つのエネルギーが絡み合い、輝く螺旋を描いて一つの巨大な光となりて敵に目掛けて喰らいつく。光に包まれた強大な敵は巨大な爆煙と共に消滅したのだった。そのシーンを見た瞬間、マーヤは目を見開いた。


「これだ……!」


 彼女は急に立ち上がり、幻影水晶を空へと掲げた。


「私たちに足りなかったのはこれかも……!」


 マーヤの脳裏に、先ほどの戦闘の光景がよみがえる。それぞれが全力を尽くした攻撃は、いずれも敵に通じた。しかし個々の力では強大な敵には敵わないこともわかった戦いだった。ルナお姉ちゃんのあの綺麗な魔法でも、大きなブラックドッグを倒しきることは出来なかった。次に戦うことになったら間違いなく私たちは――――――。


「三人の力を一つにまとめれば……倒せるかも…!」


 アニメのシーンを思い出しながら、マーヤは覚悟を決める。幻影水晶をマジックボックスへと仕舞うとラジエルから貰ったスケッチブックを取り出し、絵を描いていく。ルナお姉ちゃんの特性とリーゼお姉ちゃんの特性、それに私の特性を合わせたらあのアニメのように出来るかもしれない。


「これが親玉ブラックドッグを倒す切り札になる……!と思う…!」


 夕暮れの中、マーヤの瞳には強い決意の光が宿っていたのだった。

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