第25話〜買い物と道標(後編)〜
「さあ、ここが私がよく来る武器屋だ。良いものが揃っているよ」
武器屋の扉を開けると、ずっしりとした重厚感のある木の香りが迎えてくれた。店内には多様な武器が整然と並び、剣や槍、弓、そして何よりも目を引くのは、棚の一角に鎮座する短剣の数々だ。それぞれが異なるデザインで、色鮮やかな装飾や精巧な彫刻が施されている。リコリスさんが前を歩きながら振り返った。彼女の声には自信が満ちていて、私たちも期待で胸が高鳴る。店内を見渡し、各種武器に目を奪われたが、リコリスさんはそれに目移りすることなく店の奥へと歩いていった。他の商品も気になってはいるが私たちもリコリスさんの後を着いて行く。
「貴殿らにはこれをお勧めしたい」
リコリスさんが指差したのは、鍔の部分に細かい彫刻が施された銀色の短剣だった。握りやすいサイズ感で、刃先は鋭く、手に取るとその軽さに驚いた。
「これなら、君たちにも扱いやすいと思う」
私はその短剣を手に取った。手にした瞬間、バランスの良さが感じられ、心強い存在感を覚えた。
「本当に軽い!これなら私でも扱えそう!」
私は興奮気味に言うと、リーゼも同様に近くの短剣を選んでいた。
「こっちの短剣、装飾品が可愛らしいです」
リーゼが指した短剣は鞘に装飾が施されたやや大きめ作りをしていた。その短剣を手に取り、リコリスさんはリーゼに渡した。リーゼはそれを手にして、試しに構えてみた。彼女の表情は真剣そのもので、短剣を持つことで自分が一歩前に進んだような気持ちになったに違いない。
「魔法使いが一番苦手とするものはなんだと思う?」
「先読み出来ない相手?」
「違うな、間違っている。魔法の発動を封じられた場合、魔法使いは何も出来ない」
「確かに、どうしようもなくなった時の隠し玉はあったほうがいいですね」
リコリスさんのその言葉に私たちはしっかりと頷く。リコリスさんの言葉は、これからの冒険に向けての真摯なアドバイスのように感じられた。
「はい、わかりました!」
私は短剣をしっかりと握りしめ、その軽やかな感触に心が躍った。リーゼも同様に自分の短剣を手にし、その眼差しには決意が宿っていた。私たちが選んだ短剣は、初めて手にする武器として最適で、自分たちの旅の一歩を象徴しているように思えた。
「これでしっかり旅の準備ができた気がする」
「そうですね。ありがとうございます、リコリスさん」
私は短剣を大事にしまい、満面の笑顔を見せた。リコリスさんの助けがなければ、こんな素敵な短剣を選ぶことができなかっただろう。
「よし。それじゃあ次は私行きつけのカフェに行こうか」
リコリスさんは私たちを引き連れて店を出た。カフェへの道中、リコリスさんの後ろをついて歩きながら私たちは新たな冒険の始まりに胸が高鳴っていた。
*
カフェに着くと、そこは落ち着いた雰囲気で心地よい香りのコーヒーと焼きたてのパンの香りが漂っていた。
「ここは私のお気に入りなんだ。静かに過ごせるし、リラックスできる場所なんだ」
カフェの扉を開けると、甘い香りが漂い、静かな雰囲気が心地よく包み込んでくれた。私たちは窓際のテーブルに腰を下ろし、早速注文をすることにした。
「私はカフェオレをお願い。リーゼは?」
「私ですか?私はミルクティで。リコリスさんは?」
「じゃあ、私はブラックコーヒーを」
飲み物が運ばれてくると、心地よくコーヒーを嗜むリコリスさんを見て口を開いた。
「リコリスさん、強くなるためには何をしたらいいんですか?」
私は思わず言葉を口にした。リコリスさんは静かにカップを持ち上げ、ブラックコーヒーを一口飲むと、私の目をしっかりと見据えた。
「ルナ、強くなるための最初の一歩は気持ちだ。強くなるためには自分の限界を知ることが大切だよ。」
その言葉は私の心に響いた。自分が何を求めどれだけ成長したいのか、それを見つめ直すことが必要だということが伝わってきた。
「自分の限界…?」
私はつぶやきながら、自分の内面を探る。限界を知ることが、強くなるための第一歩なのだと、リコリスさんは強調する。私の心の中には、いつも自分を過小評価してしまう癖があった。
「自分の弱さを認めることが、成長の第一歩になる。」
リコリスさんは言葉を続ける。その声は、まるで私の心の奥底を見透かしているようだった。
「魔法少女ビビット・マジカ、強さとは何かな?」
「強さ…よくわからない…。けど強い人は知ってる…」
「それは誰かな?」
「お母さん。かっこよくて、強い。私の憧れの人」
「星の魔女、カヤ・ナナホシか。確かに強いな。でも君のお母さんはただ力が強いだけだったかな?」
リコリスさんの言葉には疑問が込められていた。力だけではない、その裏に隠れた強さについて考えさせられる。
「ううん、違う。お母さんはいつも優しくて、時には厳しくて。そして何より勇敢で、色んなことを考えてた」
思い出すだけで、胸が熱くなる。母の姿が鮮明に浮かんできた。彼女はただ強いだけではなく、その強さの根底には深い思考と愛情があった。
「カヤ・ナナホシ。星の魔女と呼ばれたあの人は誰よりも強く、誰よりもお節介が好きな人だった。そうだろう?」
「お母さん、いつも何かを考えてた…」
私はポツリと呟く。記憶の中の母は、いつもどこか冷静で、鋭く物事を見抜いていた。彼女の目には、すべてが見えていたかのように思える。周りの人々が考えもつかないような視点から物事を捉え、そしてどんなに絶望的な状況に置かれても、母は決して焦ることはなかった。
「そう、考えることが強さだ。敵が現れた、さてどう倒す?」
「えっと…時と場合によるからわからない…」
「そう、そこに発生する可能性は無限の数がある」
「つまり?」
「つまり、その可能性を増やすことができたら勝つ可能性も上がる。そうだろう?」
リコリスさんは微笑みながら言った。その目には、経験から来る深い知恵が宿っているように感じられた。
「じゃあつまり、色々なことを勉強して知識をつけろってこと?」
私は質問を返す。頭の中で、さまざまな情報を詰め込む必要性を感じた。
「知識も必要だが、それだけじゃ勝てない。知識を活かせる肉体を手に入れる必要がある」
リコリスさんの言葉は、私の思考の流れを変えた。知識を持っているだけでは不十分で、その知識を使いこなすためには体も鍛えなければならないのだ。
「だからみんな鍛えてるんだね、全然知らなかった。」
思わず納得の声を漏らした。これまで強さの意味を表面的にしか捉えていなかったことに気づいた。体を鍛え知識を身につけ、精神を磨く。それが本当の強さにつながるのだ。
「これでルナさんの悩みは解決したかな?」
「はい、ありがとうございます!」
「リーゼさんも参考にするように」
「はい、為になりました。ありがとうございます!」
リコリスさんの言葉は、私の心に新たな決意をもたらした。私はこれからの冒険に向けて、もっと自分を見つめ直し成長していかなければならない。そして母のような強さを持てるように、一歩ずつ進んでいこうと思ったのだった。




