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魔法少女ビビット・マジカ  作者: 雪音月華
新1章~小さな魔法少女の第一歩~
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新第4話~小さな魔法少女の決意~

「そういえば、ルナさんってスキルカードお持ちですか?」

「スキルカード?なんですかそれ?」


 ボマーとの決闘から数日後、冒険者協会の依頼掲示板を真剣な表情で眺めていた私は、ふとした拍子に声をかけられて振り返った。受付嬢のアリゼさんが身を乗り出すようにして近づきながら、目を輝かせていた。肩の上では、ミケがきょとんとした顔で首を傾げている。


「ニャー?」

「ルナさん、スキルカードは絶対に持っておいたほうがいいです!それがあると、自分の持っている能力をちゃんと理解できるし、これからの道を見つける手助けにもなりますよ!」


 アリゼさんは興奮気味に続ける。


「スキルが分かれば依頼の幅も広がりますし、自分に何ができるのか、どう成長すればいいのかも見えてきます。冒険者なら誰でも持っているものですから、ルナさんも早めに取得しておいた方がいいと思います!」

「は、はあ…」


 勢いに押されて曖昧な返事をしてしまう。それでもアリゼさんの言葉には妙な説得力があった。私は顎に手を当てながら少し考え込む。お母さんの本で「スキル」という言葉は読んだことがある。でも、それを"カード"にして見られるようにする、なんて話は聞いたことがなかった。


「ニャー……」


 ミケが私の頬に前足を当てる。まるで、「どうするの?」と聞いているみたいだった。


「でも…お母さん、スキルカードのこと教えてくれなかったな。どうしてだろう」


 思わず呟いてから、視線を落とす。ぽつりと心に広がる、小さな疑問。


「まあ、アリゼさんがそこまで言うなら…行ってみようかな。教会でもらえるんですよね?」

「はい!星教会で発行してもらえますよ。絶対後悔しませんから!」


 アリゼさんが両手を握りしめ、全力で背中を押してくれるように微笑む。その様子に小さく笑い返して、私は頷いた。


「ニャー♪」


 ミケも同意するように鳴いた。



「ごめんください!」


 星教会の重い扉を開けた瞬間、思わず息を飲んだ。差し込む陽光がステンドグラスを通り、虹色の光が床一面に踊っている。高い天井と厳かな空気に、思わず足を止めてしまう。


「ルナさん」


 ふわりと背後から聞こえた声に振り向く。そこには箒を手に持ったリーゼが、穏やかに微笑んでいた。彼女は手を胸元に添え、ゆったりとした足取りで近づいてくる。


「ニャー♪」


 ミケがリーゼを見て嬉しそうに鳴く。


「あら、ミケちゃんも一緒なんですね。ふふ、今日も元気そうで何よりです」


 リーゼが優しくミーケの頭を撫でる。ミーケは目を細めて喉を鳴らした。


「今日はどうなさったんですか?」

「冒険者協会でスキルカードを取った方がいいって言われて」

「まあ、そうだったんですね。ルナさん、まだお持ちでなかったんですね」


 リーゼは少し驚いたような、でもどこか納得したような表情で頷く。


「うん。リーゼは持ってる?」

「はい、私も持っていますよ」


 リーゼは懐から小さなカードを取り出した。そこには「聖なる祈り」「治癒の手」という文字が浮かんでいた。


「へえ……治癒魔法が使えるんだ」

「ええ。でも、どちらも神様への祈りが必要で……自分の力だけでは使えないんです」


 リーゼは少し寂しそうに微笑む。


「それでもこのカードがあると、自分に何ができるのか分かるから……少し、安心できるんです」

「そっか……」


 私は改めてスキルカードの意味を理解した。自分の力を知ること。それは自分の可能性を知ることなんだ。


「それじゃあ、司教様のところへご案内しますね」



 リーゼに案内されて、重厚な木の扉の前に立つ。


「ここが司教様のお部屋です。少しお待ちくださいね」


 リーゼが丁寧にノックし、中へ入っていく。


「ニャー……」


 ミケが私の肩で小さく鳴く。その声が、少しだけ緊張を和らげてくれた。


「失礼いたします。司教様、私の友人がスキルカードの授与を受けたいと申しておりまして……」

「ふむ、リーゼヴェルデか。担当のマルクスは今、他の街へ出向いておるが……まあよい。わしが立ち会おう」


 柔らかくも威厳のある声が扉の向こうから響く。少しして扉が開き、リーゼが小さく頷いて私を招いた。


「ルナさん、どうぞ」


 深呼吸してから一歩踏み出すと、部屋の空気が一変した。重厚な書物が並ぶ書棚、淡い香のする香炉、そしてその奥に座すのは白髭の老人——司教様だ。


「おお、君がルナ君か。リーゼヴェルデから話は聞いておる。さあ、こちらへ来なさい」


 私はそっと歩み寄り、彼の前に立つ。緊張のあまり背筋がこわばり、つい手を後ろに組んでしまう。


「ニャー」


 ミケが小さく鳴いて、私を励ますように頬を擦り寄せてくる。


「ほう、可愛らしい猫じゃな」


 司教様が穏やかに微笑む。


「では、ルナ君。君のスキルカードを授けよう。まずは神に祈りを捧げるのじゃ。君が持つ力を、神が正しく見極めてくださる」


 司教様が机に広げた巻物には、金と銀の魔法文字が浮かび上がっていた。厳かなその光景に思わず目を奪われる。私は目を閉じ、静かに両手を胸の前で組んだ。


『私の願い。それは、お母さんが目指した"魔法少女"になること。誰かのヒーローになれるように』


 やがて、手のひらにふわりと暖かい光が舞い降りるような感覚が走る。目を開けると司教様が一枚のカードを私に差し出していた。


「これが君のスキルカードじゃ」


 私は両手で慎重に受け取り、恐る恐る視線を落とす。カードの文字が静かに浮かび上がる。


【魔法制御】


 それだけだった。


「……あれ?」


 私は思わず声を出してしまう。


「これだけ……ですか?」

「ニャー……?」


 ミケも心配そうに鳴く。


「うむ。君のスキルは、魔法制御のみじゃな」


 司教様は穏やかに答える。胸に、ずしんと重いものが落ちた。


「つまり、私……普通なんですね」


 声が震える。


「お母さんはもっとたくさん魔法が使えて、すごく強くて……私も、そうなれると思ってたのに……」

「ルナさん……」


 リーゼが心配そうに私を見ている。


「ふむ。ルナ君、焦る必要はないぞ。魔法制御は魔法使いにとって最も基礎であり——」

「ごめんなさい、ちょっと……外の空気、吸ってきます」


 私は司教様の言葉を遮り、逃げるように部屋を飛び出した。


「あ、ルナさん……!」


 リーゼの声が背中に届くが、立ち止まれなかった。


「ニャー!」


 ミケが私の肩で必死にバランスを取りながら鳴く。



「リーゼヴェルデ」


 司教様の静かな声が部屋に響く。


「はい……」

「彼女を追いなさい」

「でも……」

「彼女は今、一人では抱えきれぬ重みを背負っておる。君ならその重みを分かち合えるじゃろう」


 司教様は穏やかに微笑んだ。


「どういう言葉をかけるべきか、それは君自身が考えなさい。君は優しい子じゃ。きっと、彼女の心を救える」


 リーゼは目を見開き、それからゆっくりと頷いた。


「……はい」


 リーゼは駆け足で部屋を出ていくのだった。



 教会裏の中庭。夕暮れの光が差し込むベンチに座り、膝を抱えて俯く。


「やっぱり……私、特別じゃなかったんだ」


 手の中のスキルカードをぎゅっと握りしめる。


「お母さんはあんなに強くて、かっこよくて……みんなを助けられる人だったのに」


 声が震える。


「私は……ただの、普通の女の子だった」

「ニャー……」


 ミケが私の膝に顔を擦り寄せてくる。いつもの元気な鳴き声じゃない、静かで優しい声だった。


「ミケ……ごめんね。がっかりさせちゃったよね」


 ミケは答えず、ただそっと寄り添ってくれた。


「魔法少女になりたいって……そう思ってたのに……」


 涙が一粒、カードの上に落ちる。


「私、なれるのかな……お母さんみたいに……」

「……ルナさん」


 ふいに、背中から優しい抱擁が降ってくる。驚いて振り返るとリーゼがいた。彼女の表情はただ優しく、そしてあたたかかった。


「リーゼ……」

「探しましたよ」


 リーゼは私の隣に座り、そっと肩を抱き寄せる。


「ごめんなさい……逃げ出しちゃって……」

「いいんですよ。辛い時は、逃げたくなりますから」


 リーゼは優しく微笑む。


「でも、一人で抱え込まないでください。私……ルナさんの友達ですから」

「リーゼ……」

「ニャー」


 ミケが私の手に頭を擦り寄せる。私は小さく微笑んで、ミケを撫でた。


「ねえ、リーゼ……私、お母さんみたいな魔法少女になれるのかな」

「なれますよ」


 リーゼは即座に答えた。


「だって、お母さんはルナさんを認めてくださったんでしょう?」

「……うん」

「それに……」


 リーゼは真っ直ぐ私を見つめた。


「ルナさんは、もう立派な魔法少女ですよ」

「えっ……?」

「だって、困っている人を助けて、誰かのために戦って……そんなルナさんを見ていると、私まで勇気をもらえるんです」


 リーゼの言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなる。


「スキルカードに何が書いてあっても、それは変わりません。ルナさんは、ルナさんです」

「でも……」

「ルナさん」


 リーゼは優しく私の頭を撫でた。


「私、思うんです。大切なのは、スキルカードに何が書いてあるかじゃなくて……ルナさんが、どうなりたいかだって」

「……どうなりたいか」

「はい。ルナさんは、どんな自分になりたいですか?」


 私は少し考えて、ゆっくりと答えた。


「私は……誰かを助けられる魔法少女になりたい。お母さんみたいに……」

「それなら、きっとなれます」


 リーゼは微笑む。


「だって、ルナさんは私を助けてくれたじゃないですか。あの時、私、本当に怖くて……でも、ルナさんが来てくれて、守ってくれて……」


 リーゼの目が、少しだけ潤む。


「だから私、思ったんです。ルナさんは、私のヒーローだって」

「……!」

「スキルが一つでも、十でも……それは関係ないんですよ。大切なのは……」


 リーゼは私の手を握った。


「誰かを助けたいって思う、その気持ちです」

「リーゼ……」


 涙が、今度は温かく溢れてくる。


「ありがとう……」

「ニャー♪」


 ミケが、まるで「そうだよ」と言うように鳴いた。リーゼは優しく私を抱きしめてくれた。その温もりが、胸の奥まで染み渡る。


「ルナさん、一人で抱え込まないでくださいね」

「……うん」

「辛い時は、私に言ってください。一緒に考えましょう」

「……ありがとう、リーゼ」


 私はリーゼの肩に顔を埋める。――ああ、そうか。私は一人じゃないんだ。リーゼがいる。ミケがいる。だから、大丈夫。スキルが一つでも、私は私の道を進める。そう思えた夕暮れだった。

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