第33話〜到着ロンディム〜
「着いたよみんな、ここがロンディムだ」
馬車が街の門をくぐり抜け、ロンディムの広場へと入った瞬間、私はその壮大さに圧倒された。ルティナとはまるで違う、現代的で威厳ある都市の姿が目の前に広がっている。高くそびえる建物、縦横無尽に架けられた橋、蒸気が漂う空気――すべてが新鮮で、どこか異世界に迷い込んだような感覚だった。
「ここがロンディム…すごい、まるで御伽話の世界みたい!」
私は馬車の窓から身を乗り出し、興奮気味にそう呟いてしまった。街全体が活気に溢れていて、行き交う人々の活気や、商人たちの呼び声が絶え間なく響く。その中には、冒険者と思しき人々も多く見かける。
「確かにすごい場所です…!見るからに発展していて、ルティナののどかな雰囲気とは全然違いますね…!
隣のリーゼも同じように窓から外を覗きながら、驚きを隠せない様子だ。彼女は興味深げに、街のあちこちを見渡している。
「ねえラジエル!おっきな荷車みたいなのはなに?」
「あれはね、魔導列車と言ってね。火の魔鉱石を用いて水を燃焼させて動く、とても大きな荷車さ。あれで人を運ぶこともできるんだよ」
「すごい…!」
マーヤは目を大きく開き、都市の機械的な雰囲気に感嘆している。リーゼも初めて見たようで目をキラキラさせていた。勿論私もロンディムには初めて来たのでワクワクしている。
「さあ、まずは宿に行って、荷物を降ろそうか。休息が必要だろう」
ラジエルが冷静に促す。彼女の言葉に、私たちは揃って頷いた。確かに旅は長かったし、興奮のあまり少し忘れかけていたけど、体は正直だ。どこかで休まないといけない。
「早くベッドに行きたい!もう体がバラバラになりそう…」
マーヤが不満そうに呟き、私も同じ気持ちで内心共感していた。馬車の中での長時間の座りっぱなしは、思ったよりも体に堪えている。
「でもラジエルさんが紹介してくれた宿ってどんな感じなの?高級ホテルだったりして…」
冗談交じりに少し期待を込めてラジエルに聞いてみた。
「ふふ、あまり期待しすぎるなよ。居心地は悪くないだろうけどね」
ラジエルは少しニヤリと笑いながら答えた。馬車を走らせること十数分、賑やかな街並みを堪能しながら北地区方面へと進んでいた。
「どうして北へ行くの?東じゃなくて?」
「私のお勧めするところは北寄りなんだ。それに、紹介したいところもあるしね?」
ラジエルの言葉にワクワクしながら窓から外を眺める。ノクナレアの街並みが広がる中、馬車の揺れに少し疲れを感じつつも私は窓から見える景色に目を奪われていた。石畳の道やカラフルな商店の軒先が次々に流れていく。到着したばかりの街に、どこかワクワクする気持ちがあった。
「ロンディムってどういう都市なんですか?」
「ロンディムは昔から大きな商業都市として栄えた街だ。さっき通ってきたのが南地区、商業エリアだよ」
リーゼが興味津々で質問をするとラジエルが説明をし始める。街の南側には賑やかな市場が広がっていて、商人たちが活気に満ちた声で品物を売買している。果物や工芸品、衣類に雑貨まであらゆる物が所狭しと陳列されていてルティナとはまた違った賑わいをしていた。
「すごい活気で観光客も多かったよね」
「この街は四つの地区に分かれているんだ。今通った南地区が街の玄関口でもあり、商業エリアになっている。旅人や商人たちが集まるから、いつもこんな風に賑わっているんだよ」
「じゃあ、住んでる人たちはどこに?」
マーヤが首を傾げながら尋ねた。
「それなら西地区だよ。あっちには住民たちの家や生活に必要な施設が集まってる。外からの人が入ってくる場所とは違って、落ち着いた雰囲気をしているよ」
リーゼが窓の外を見つめながら頷いた。
「確かに住む場所と商業エリアは分けておかないと、住民たちは大変かもしれないですね。観光客や冒険者で騒がしくなると落ち着けないでしょうし」
「そう、だから東地区には観光客向けの宿や娯楽施設が集中している。観光客には嬉しいけど、住民たちはちょっと距離を置けるようになっているんだ」
ラジエルはリーゼの言葉に同意しつつ同意をする。私はその話を聞きながら、馬車の窓からちらりと東の方向に目をやった。街の遠くには高級そうな宿屋や劇場らしき建物が見える。きっとあそこは賑わっていて、夜も眠らない場所なんだろう。
「じゃあ、北は?」
少しの沈黙の後、ラジエルは説明を続けた。
「見てみると良い」
「うわあ…!」
大河に差し掛かるのは大きな橋、そして大河の向こう側には大きな大きな建物が聳え立っていた。
「北には時計塔があるんだ。この街で一番象徴的な建物で、星教会の中で最大とされている場所だよ。ちなみに、教会本部がある王都キャメルフォードの時計塔は、それに次ぐ規模なんだ」
「そんなに大きいの?リーゼ知ってた?」
「噂程度には聞いてました。でも見るのは初めてです」
「でもどうしてキャメルフォードより大きいの?」
マーヤが興味本位で質問をした。確かに、そこは私も気になるところだ。
「星教会はこの街でも大きな影響力を持っているからね。しかも北地区には冒険者協会や王立図書館もあるんだ。特に王立図書館は星教会と共同で、ほぼすべての本が貯蔵されているって言われている。知識の宝庫だよ。それに」
「それに?」
「時計塔の真下にはダンジョンがある」
「ダンジョン、ですか?」
「ダンジョンとは何か、知ってる人は?」
「うううん…」
私たちはあれこれと考えてみたが結局三人とも答えに辿り着けなかった。それを見かねたラジエルは話を続ける。
「ダンジョンとは階層を降りるごとに難易度が格段に跳ね上がって行くが、その分素材も豊富になるしその素材で作った武器や防具は良質なアイテムになる。ダンジョンに毎日潜って生活をしている人もいるほどさ」
「でも何故星教会の中にダンジョンがあるんでしょう…?」
「さあね、それは私も知らない」
「ラジエルでも知らないことあるんだ」
私はラジエルの話を聞きながら街全体がますます魅力的に感じられてきた。南の活気ある商業エリア、西の穏やかな住民エリア、東の華やかな観光エリア、そして北の知識と冒険の中心。ロンディムは、まさに多面的な顔を持つ街だ。
「ここで私たちはどんな冒険をするんだろう……」
私はこれから起こることに夢と希望を抱き、胸が高鳴った。その様子を見てラジエルが軽く笑いながら言った。
「ロンディムはただの通過点じゃない。ここには学ぶべきことも、得るべきものもたくさんある。まずは宿屋で休息をとってから、ゆっくり計画を立てよう」
「うん、わかった!」
私たちは声を揃えて返事をした。川沿いの石畳の通りを軽やかに進む。私たちはロンディムの東地区にある宿屋を目指して進むのだった。
「ここが私のおすすめの宿屋、銀の杯『ニムエの酒』だ。ちなみに由来は湖の女神ニムエがお酒に溺れた地とされているよ」
「それって本当?」
「多分俗説だよ」
馬車が街の中心にある立派な建物の前に停まった。その建物は、まるでレストランのような外観だった。
「ここが宿屋なんですか?レストランに見えますけど…」
リーゼの問いに私たちは確かにと納得しているとラジエルは笑いながら扉を開けた。
「一階はレストラン、二階と三階が宿になっているんだ。旅人にはもってこいの場所さ」
「すごい…レストランと宿が併設なんて最高…!」
「ここに決めましょうか」
「そうだね。マーヤ、ここが良いみたいだし」
マーヤは目を輝かせていた。マーヤの反応を見てすぐにでもベッドに倒れ込みたい気持ちでいっぱいになった。
「よし、部屋に行こう。今日は早く休んで、明日からの活動に備えないと。各自ご飯や風呂を入ってから寝ること、解散!」
ラジエルの案内で私たちは二階の部屋に向かう。部屋に入ると、広々とした空間にふかふかのベッドが二つ並んでいた。私とリーゼが一部屋、マーヤとラジエルがもう一部屋だ。ちなみに隣同士の部屋だ。
「ベッドだー!」
私はすぐさまベッドにダイブした。柔らかい感触が体全体を包み込み、馬車の硬い座席から解放されたことに安堵のため息を漏らす。
「もうダメ…ここから動けない…」
「ルナさん、お風呂へ行かないと…でも、私もやってみてもいいかもですね…」
リーゼも私の真似をして隣のベッドに飛び込む。二人でベッドの上に横たわりながら、しばらく何も考えずにゴロゴロをしていたら気づいたらぐっすりと寝落ちてしまうのだった。
*
翌朝私たちはぐっすり眠れたので今日から本格始動だと意気込みロンディムの冒険者協会に向かった。ロンディムの冒険者協会は大きな石造りの建物で、多くの冒険者たちが出入りしている。
「ロンディムの冒険者協会は大きいね!ルティナの冒険者協会と比べると、活気も規模も全然違う」
私がそう言うと、リーゼも頷きながら周りを見渡している。
「はい。依頼も多そうですし、冒険者の数も多くて緊張してしまいますね…」
中に入ると、クエストボードがずらりと並んでおり、そこには様々な依頼が掲示されていた。依頼の中には、私たちがルティナでこなしてきたクエストよりも難しそうなものがちらほら見受けられる。私たちは受付に向かい、冒険者カードの更新をするのだった。
「リーゼ、見て!私Dランクに昇格してる!」
自分の冒険者カードを見て驚いた。いつのまに上がっていたのだろうか。
「まさかルナ…ヘルメス教団の事件の後、更新をしてないのかい?」
「うっ…!あははは、忘れてた☆てへぺろっ!」
「まあ良いか…結果的に悪い状況になってないしね…。では依頼でも探そうか」
「えええ!?観光は!?」
「何を言ってるのかな?冒険資材を買うにはお金が必要になる。私たちはルティナで初期費用を多く使った。つまり、私たちにはお金がないのだ!そう、あの銀の杯に泊まるお金も数日分しかない!」
「うそお!?」
私は一瞬観光の夢を抱いていたが、ラジエルの現実的な言葉に叩き落とされた。確かに私たちは旅の初期費用でお金をかなり使ってしまったし、冒険資材も尽きかけていてこれでは次の街へ向かえない。せっかくの大都市ロンディムで少しは楽しめるかと思っていたが、そうもいかないらしい。
「こんなところで旅が終わっちゃうのは嫌だ!強くなる為に私たちは旅を始めたんだから!」
そう自分を納得させ、私はクエストボードの前に立つと、次の冒険に向けて気持ちを切り替えるのだった。




